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むぎゅ!





「ゾーロー!」
「ああ?んだよ」
「アンタまだいける?」
「余裕だ余裕。バカにすんな」
「いひひ、私もー!」



そう言ってもう何度目かわからないグラスを空へと掲げてから、一気に喉へと流し込む。冷たい苦みが舌の上を通って胃の中へと入っていく。勢い余って口の端から零れ落ちたお酒なんてもはや気にすることなんてなく、むしろ気付いてすらいない。



「にしても、ゾロってホントお酒強いねぇ」
「ミアも結構飲んでんじゃねぇか」
「んー、でも私結構酔ってるわ」
「へぇ?」



面白そうに片眉をあげたゾロは、自分の持っているジョッキを口に運んだ。

恋人、と言う関係だと、たぶん普通はおしゃれなバーなんかに行くんだろうけど、でも私とゾロにはこうやって飲むのがぴったりで。
サンジ君に作ってもらった美味しい美味しいおつまみと一緒に船の端っこで、こっそりとふたりで飲むのだ。実はこのひとときが私の幸せの時間だったりする。

だって、このマリモ野郎、この時間以外は、筋トレしてるか昼寝してるかご飯食べてるかしかないんだもん!!
ちょこまかとよく動く元気な船長がいるこの船で、二人っきりになれるところなんてなかなかない。
だから、ついついお酒もオーバーリミットで飲んでしまう。



まぁ、だからなのかなぁ…。



「ねーゾロー」
「なんだよ」
「あのねー。サンジ君がさー」
「ああ?クソコックがどうかしたのか?」
「もうお酒くれないってーっ…!!」



そう。サンジ君に今日言われてしまったのだ。
わかるけどさ。私とゾロが揃ったら、この船のお酒なんてすぐなくなるなんてこと。それにナミの財布の紐は固すぎることで有名だしね。



「あんの素敵まゆげ、アホなこと言いやがって…」
「まぁおつまみくれてるから何も言い返せないんだけどね!」
「飯だけは美味いからな。」
「うんうん」



そう言いつつ二人でサンジ君の作った絶品料理を楽しむ。


だけど。


今日でゾロとのこの時間が終わってしまうなんて寂しくて、ついつい感傷的になってしまう。この時間がなくなったら、いつゾロと楽しくお喋り出来るっていうんだ。


そう考え始めてしまうと、段々と気分まで暗くなってきて、グラスの中のお酒を一口飲むと、ふぅ、と小さな溜息を吐いて隣のゾロの肩にこてんと頭を預けた。



「………酒好き」



そんな私をよそに、にやっと笑ってゾロがそんなこと言う。だから、少しだけむっとしてしまって勢いに任せて顔を上げると、至近距離にゾロの顔があって胸がとくんと鳴った。
そしてバチッと目が合った瞬間に、息を吸う隙も与えずキスをされる。


ゾロからお酒の匂いがする。


数秒間繋がっていた唇は、名残惜しそうにゆっくりと離れた。



「……べつに、お酒が好きだから、落ちてるとかじゃ、ないからね」
「クク、酒飲めなくなって気分落ちてるんじゃなきゃ、」



なおもむっとした声を出した私の声に被せるように、喉で笑ったゾロは、鋭く、でも甘い目つきで私を見た。



「おれとこういうこと出来なくなるからじゃねぇのか?」



元々声低いくせに、さっきよりも意地悪に低くして耳元でそう囁かれて。身体がビビビって電気が通ったみたいになる。
すぐ目の前にはお酒のせいで少しだけ赤くなっているゾロがいて、ニヤリと口の端が上がったことを確認したと同時に、もう一度唇を奪われた。


じんじんと身体が熱くなって、口内に入ってきた舌にもっと熱を感じて。
頭がくらくらしてくるのはきっとさっきまでお酒を飲んでいたせい。

ゾロの左手が私の腰を引き寄せて、右手がするりと服の中に入り込んでくる。つつ、と撫で上げられた脇腹に口の端から息が漏れた。

ああ、だめだ。本当に頭がくらくらしてきた。
頭の中がゾロで埋め尽くされる。



だから、


“むぎゅ!”



「…ん、……ふ、ぎゃはぅッ!??」



…だから、急なことになんて上手く反応出来なくて、私は変な声を上げることしか出来なかった。



「ちょ、ゾ、え、なに!?」



この超絶雰囲気のいい中、このバカ剣士はあろう事か私のお腹を、つまんだのだ。
しかも、至極冷静な顔で、つまんだ右手をにぎにぎしながら「あー、やっぱな」なんて呑気なことを宣っている。


意味が分かんない。
本当に、意味が分かんない!
てゆうか私怒ってもいいと思う!!!



「おまえ、太っただろ」
「は!?」



さっきの行動の意味を問い質そうとしたけど、それよりも一瞬早くゾロが、にやり、とさっきよりも楽しそうなでもあくどい顔で笑って、私のお腹を指差した。
あまりの物言いに、正直、私は涙目だ。



「なにそれ!?」
「事実」
「ゾロ酷い!!」
「隠すよりいいだろ」
「でも、言い方とか、雰囲気とか、さ……!」



何が楽しくて、彼氏からこんな仕打ちを受けなければいけないのか。
さっきの雰囲気からのあまりのギャップに悔しくなって、ゾロの胸を殴ったけど、全然堪えてなくて、むしろ私の手の方が痛かった。
そのままゾロにつままれたお腹に手をやる。



“むぎゅ”



……確かに、つまめる、けど……。



「……認めたくはないけど、確かに太った、かも」
「まぁ、運動しねぇのにこんだけ食って飲んでしてりゃな」
「うぅーっ!!他人事だと思って!!」



脳みそまで全身筋肉で出来てるこの筋トレバカまりもに言われるなんて、ショックだ。というか、彼氏に言われることがショックだ。「あーもー!わかったわよ。痩せればいいんでしょ!ゾロのばぁか」なんてブツブツと悪態を吐いていたら、にっと笑ったゾロがこれ見よがしに私の前で酒をあおった。



「………意地悪」



じとりと睨みつけてそう言うと、ゾロの伸びて来た右手が私の左頬を撫でてそのまま頬にかかっていた髪を後ろへと梳かす。そしてその右手を後頭部で止めると、今度は顔を私の耳元に近付けて、身体が痺れるような声を紡いだ。



「元に戻ったら、さっきの続きくらいいくらでもしてやるぜ?」



そのまま耳の後ろにキスなんかされてしまったら、私の顔が真っ赤になってしまうのは必然で。そんな私を見て笑いながらまたジョッキを傾けるゾロには、もう怒る気力なんてない。











(本気で、痩せよう…!)







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