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問題は、





「……ん、しょ、……んっ、……はぁっ」



足が動かないようにしっかりとシャチに固定されて、私は腹筋に力を入れて自身の身体を起こす。
だけどぷるぷると震える腹筋に限界を感じて、床に上半身を投げ出した。



「はぁっ、はぁっ、……も、むりっ……!!」
「…………無理ったってお前、…まだ10回もしてねぇじゃねぇか」
「だって、キツいんだもんっ、…はぁ、はぁ、っはーーーーっ」



ゆっくりと長く息を吐き出すと、少しだけ楽になる。

最近ついてきたお肉が気になり始めて、恋人であるシャチに相談した。
どんなダイエットが私に合うかなんてわからなかったから、とりあえずやってみようってことになって。



「お前、ダメ過ぎ」
「う、……もっと優しい言葉をかけてください…。」



シャチの言葉が胸に突き刺さって、情けなくなる。

そう。
シャチはさっきから私のために色々と試してくれてる。だけど、どれも上手くいっていなくて結局は溜息を吐かれているのだ。

走ったら甲板3周でへばり、腕立ては5回。背筋は身体が硬過ぎると小突かれた。そして縄跳びは10回以内で必ず引っかかり、今回の腹筋は9回が限度。

我ながら、自分の運動能力のなさに嫌気がさす。



「つーかさ、出来てはいるんだから後は続けりゃいいじゃん」
「そんな簡単にいうけどさー。大変なんだよ」
「痩せたくねぇの?」
「痩せたいけど」
「じゃあやれよ」



なんだか今日はシャチの言葉がやけに刺々しい。



「シャチ今日ひどくない?」
「べつに」
「ひどい上に冷たいね」



不満げにシャチを見上げたら、反対にじろりと私を見下ろしたシャチは、私の足下から身を乗り出して私のお腹を無理矢理つまんだ。



「ちょ、なにすんの!?」



慌てて身体を丸めて私のシークレットゾーンを庇う。だけど、しっかりとお腹の肉をつまんだシャチはその手を引っ込めると、真顔で私を見た。



「お前さ、仰向けでこんだけ掴めるって結構ヤバいんじゃねぇ?」
「うっ、」



痛い所をついてくる。
しかも、いつにも増して真面目な顔のシャチは私の心を容赦なくどん底に突き落としていく。



「だ、だから、ダイエットしようって頑張ってんじゃん」
「頑張ってねぇじゃん」
「今日いっぱいしたじゃん、運動!」
「全部途中で止めてんじゃんか」
「う、……もーっ!シャチなんで今日そんなに意地悪なの?」



いつもおちゃらけているムードメーカーなシャチだから、真面目な顔をしてるシャチは慣れていない。ってか、ダイエットだってちょっと手伝ってくれたら程度で相談したのに、シャチがこんな風になるだなんて、まさかの展開にどうしてよいかわからなくなる。



「ミア…。実はそんな本気で痩せようとか思ってねぇだろ」
「痩せたいとは思ってるよ。めちゃくちゃ」
「思ってるだけな。でも努力はしたくねぇんだよな」
「そ、んなこと、ないけど…。」



確かに、図星かもしれない。
努力しないで痩せれるなんて、そんな簡単なものではない事なんてわかってるけど、だけど続かないし、面倒くさいし、正直何もせずに痩せれたら、とは思う。



「ホントお前はいつも口だけだよな」



溜息とともに、心底呆れたような声を出したシャチに、カチンとする。



「ちょっと、そんな風に言わなくてもよくない?」
「本当のことだろ。口先だけでさ。本当は痩せたいは二の次で、結局は構って欲しいんだよな?」
「は、はぁー?そんなわけないじゃん」



痛い所をつかれて、少しだけ心臓が跳ねた。
シャチが言っている事が全てではない。本当に痩せたいとは思っている。というか、痩せられたらいいな、と思っている。
だけど、シャチの言う事も、確かに、………合っていると、思う。
お腹のお肉がヤバい事には変わりないけど、でも心のどこかでまだ大丈夫って思って、シャチに構ってもらう口実として相談した、と言われればそれを完全に否定する事は出来ない。


だけど、売り言葉に買い言葉。
私だって人間そんなに上手く出来ていないから、シャチの言葉に反発をしてしまう。



「シャチ、ばっかじゃないの?人が折角相談してるのに、そんな言い方なくない?」
「ミアだって出来もしねぇこと相談してんじゃねぇよ。時間の無駄」
「出来ないなんて誰が言ったのよ?やってやるわよ、ばか!」
「あっそ。じゃあ頑張れよ。」



ひどい。
なんかわかんないけど、今日のシャチはひどい。



「〜〜〜!!もう、シャチのばか!あほーー!!」
「はいはい、アホですよー。」
「ちょっと何それ、やめてよ、もうっ」
「ミアが痩せたら止めてやる」
「はぁ?」
「こうでもしねぇと真面目にやんねぇだろ?」
「え?………シャチ…」



じゃあ、結局私のためってこと?
ちょっときゅんとして、シャチに抱きつこうとしたら、「おっと、」と華麗に避けられた。



「………なんで避けるのよ」
「ん?俺、細い子が好みだから」



サングラスの奥で悪戯好きな瞳が光る。



「俺好みになったら、嫌って程抱きしめてやるからな」



そう言って立ち上がると、頑張れ、と言って頭をぽんぽんと撫でて行ってしまった。










(ばかしゃち………痩せないわけにはいかなくなっちゃったじゃんか…)


((けど、どうやって痩せよう…。肝心な所がわからないよ…))









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