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イゾウと13歳少女





「きゃー!捕まったー!!」
「俺から逃げられるとは、思っちゃいねェよなァ?」
「や、やっぱりイゾウはレベルが高すぎたかー」



まるで反省する素振りすら見せねえミアは、ちぇっと小さく舌打ちをした。逃げられないように襟首を捕まえているが、それは本人にとっちゃ関係ないらしい。



「で。お前さん、今何してた?」
「えー。見てたのに言わせるのー?きーちーくー」
「そうかい。じゃあ、俺のデザートはミアに食わせてやるか。兄としての優しさだぜ」
「わ、ちょちょちょ!ごめんっ!言います言います!」



急に焦りだしたミアは若干項垂れて「イゾウのデザートに大量のタバスコを混入しました」と白状した。

数年前まで船の連中全員から“天使”と言われていたコイツは、限度の知らない悪戯の数々から今では皆から“悪魔”と呼ばれている。
反抗期なのか、何か心情の変化があったのか。
ガキの考えることに興味はねぇが、妹は別だ。何かあったのなら、力になるのが兄というものだろう。



「まァとりあえず、連行。」
「えぇぇー」



有無を言わさず掴んだ襟首をそのまま引っぱり食堂から連れ出す。
残念なことになってしまったデザートはすれ違い様にマルコの飯の近くに置いて来た。本人はジョズと込み入った話をしていたみてぇだから、気付いちゃいなかったが。



「マルコ食べてくれないかな」
「さァな」



無駄口を叩くミアを引き連れて自室のドアを開ける。
中に入ってミアを解放してやると、急に大人しくなって不貞腐れたように床に座った。



「拗ねてんのか?」
「だって今からお説教なんでしょ?」
「クク、ミアは説教希望なのか?」
「嫌に決まってんじゃん」



俺の言葉に反抗的に返す。

さて、どう話を切り出そうか。

そう思っていたら、ミアの方から口を開く。



「……イゾウってさ」
「…なんだい」
「怒らないよね。絶対怒鳴ったりしないし。」
「そうか?俺も、たまには怒るぜ?」
「そう?」
「ああ」



いつもの元気はどこに行ったのか、膝を抱えてしゅんとするミアはやはり何かに悩んでいるように見える。



「何かあったのか?」
「…………どうして?」
「最近のお前さんの悪戯は目に余るからな」
「…別に、なにもないけど……」



だんだんと声が小さくなっていくのは逆に俺の言葉を肯定しているようなものだ。



「何かあったらちゃんと言えよ。そのための家族なんだからな」
「…………」
「まァ、話したくねぇなら無理に話す必要はねぇが。」



天使と呼ばれていた前も、悪魔と呼ばれるようになった今も、別になにも変わっちゃいねぇ。
ミアはミアだ。

そう思い、膝を抱え直したミアの頭を撫でてやると、小さいながらもぽつりと呟いた 。



「イゾウさ。……笑わない?」
「ああ、笑わない」
「……。何でこの船で私だけ子供なのかな?」



………。
ああ。なんだ。そういうことか。

こんな小さな身体でそんなくだらねぇことに悩んで、葛藤していたのか。
周りには同年代の友達もいねぇ。
大人ばかりの中に自分一人が子供で。
周りは皆自分のことをガキ扱い。
求めているのはマルコのような"保護者"でもねぇ。ビスタのような"甘やかしてくれる存在"でもねぇ。
欲しいのは”対等”。
でもだからと言って背伸びしようとしても上手く行かずに空回る。
だったら逆に、皆の気を引ければ。
怒らせて、焦らせて、相手の感情を引き出せれば、その時だけでも"対等"な関係でいられる。
……とかまぁ、そんなところか。

わかっちまえば、目の前の妹がさっきよりも可愛く思えて、数秒前に自分が言ったことも忘れて口元を緩ませた。



「…クク、お前さん、そんなことで悩んでたのか」
「あっ!ちょっと、笑わないって言ったのに…」



むっと口を尖らせるミアに「悪い」と謝り、もう一度頭を撫でる。
ガキはガキなりに、色々考えているらしい。



「構って欲しけりゃ、素直にそう言やいいじゃねェか」



だけど俺達"大人"からは今のミアにはこの言葉がしっくりくる。
もちろん、当の本人は全力で否定するが。



「べっ、別に構って欲しいとか思ってないし!てかそんなんじゃないし!!」
「そうかい。まァ、俺はミアともっと遊びてぇと思うけどな」
「…っ、ほ、ほんと?」



ぷい、とそっぽを向いたと思ったら、次の瞬間には目をキラキラに輝かせてこちらを向く。
単純だ。

本当に、年相応、じゃねぇか。

ミアの反応を見て、結局構って欲しいのか、とまた笑いそうになったが、今度こそ機嫌を損ねてしまいそうだったのでなんとか堪える。



「ああ。本当だ。だから、今度からタバスコなんて馬鹿な真似すんじゃねェぞ」
「う……、はぁーい」



嫌そうに返事をするが、それでもその声は少しだけ嬉しそうな音を含んでいる。


確かに、コイツのえげつねェ悪戯は悪魔のようだが、しっかり見てみりゃ中身は前と全然変わらねェ。


素直で真っすぐだ。














(ふふ、イゾウって大人だよね)
(まァ、ミアよりは長く生きてるからな)
(でもマルコはすぐ怒るし、ビスタは細かいことにうるさいよ)
(クク、そう言ってやるな。彼奴らもお前さんのこと思って言ってんだよ)
(それはわかってるけどさー。あ!でもサッチなんてアホすぎてホント私より精神年齢低いんじゃないかと疑うよ!)
(…否定はしねぇな(あの馬鹿、ガキにこう言われちゃ終いじゃねェか…))
(でもイゾウはいつも落ち着いてるから大人だなーって思うよ)
(そいつは、…ありがとよ)
(うん!一緒にいて安心する!(にへ))
((………ま、悪くはねェな))




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