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飴と鞭。





“おれ、ミアがくまだったら凄くタイプだよ”




というベポのとんでも発言から、私のダイエット生活は始まった。



聞くだけだと微笑ましくてちょっと嬉しくなっちゃうような言葉だけど、実際の会話はそんなものではなかったのだ。




“え、そうなんだ。ふふ、嬉しいな”
“うん。メスのくまでもちょっと小柄な方だけど、おれ小柄な子好きだから”
“……………ん?”
“?”




悪気のない純粋な目で見られては、怒る事も出来ない。
つまり、言い換えれば、私はちょっと小さめのメス熊並みに太ってるってことだ。







「ミアー。もう15周目だよ。休憩したら?」



広い甲板の上をぐるぐると走り続けてしばらく経つ。キュートな顔に似合わないベポの低い声が船縁から聞こえて来て、私は速度を緩めてベポに近付いた。



「…ふぅっ。お水ちょーだい!」
「はい」



冷えた水のボトルを私に素直に差し出すベポは、本当に可愛い子なんだ。
だけど、時々その可愛い巨体から繰り出される無邪気な言葉で私を傷つける。



「たくさん走ったね」
「うんっ。」



水分を欲していた身体に、もらった水を流し込む。ごきゅ、と小気味の良い音が喉を濡らした。



「ミアはどうして急にダイエットしようなんて思ったの?」
「うーんと、…最近体重増えて来ちゃったから」
「ふーん?おれは今のミアが抱き心地良くて好きだけどなー」
「………。それは、ありがとう」
「ほっぺたもぷにぷにしてて可愛いし」
「…………」



それはね。人間の女の子にとっては禁句なんですよ。
どうせ、くまに言ったって分かんないだろうけどね。

…なんて、ちょっとひどい事を言い返したくなったけど、ベポは打たれ弱いから間違っても口にはしない。
私が特別打たれ強いってわけでもないんだけど、可愛いベポを傷つけるくらいならこの悪気のない言葉で自分が傷つく事を選ぶ。でもずっとそれでは嫌だから、こうやってダイエットしてるんだけど。



「大丈夫。私が痩せても、きっとベポ好みのメス熊が現れるよ!」
「そうだといいなぁー」
「ベポ可愛いし、強いし、かっこいいもん!絶対大丈夫!」
「へへ。そうかな?でもおれ、タイプの子がいても、ミアみたいな子じゃなかったらいやだな」
「………。…私みたいな?」
「うん。明るくて、優しくて、前向きで、キラキラしてる女の子」



………でもさ。
ベポはこうやって上手い具合に飴と鞭を使い分けるのよね。



「ふふ。私もベポみたいな男の子じゃないと、見た目が好みでも無理かも」
「じゃーおんなじだね!」



鞭以上に飴が嬉しくて、にっこり笑ってくれるベポを前ににやにやと口元が緩んでしまう。

でも、油断すると、



「でも今日天気いいから、ミアすごく焼けたね」
「…………。」



…ほらね。
笑顔で固まる羽目になるのだ。













(ミアー!おれ今日も手伝う!)
(ありがとーベポ!)
(まだ今日もぷにぷにだから頑張ってね!(ぎゅーっ))
(………測定ありがとう!!(ポジティブにとらえよう…!))
(ダイエットが終わる頃は、おれとミア、反対になってるかもね)
(?)
(おれ、しろくまだから、ミアはくろくま。)
(………残念、今日は日焼け止めバッチリです(にや))





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