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言葉遊び





ストライカーに乗せてって頼んでも乗せてくれないし、朝起こしてって言っても起こしてくれないし、ご飯食べてる時でも話の途中でも構わず寝るし。
結局エースは私のことなんて大切でもなんでもなくて、ただの女友達くらいにしか思っていないんじゃないだろうか。彼女なんて、もしかしたらエースにとっては本当にただの肩書きでしかないのかもしれない。


あーあ。
エースなんて、朝一番に足の小指を思いっきりぶつけて悶え苦しんじゃえばいい。



そんな物騒な事を心の中で思いながら、フォークに突き刺したソーセージをぱくりと口の中へと入れた。
さっきまで楽しく次の島での予定を立てていた。なのに、いつも通りと言えばいつも通り。エースは口いっぱいに物を詰めたまま、私の目の前で寝てしまった。

ぐがーと煩い彼特有の寝方も見慣れたもの。


本当に彼女なんだったら、もうちょっと気を使ってくれてもいいと思うんだけど。
いつもはなんだかんだと言ってこの男に丸め込まれてしまう。だって好きだから。
だけど、今日という今日は思い切ってエースにちゃんと言ってやろうと思う。



「…んあ、?……あー…」



やっと起きたか。
きょろきょろ周りを見てから、またもぐもぐと咀嚼を再開する。
目の前の私と目が合うと、エースは得意の笑顔を向けて来た。これには弱い私も、今日だけは懐柔なんかされてやらない。



「悪ィ!寝てた!」
「…知ってる。」
「で、どこまで話してたっけ?」



私のテンションの低さなんて気にしないように、さっきの話の続きをしようとする。もちろん私はそれすらも面白くない。



「さーね、どこまで話したかなー」
「なんだ、覚えてねーのか?」



俺ら記憶力ねぇなーなんて笑っているエースはとりあえず今食べてるキノコにあたって夜までトイレに籠ってしまえばいい。



「んじゃー話題かえよーぜ」



そう言ったエースは、ごくんと頬袋に入っていた物を飲み込むと、グラスに入っていた水を一気に飲み干した。
ぷはっと見てるこっちが気持ちよくなるくらいの飲みっぷりに、うっかり頬が緩みそうになり、それを隠すように私はレタスを口に詰め込んだ。



「うさぎみてぇ」
「エースももっと緑食べればいいと思うよ」
「俺の主食は肉なんだよ」
「知ってる。」



淡々と受け答えする私はもそもそとレタスを頬張り続ける。
じとりとエースを睨んだら、何を思ったかエースはふっと困ったように笑った。



「で?何に拗ねてんだよ?」
「……。」



怒ってたんだけどな。
拗ねてるように見えたのか。

なんだか、少し調子が狂ってしまって、苦笑するエースに残っていたソーセージをフォークに刺して差し出した。ぱくりと一口でそれを口の中におさめたエースはもぐもぐとまた口を動かしながら私に先を促す。

一瞬、こんな状況でも食べ物に反応するエースに笑いそうになったけど、今日だけは、だめって決めたんだ。
はっきりと、言ってやる。



「エースさぁ」
「おう」
「もうちょっと彼女のこと大切にしないとふられちゃうよ」



自分で言うなよ、って感じだけど、出て来たのはそんな言葉で。言った事は取り消せないから、仕方なくそのままエースをじとりと見る。



「俺ふられるのか?」



と、きょとん顔で尋ねてくるエースに、少しは焦れよ、と私はまた不貞腐れた。



「ちょっとは焦りなさいよバカエース」
「だってふらないだろ?」
「……ふらないけど。」



何でいつも負けるんだろう。
このバカで有名なエースに、言葉で勝てないのはきっと私だけなんじゃないだろうか。

ひひ、と笑ったエースにつられて口が緩んじゃいそうになるけど、唇をきゅっと噛んで我慢した。



「むかつく」
「なんで」
「私ばっかりエースを好きで」



また、いひひ、と嬉しそうに笑ったエースに「笑うな」と一喝する。


いつも余裕な顔で好きに生きているエースに振り回される私の身にもなってほしい。
惚れた弱みで、私の心は笑ったり怒ったり喜んだり不機嫌になったり絆されたり嫉妬したり、いつも大忙しなんだ。



「エースはさ」
「んー?」
「私の事大切にしたいって思ってないんでしょ」
「あー……、うん。思ってねぇ」



………。
あ、ヤバい。これは予想外の返しだぞ、。
別の意味でドキンと鳴った心は、そのあとすぐにキリリと痛んだ。




「やっぱりね。……バカエース」



ぽつりと消え入りそうな声で暴言を吐く。
せめて彼女なんだから、そう思ってるに決まってんじゃん、くらい言って欲しかった。



「しょんぼり似合わねぇ」



そんな私を見て、こっちの気も知らずにエースはまた笑った。

乙女の気持ちを踏みにじるなんて、エースの眉毛なんて全部なくなってしまえばいい。



「つーか何でそんなこと聞くんだよ」
「大切に思ってくれないエースには関係ないでしょ」
「いや、思ってるって」
「はぁ…?何を今更、」



バカエースがバカなこと言うものだから、悲しい気持ちも相まって声を荒げてしまった。それでも尚笑顔を崩さないエースに腹が立ってくる。



「ちゃんと大切にしてるって思ってるっての」
「……じゃあ、さっきの嘘?」



真っすぐな目で言うエースに、少しだけ絆される。きっとバカなのは私だ。



「いや、さっきのもホント」
「………エース意味不明。」
「だって大切にしたいとは思ってねぇもん」
「ほらねやっぱり」
「ちげぇって。俺、お前のことちゃんといつも大切にしてんじゃん」
「は」
「したいって思ってんじゃなくて、ちゃんと大切にしてんだろ」



なに。なんだよそれ。



「………。言葉で遊ぶのやめてよね」
「焦った?」
「…ばか」



悪戯成功と言わんばかりのにやり顔に、また私は丸め込まれてしまったみたいだ。

今度は我慢せずに頬を緩ませて、テーブル越しにバカなエースの額にちゅっと音を立ててキスをした。











(でもやっぱり大切にしてくれてるって感じないんだよね)
(はぁ!?なんで?)
(扱い適当だし)
(この上なく大切にしてんだろーが!(何でわからねぇんだよ!))
(ストライカー乗せてくれないし)
(あれは一人用だろ(危ねぇだろうが!))
(朝起こしてくれなかったし)
(いやだって気持ち良さそうに寝てたからよ(寝顔可愛いんだよ、))
(……食事中に寝るし。)
(うっ………。ゴメンナサイ、(これは言い返せねぇ…))
(…!(エースに口で勝った!))
((あー!もうなんで空回るんだよ!!))





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