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豚との約束。





「おい豚。これ片付けてろ。」
「……はい、船長」



くそ重い医学書がずしりと両腕に負担をかける。
こうなったのはそもそも私が調子に乗って自分の体型管理を怠り、快適な生活に怠け、あれよあれよと増量に増量を重ねてしまったからである。



「それが終わったら棚と机ピカピカに磨いとけ」
「…はい。」



2週間程前に突然、ローから部屋を出て行けと言われた。それまで“彼女”の特権として船長室を一緒に使っていたのに、いきなり出て行けとはどういう事だ、と、憤慨してみせたら、あの高身長から私を見下して一言「部屋が狭く感じる。出て行け豚。」と言いやがった。
でも、冷ややかなローの目に、瞬時にこれはヤバいと焦った私は、何を思ったか泣いてローに縋り付いてしまった。今思うととんだ失態だ。



「船長、これはここでいいですか」
「聞く前に考えろ。豚。」
「………。」



一言余計なんだよ、この隈野郎…。



ローの部屋にお情けで置いてもらえる条件。
それは、ローの言う事を何でも聞く、という事。
ちなみに今はローの彼女保留中。よって、呼び方は“船長”しか認められていない。



元に戻る条件は“元の体型に戻る事”。
ただそれだけ。


そう、それだけなんだけど…。


最初はなんとかなるって楽観的に思っていた。だけど、2週間経ってもローの態度は変わらずむしろ若干ひどくなりつつある。
何が楽しくて好きな人に豚呼ばわりされなくてはならないのか。確かにローはサドっ気があるけど、私は断じてマゾなんかではない。豚と呼ばれて快感なんて微塵も感じない。



「おい、豚」
「なによ」



棚を端っこから拭きながらローを見る。
彼女が太っただけでこの扱い。なんて器の小さい男なんだ。ここまでしてローに尽くす意味ってあるんだろうか。そんなに好きなのか?この男が?



「お前、ちゃんと減量してんのか」
「努力はしてますー」
「へぇ」
「今日も朝起きて運動したし、食事も気をつけてます」



人が働いてるのに、ソファにだらりと寝そべってこちらを見るローにイラッとして、強い口調で話返す。

私だってこんな生活早く抜け出したい。だからこそ、ローにこき使われる間を縫って、ダイエットしてる。まぁ、ローからのこのストレスと命令が一番ダイエットに役立っているけど。精神的に。



「それが、どうかしましたか」
「いや。別に?ただ……」
「なによ……」
「次の島くらい、豚の脳みそでも理解出来てるんだろ?」



次の島……?
すぐに思い浮かばなくて、頭の中の情報を引っ張りだす。
確か、次の島は………。



「………ロー、まさか…」



血の気がサーッと引いていく。
私の記憶が正しければ、次の島はクルーが喜びそうな、女の人がたくさんいる島だ。もちろんナイスバディなお姉様方とあはんうふんな熱い夜を過ごす事が出来る。ベリーさえ持っていれば。

目の前でニヤリと口の端を吊上げた男を見て、やっぱり私の記憶が正しいのだ、と確信する。



「楽しみだ」
「え、いや、ちょっと、待っ、て……」
「豚は黙って一人寂しく掃除でもしてるんだな」



…………、。


パサリ、と持っていた布が落ちる。



正直、時間が解決してくれると思ってた部分もあった。だからダイエットも、ちゃんとしてたけど、正直そこまで本気ではなかった。
だけど今、自分の考えが甘かった事を身を持って理解する。


この2週間で何キロ落とせた?元通りまであと何キロ?


この男は楽しんでいる。いや、むしろ、楽しんでいるように見せかけて本当は太ってる私に嫌悪感丸出しだったのかもしれない。この暴言も、態度も、楽しんでいるのではなくて、本音かもしれないのだ。
…どちらにせよ、この男は、やる、と思う。



さっきまでの私、アホだ。
彼女に対してここまで酷い事するローの事が、好きかって?



好きに決まってる。
だって、今すっごく嫌だもん。焦ってるもん。泣きたいもん。



「ロ、ロー!」
「あ?」
「ッ、……船長、」
「…なんだ」



怯むな。ちくしょー。胸がキリキリする。
でも絶対ローを他の女に触らせたくない。



「次の島まで、あと何日ですか!」
「………約10日」



本日2度目。血の気が引いた。

10日。無理か?…いや、無理じゃない!
こういうのは、気合いで乗り切るんだ!!



「約束、してください!」
「豚に約束?」



ハッと馬鹿にされたように言われたけど、気にしない。

この2週間でも結構落とせたんだ。本気出したらきっと大丈夫。でもだからこそ、私には原動力が必要なの。
これを、私の10日間集中減量の、原動力にするんだ。



「島に着くまでに、痩せるから、」
「………」
「そしたら、私以外の異性に触れないで欲しい」
「…………豚のくせに束縛か?」



いい度胸じゃねぇか、と、不敵な目を向けたローは、じろりと私の目を見る。その視線の強さに耐えきれなくなって、逸らそうとしてしまいそうになるけど、ここで逸らしたらダメだ。服の裾をぎゅっと握って、私はローを見つめ返す。


数分後、張りつめた空気の中、ローがフッと息を吐いて目を閉じた。そのまま、ソファに深く沈み込み上を向く。



「………豚が女に戻ったらな」



すぐにでも、痩せよう!
まずは、食生活の見直しと運動量の見直しから再スタートだ!













(よし、順調…!)
(……フッ)
(あ、ロ、…船長。なんですか。(鼻で笑うなばかロー))
(リバウンドしたら約束は無効だからな)
(………!!(健康的に痩せろってことね…!不健康医者に言われたくないけど…!!))





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