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どちら様ですか?





「…………」
「あっ!キラー!たっだいまー!」
「……ミア…?」



1ヶ月程前に美食の街に食料調達に旅立って行ったミアが、つい先程おれ達の船に帰ってきたのだが、容姿が、なんというか、出て行った頃と変わっていて、本人であるか思わず確認をしてしまった。
元々このくらいの期間で行くというのは聞いていたから、心配すらしていなかったが、この1ヶ月でここまで変わるとは。



「……美食の街は想像以上だったようだな」
「ホントそれ!皆もくればよかったのにねぇ」



ほくほくと笑ってそう答える、この笑顔だけは1ヶ月前とは変わらない。…もののはずなんだが。
これからのことを思うと、少しだけ胃がキリキリと痛んだ。



「てゆうか、キッドは?」
「…中だと思うが。……あ。」
「あ!」



そう答えていると、大きな音を立てて扉が開かれ、船室からキッドが出て来た。
が、目の前のミアを見るなり、目を丸くして固まった。



「キッドー!遅くなってごめんね!会いたかったよー!」



キッドのそんな反応を物ともせずバタバタと駆け寄って抱きつこうとする。以前のミアなら、効果音は“ぱたぱた”が一番合っていたように思うが、今はお世辞にもそうだとは言い難い。



「………てめぇ、誰だ」
「えぇっ!ちょっとキッド酷いなぁ〜」



片手で頭を押さえられて、キッドに抱きつくことは叶わなかったミアがへらりと笑ってみせる。



「確かに食べ過ぎてちょっと太っちゃったけどさぁ」



“ ち ょ っ と ”?

思わずマスクの下からつっこみそうになったが、どうにか止めた。
どうやらキッドも同じことを思っているようで、口の端がヒクヒクと動いている。



「だけど、自分の彼女忘れるなんて酷いぞ!」



ぷん!と腰に手を当てて怒っているフリをしているが、膨らました頬が更に顔を膨張させて見るに耐えない。
以前なら、同じ動作でも可愛らしさがあって微笑ましかったが、今は、ミアには悪いが、本気で鳥肌が立つ。



「………知らねぇ」
「ん?」
「てめぇなんか、知らねぇっつってんだよ!!」



始まったか…。
ぶち切れたキッドはもはや手がつけられる物ではない。
そして、性格さえ変わっていなければ、これを買うのがミアだ。



「ちょ…っ!そ、それどういう意味よ!?」
「そのまんまの意味だろうが!近付くんじゃねぇ気持ち悪ィ!」
「はぁぁ!?なによそれ!?どういうこと!??もしかしてアンタ私がいない間に浮気とかしてたの!??」
「するか馬鹿!!」
「じゃあなによ!?」
「てめぇみてぇなキモデブ女知らねぇつってんだ!」
「…なッ!!!」



キッドの厳しい一言にミアが一瞬怯む。
ああ、胃がキリキリしてきた。
とりあえず今のうちにミアが持って帰ってきた食料を全部船に乗せ込んでしまおう。



「…キ…、そ、そんな言い方しなくてもいいじゃない!確かに少し太ったけど!」
「はぁ!?少し!?てめぇ最後に鏡見たの何ヶ月前だ!?」
「今朝よ!バカッ!」
「お前視力落ちたんじゃねぇのか!?それとも脳みそまで豚と一緒になっちまったのかよ!?」
「豚って、…!せめて彼女なんだから言葉選びなさいよ!」
「おれにクソ豚の女なんていねぇよ!」
「なによそれ!!…ひっ、久しぶりに会ったのに、そんな、言わなくたって……っ」



ああ…。
ミアが泣き出してしまった。本当に面倒だ。キッドも少しは本音を隠せるようになって欲しいものだが、まぁ、キッドには無理だろうな。



「うぜぇ。泣いてんじゃねぇよ」
「う、…だって、…っ」
「今のてめぇが泣いたって可愛いとも思わねぇし、つーかブサイクすぎだ。キモチワリィ」



おいおい。
いくら本当でも、それは言わないのが優しさってものだろう。これらからキッドは困るのだ。
ほらな。ミアが俯いた。



「………き…」
「あ?」
「…の、…そつき」
「あぁ?聞こえねぇよ。」
「キッドのうそつき!!!!」
「あぁ!?」



泣いてる、と思ったが、どうやら勘違いだったようだ。
キッドが顔を歪めるくらいの音量で叫んだミアはそのまま涙目でキッドを睨み上げた。が、やはり以前の可愛さはない。



「嘘つき!!」
「意味わかんねぇこと言ってんじゃねぇよ!」
「どんな姿になっても好きって言ってくれたじゃん!!」
「言ってねぇよ!!勝手に記憶を捏造してんじゃねぇ!!!」
「本当だもん!キッドそう言ってくれたじゃん!!最低!!!」
「てめぇ、好き勝手言ってんじゃねぇよ!!」
「キッドのアホ馬鹿嘘つき!!」
「あぁ!?仮にそうだとしても、今のお前じゃおれの女は無理なんだよ!」
「なんでよ!?アンタは私の痩せてるとこしか好きじゃなかったわけ!?」
「んなこと誰も言ってねぇだろうが!!」
「そう言ってるのと同じじゃない!」



まぁ、正論だな。
言い負けて、今度はキッドがギリと歯を噛み締めた。



「……んなこと、ねぇ」
「じゃあ、何で今の私じゃ彼女ダメなんて言うのよ…」
「そりゃ……」



キッドが意を決したように、顔を引き締めて、拳を前に出してミアを指差した。



「そりゃ今のてめぇじゃ勃つモンも勃たねぇからだよ!!!」
「…………!!!!!」



あ。


今度こそ、ミアが膝から崩れ落ちて泣き出した。相当堪えたようだ。
が、やはり今のミアの泣き顔はお世辞にも可愛いとは言えないみたいだ。













(だって、だって、美味しかったんだもん〜〜(ぐずぐず))
(諦めて痩せろ。早くしねぇと他の女抱くからな)
(やっ、やだぁぁぁぁーーー!!!(うわーん!!))
((うわ…泣き顔ブタみてぇ……))
((絶対元の体型に戻ってやる〜〜!!!))




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