近距離恋愛の落とし穴
「わーーー島だーーー!!」
「ログ溜まんの5日だってよ」
「結構長いね。シャチ、買い物行こうね!!」
「おう」
島に着いた日にデートの約束をして、今はその約束通り二人で街へ出て来ている。
いつもと違うのは私がおしゃれをしている事。
船の上は家みたいなものだから、おしゃれしても意味ないし、普段はホットパンツとTシャツとかだけど、今日はふわふわのスカートにヒールを履いて、化粧もバッチリ。いつもはここまでしないけど、気合い入れて髪まで巻いてみた。どっからどう見ても海賊には見えない。
「ふっふっふー。デート本当久しぶりだね」
「だなー」
私の少し前を歩くシャチは、実は船を降りてから少しおかしい。
なんていうか、そわそわしてるし、いつもだったら隣同士で歩くのに、今日はそれもない。
なんかつまんない。
そう思って、思い切って前を歩くシャチの腕を組んでみた。
いきなりの事にシャチは少し驚いていたけど、いつもだったら笑ってくれるのに今日は何か強ばった顔のまま。
「…?シャチどうしたの?」
「……べつに」
「もしかして体調悪い?」
「そうじゃねぇ」
シャチの煮え切らない態度に、だんだんとイライラしてくる。
「もー何なのよっ」
組んだ腕に、更に絡み付き、シャチの顔を覗き込む。
「っっ、お、お前近すぎだっ」
「はぁ?」
「ちょっと、離れろって」
「なによ、このくらいいつもしてるじゃん」
「いいから、」
「……シャチ、意味わかんない」
するりとシャチから手を離す。
もう、船帰ろうかな。せっかくのデートだったのに。雰囲気台無し。
「ちょ、待てって」
くるりと背を向け歩き出した私の手を掴み、シャチは私の足を止める 。
「……説明してくんないとわかんない」
「だよな…。その、すっげー言いにくいんだけど、引かねぇ?」
「………。なに。」
「怒んなって…」
「3秒以内に言わないと帰る」
「だ、だから!ミアが、いつもと違ぇから…」
「………は?」
10秒はたっぷり空いたと思う。
私の間の抜けた返答に、シャチはしどろもどろになりながら説明を加える。
「オレら付き合って結構長ぇし、別にミアのことなんて見慣れてると思ってたけど、今日のお前すげぇ可愛くしてるから。その、緊張してんだよ。」
なんだ、そんなこと。
可愛いって思ってくれてたんだ、私のこと。
朝、時間掛けて良かった。
「なんだ。シャチくん照れてたの?」
嬉しくてコントロールできない顔の筋肉が緩む。
いひひ、と笑ってシャチを覗き込む。先ほどのいらいらなんて吹っ飛んだ。
「うるせ。…悪いかよ」
「ううん、悪くない。嬉しい」
「そーかよ」
そっぽを向き頬をかくシャチに幸せを感じる。
「でも、手はつなぎたいな」
はい、と私は自分の手を差し出す。
「、仕方ねーなぁ」
私の手を取り、今度は2人、並んで歩き出した。
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