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やる気スイッチ





うーんうーん、と海を眺めながら、自分に合ったダイエット方法を考える。だってシャチにもっとぎゅっとしてほしいもん。
…まぁ、だったらこうしてる間に何かしろよ、って感じだけどね。
だけどさ、これをする!って決めてしまわないと、“ダイエットをする”だけじゃ漠然としすぎてて、きっとぐだぐだになって終わってしまう。



「よ、ミア」
「あ。ペンギン」



ふと横から声をかけられて、振り向くとそこにはいつも通り防寒帽を被ったペンギンがいた。



「何か悩み事か?」
「なんで?」
「この時間に甘いもの食べてないから」



確かに、時刻は3時を少し回った所だ。いつもの私であれば、嬉々として食堂に行き、ケーキなりクッキーなりお菓子を貪り食っている。



「……だってシャチに細い子が好きって言われたんだもん」
「まぁ太いヤツよりはいいよな」
「…………女の敵」
「正直なだけだ」


ホントに正直なヤツ。
普通イケメンだったら、“ミアは全然太くないよ”ってお世辞でも言ってくれるのに。



「なんだ?俺に世辞でも言って欲しいのか?」
「な、…!」
「顔に書いてある」
「………エスパー。」



むっと顔を膨らませてペンギンから目を逸らし、私はまた海を見た。



「で?」
「で、って…?」
「…悩み事はそれか?どうやって痩せるか? 」
「………うん」



こう見えてペンギンは結構面倒見がいい。
もしかしたら、いいダイエット方法を一緒に考えてくれるかもしれない。
そう思って、私は言い返す事もなく、それを素直に肯定した。



「そうだな…地道に走ってみるのはどうだ?」
「すぐへばっちゃった」
「じゃあ、腹筋」
「9回で限界」
「縄跳び」
「10回以内で転ぶ」
「食事制限」
「お菓子だけは我慢してるよ」
「飯の時倍食ってちゃ意味ないだろう………」
「…………ごもっとも」



これ以上ごはん減らすなんて、餓死してしまったらどうしてくれるんだろう。
ま、どうせ脂肪があるから簡単には死なないなんて言われるんだろうけど…。



「この際ローに頼んでみ、」
「やだ」
「痛くな、」
「却下」
「……最後まで言わせろ…」



不満そうにそう呟いた後、冗談だけどな、なんてペンギンは笑って言う。

とんだ冗談だ、全く。
ロー船長にそんな馬鹿げた事頼むなんて、そんな恐ろしい事出来るわけない。
いくら能力で脂肪分だけ簡単に出してもらえるからって、痛くないからって、あのロー船長に、頼むなんて無理だ。
確かに切られてる間は痛くないけど、なんて言ったって、気持ち悪い。説明出来ないけど、身体の一部が別の場所にあるって、変な感じがするのだ。
そしてなにより、最悪な事にロー船長は性格が悪すぎる。後でどんな報酬を請求されるかわからない。お金ならまだマシだけど、医療実験されるのだけは、絶対に嫌だ。



「…だからお前は顔に出過ぎだ」
「え、………正直者ですから」



うふ、と笑って、さっきペンギンが言った言葉をそのまま返す。
それに対してクスリと控えめに笑ったペンギンは、次のダイエット方法を提案して来た。



「じゃあ、この際歩くってのはどうだ?」
「歩く?」
「ああ。普通に歩くというよりは、競歩…、いや、早歩きだが。」
「それだけで痩せるの?」
「まあ、すぐにとは言わないが効果はあると思うぞ」



歩くだけ、か…。
うん。それなら私にも出来るかも。



「なんかそれなら出来そうな気がして来た」
「そうか。よかったな」
「うん。1日どのくらい歩けばいいかなぁ?」
「そうだな…。2−3時間くらいじゃないか?」
「2−3時間!??」
「少なくとも1時間」
「………」



なんか、無理っぽい感じがぷんぷんしてきた。
だめだなぁ、やる前から気持ちで負けてる。



「なんだ、無理か?シャチ好みになるんだろ?」
「なる、りたい、……けど」
「じゃあ気合い入れないとな」



いやうんわかってるけどさ。
だんだん面倒になってきたと言うか…。

ぶっちゃけ2時間も歩いてる暇があったら、部屋でゴロゴロしながらファッション誌読みたい。

………なーんて、言ってちゃダメだよね。
横から冷たい視線を感じて頭を振る。



「まぁ俺はミアが痩せようが太ろうが関係ないが。」
「ですよねー」



ちぇっ。わかってるよ。
これは誰でもなく私のためのダイエットだって事。


逃げる事を諦めなければ、ダイエットへの道は開けなそう。
だから、覚悟を決める前の最後の足掻きとして、ふぅ、と小さく溜息を吐いた。



「…ま、ミアがして欲しいなら、歩いてる間暇だろうし、俺も一緒に歩いてやるよ」
「!、ほんと?」



思っても見なかったペンギンからの申し出に、素直に喜んで笑顔を見せた。
それなら、ひとりじゃないし、きっと出来ると思う。というか、やる気が出て来た!



「ああ。仕方ないからな」
「やった!一人じゃ絶対暇だって思ってたんだー。ありがとね、ペンギン!」
「どういたしまして。………。」
「………?」
「もしこれでミアが痩せなくてシャチにふられたら、」
「ちょ、縁起でもない事言わないでよ、」
「…そしたら俺が、ミアをもらってやる」
「…!!」



な、なに言ってんのこいつ…!!
ニヤリと口の端を吊上げてそう言い放ったペンギンの思いがけない言葉に、からかってるだけだってわかってるのに、どうしようもなく顔が熱くなった。



「おっ、お断りします!!」
「ははは、冗談だ」
「趣味悪っ!」














(思ったより歩けるじゃないか(スタスタスタ))
(うん、私もビックリした。ペンギンが面白い話してくれるから時間過ぎるの早く感じる(スタスタはあはあ))
((…………ん?ミア?)おーい、お前ら何やってんの?)
(あ!シャチ!)
(ミアのダイエットだ。(にやにや))
(ふーん………(ペンギンのヤツ何にやにやして…))
(シャチ聞いて!私もう1時間半は歩いてるんだよー!ペンギン博識でホント話してると面白いの!)
(…………………俺も一緒に歩く。)
(え!?いいの!??(やった!))
((明日からは選手交代だな、シャチ。(にやにや)))
((うるせぇペンギン。あっち行ってろ!))







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