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エースと小さくなった少女【後】





一日なんてすぐで。
一頻り遊んで飯も食って、ミアが子供になっちまった朝からずいぶんたった。
外はもう暗い。
それでもマルコやビスタは小さいミアが余程かわいいのか、疲れなど知らないかのように楽しそうにしている。



斯く言う俺は、実を言うと、この状況をあまり楽しんではいない。
正確には楽しんでいたが、今は、無条件に楽しめない。



それは別に、ミアがアイツらに付きっ切りだからだってわけじゃねぇ。
ただ、だんだん、“俺の知ってるミア”に会いたくなっただけだ。
と、いうか、元のミアはどうなるんだろうか。このまま帰ってこない、なんてことにはならないとは思うけど。
もって数日。薬の効果はそうだったはずだ。
だけど、楽しそうなミアを見ているとだんだんと不安になってくる。本当に、元にもどってくれるのか。本当は、もう元にはもどらないんじゃねぇのか。



「………会いてぇな」



ぽつりと口から零れた言葉は、誰に聞かれるでもなく空気と同化する。
会いたいヤツは目の前にいるのに、会いたい本人に会う事は出来ない。なんともおかしな状況だ。



「ねぇ、マルコー」
「なんだよい」
「ねむい」



自重気味に小さく鼻で笑うと、少し離れた所で目をこすりながらそう訴えるミアに気付く。



「俺が部屋まで連れてく」



頭で考えるより先に、俺はそう申し出て、渋るマルコとビスタを置いてミアの手を引き部屋を出た。



「エースー。」
「ん?」
「だっこ」
「……、お、おう。」



ミアの部屋へと向かっていると、眠た気な目でそう言われて、焦りながらも返事をする。
両手をいっぱいに広げたミアに少し戸惑いながらも、その小さな身体をすくいあげると、その軽さに驚いた。



「わー。エースあったかいねぇ」
「まぁな。部屋まで寝んなよ」
「うん、がんばる!……ん、あれ?エース、わたしのへや、こっちじゃないよ?」
「え?」



知った船内。当たり前のように俺の知っているミアの部屋に連れて行こうとしたが、確かに子供だったミアの部屋が今と昔では違うという可能性もある。
だが、かといって他に寝る所もねぇ。無理矢理ミアの部屋に行ったって、どう説明していいかわかんねぇし。

……。



「ミア、今日は俺と寝るか?」
「エースと?」
「おう。嫌か?」
「うーん……。いいよ!」



にぱっと花が咲いたような笑顔になり、ほっと胸を撫で下ろす。
行き先が変更になり、足先を俺の部屋に向けると、ぎゅうと首周りに抱きついてきたミアの髪が耳元に当たって、よくわかんねぇけど、ドキドキと鼓動が早くなった。



早々に部屋に入って、既に目がとろんとしてきたミアをベッドにおろす。
上からブランケットをかけてやると、ミアは重そうな瞼を上にあげて、俺のズボンの裾を握った。



「…エースは寝ないの?」
「俺は、まだ大丈夫だ」
「……エース行っちゃうの?」



元のミアよりも随分と幼い顔つきだが、それでも元は同じ人間で。
なんとなくいつものミアとダブらせてみてしまって、一気に心臓が波打った。



「…………行かねぇよ」



きゅ、と強く握られた裾からミアの手を外し、火照った頬を隠すように咳払いをしながら答えた。

俺が、家族を置いて、どっか行くわけねぇだろ、。



「よかった」



とろんとした表情の中でふわりと笑ったミアは先程俺が離した手を再び俺に向けた。
その笑顔を見て、俺はどうしても元のミアが懐かしくなる。

たった1日だけなのに、格好は違うとはいえ本人も目の前にいるのに、変だろ。これ。



「エース、わたしがねむるまでここにいてくれる?」
「…当たり前だろ」



そう言ってベッドの脇に座りながら、差し出された小さな手を握り返す。

確か、ミアの手は、この小さな手よりも一回りは大きくて、爪も綺麗に伸ばしていた。
だけど、この温かさだけは変わらなくて、それが胸の中をほっこり温かくして、ふっと笑ってしまった。



「ん、……エース。なにかおもしろいの?」



うとうととしていたミアの声にハッとして、慌てて声を出した。



「わ、悪ィ、起こしちまったか?」
「んーん。だいじょうぶ。エースおもしろいことあった?」
「……いや。明日もいっぱい遊ぼうな」
「うんっ!エースおやすみなさい」
「おう、おやすみ」



握っている手と反対の手で頭を撫でてやると、しばらくして小さな寝息が聞こえてきた。

小さいミアは可愛い。
俺だって、他の奴らみたいに、小さいミアとの思い出ってのが欲しかった。

けど、今はそんな事より何より、早く“ミア”に会いたい。
俺が知ってる、俺が認めた、俺を知ってる、あのミアに。



―−−−―−−−―早く会えますように。













(……っと!ちょっと!!!エースアンタ馬鹿早く起きなさいよ!つーか手離してよっ!)
(ぐがー……、……、ん、……んあ??(パチ))
(あ!やっと起きた!!)
(………。………!!!ミア!!!!(がばっ!!!))
(わっ!ちょ、アンタなに!??いきなり抱きつくなっ(バシッ!))
(いってぇ!!)
(ちょっと何なのよ急に抱きついたりして…(じとー))
(え?…あっ、いや、これは、その……(わたわた))
(しかも私何故かエースの部屋で寝てるし……(じぃぃぃー))
(う、いや、たまたまだって!!わり!俺朝飯行ってくる!!(ガチャ!バタン!ぴゅーん!))
(え!?ちょ、エース!??)
(よっしゃーー!!(ミアがもどった!!))
(………声でか過ぎ…聞こえてるっつの。(ま、本当は記憶全部あるから別にいいんだけど…。でもとりあえずは、どさくさに紛れてセクハラまがいなことした2人に制裁をしなければ))






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