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泣ける場所





ウザイ。
本来、格好良くて、頼りがいのある“彼氏”という存在であるはずの、この男が物凄くウザイ。 



「エース、いい加減泣き止んでくんない?」
「……お前はもう少し労ってくれてもいいんじゃねぇの?」



無駄に長い四肢を私のベッドに投げ出して、涙目で私を睨むこの男、エースは人前ではとても男らしいのだが、本当は人一倍泣き虫なのだ。その事実を知っているのは、恋人である私くらいだけど。



「で?今日は何だっけ。マルコに殴られたんだっけ?」
「書類出してなかっただけなのによ、覇気使うとか、大人げねぇよ…」



そう言いながら枕に顔を埋めてまたぐすんぐすんと鼻を鳴らし始める。確かに、マルコの拳骨は痛いけど、でも大の大人が泣く程ではない、と、思う。



「まぁ、痛いのはわかるけどさー」
「ここまで我慢したんだからせめて褒めろよ」
「つーか泣くなよ」
「おれだって好きで泣いてるわけじゃねぇよ」



“勝手に出てくんだよ、仕方ねぇだろ”と鼻を鳴らしながら強気に言われたってこっちは溜息しか出ない。エースに気付かれないように溜息を吐く辺りは私の優しさだと思って欲しい。



「じゃあ、エースくんはどうしたら泣き止んでくれるのかな?」
「知らねぇよ」



まあ、もう5分くらい泣かせとけば勝手に泣き止むとは思うけど。
でもうざいと思いつつも、可愛いと思ってしまうあたり、私はきっとこの男にかなり毒されているんだ。



「…早くエースが泣き止んでくれますように」



めそめそと枕を濡らすエースに近付いて、殴られたであろう後頭部をふわりと撫でる。その度に、「痛かったね」「よく我慢したね」と小さい子に語りかけるように優しく手を動かす。いつもはこんなことしてやらないんだけど、なんとなく、出血大サービス気分、ってヤツだったのだ。

だけど、この男はと言うと、何を思ったか、深く枕に顔を押し付け曇った声をより一層強めた。



「や、優しくしてんじゃねぇよ、バカミア」



ばかとはなんだ、ばかとは。

労れって言ったり、優しくすると怒ったり…っていうかもっと泣いたり。


すぐ泣くなんて、情けない男だと思うけど、それでもこんな姿を見れるのは彼女である私だけで。それはエースが私に気を許しているってことともとれるわけで。
ふふ、と漏れる笑みを隠す事もせずに、もう一度くせのある黒髪を撫でた。



「エースの泣き虫」
「うっせぇ」
「でも可愛い」
「嬉しくねぇよ」
「泣くのは私の前だけにしてね」
「………他のヤツの前でこんな姿見せられっかよ…」



ぐずっともう一度大きく鼻を鳴らして、枕から半分だけ顔を上げたエースがこちらを見る。
あーあ。瞳から零れ落ちる涙だけじゃもの足りず、鼻の頭まで真っ赤にしちゃって。
本当に、情けない姿だ。でも、こんな男でも好きになっちゃったんだから仕方ない。



「けど、いつかぜってぇ逆転させてやるからな」
「逆転?」
「いつか、おれじゃなくて、ミアが辛い時、ちゃんとおれのところで泣けるように」



泣き顔に強気な言葉。
その言葉だけで、本当は十分なんだけど。
私の泣く場所はもうエースのとこ以外ないって決まってるし。



「楽しみにしてる」
「おう」
「ま、私はあんまり泣かないけどね」
「一回も見た事ねぇな」
「けど、エースが泣き虫のままでも、もし私が泣く時は、絶対エースの胸の中で泣くから」
「………おう」
「そこでしか、泣かないから。ちゃんと受け止めてね」
「…………たりめーだ」
「………………あれ、エース。……もしかしてまた泣いてる?」
「……うっせー」



泣き虫な彼氏は、流石というべきか、涙の種類も多いみたいだ。






(まだ殴られたとこ痛い?)
(んー、ちょっとな)





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