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name change
slowly but surely





好きって、そう言われた。
私もって言ったら、じゃーミアはおれのな!…なーんて、ドキってする事を言われて、それから私とルフィは恋人同士になった。



「じゃ、行ってくる!!」



元気よくそう言って、海賊弁当を持って、船から飛び降りたルフィを見送ったのは数時間前。
なんだかなぁ、と、こっそり溜息を吐いて私は船縁からルフィが今まさに冒険しているであろう島を見つめた。



恋人同士になったからって、特に何が変わるわけでもなかった。ルフィはいつも通り元気でよく食べてよく寝てよく笑ってよくサニーの頭の上にいる。
一日一回は私の所に来てくれるけど、それは付き合う前だってあった事。きっと2人きりの時間にドキドキしているのは私だけだ。



「レディが溜息なんて、似合わないぜ」



ふわりと煙草の香りがして、同時に声をかけられる。



「サンジくん…」
「お悩みのミアちゃんには、これを。」



私の隣に立って島の先を見たサンジくんは、ちらりとこちらを向くとウインクをして持っていたアイスティーを私に差し出した。そんなサンジくんにふふと笑いながらお礼を言ってグラスを受け取る。
ちう、とストローから吸い上げた液体は、冷たくてでもほのかに甘い。



「そんな暗い顔、ミアちゃんには似合わないぜ」
「うーん、そんなに暗い顔してる?」
「悩ましそうな顔してる」
「ふふ、確かに。」



だって悩んでるもん。なんて心の中でつっこんだら、なんだかおかしくなってストローを含んでいる口の端から笑いが漏れた。



「ルフィのこと?」
「うわ、サンジくんエスパー?」
「レディのことでしたらお任せを」
「さすがだね」



礼儀正しく胸に手を当ててお辞儀をしたサンジくんに、クスクスと笑いながら、当たりだよ、と肯定する。



「じゃあ、何で悩んでるかは当てられるかなー?」



にやりと笑ってサンジくんを試すように見上げると、ゆっくりと紫煙を燻らせたサンジくんはさも当然のように「ルフィのミアちゃんに対する態度だろ?」と言い当てた。



「………なんでサンジくんはわかってんのにルフィはわかんないんだろうね」
「まー、バカだからなぁ…」
「だよねぇ。どうしようもないか。」



ルフィだからね。
溜息のかわりにアイスティーを喉に流し込む。
そんな私を見てサンジくんは、ふっと笑ってこちらに身体を向けた。



「でも、ミアちゃんが思う程変わってねぇわけじゃないと思うぜ」
「…どういうこと?」
「ふたりが付き合い始めた夜、アイツ、俺達に釘刺したからな」
「え、……く、釘?」



まさか、あのルフィが。
俄には信じられず、目を白黒させながらサンジくんの言葉を先へと促す。



「ああ、俺達に、ミアちゃんには触るなってさ。」
「………、」



ルフィが、そんなこと、を、。



「な、……なにそれ…」



嬉しいくせに、口から出て来たのはそんな可愛くない言葉で。
思った以上に照れてしまったみたいで、頬が熱くなってしまった。



「ルフィがいる時にその顔すりゃいいのに」



そしたらアイツも何か変わるんじゃねぇか?なんて言われて、上手く返す言葉も見つからず、持っていたアイスティーを無言で飲んだ。

そんなこと言われたって、ルフィがそんな宣言をしているなんて知らなかったし。っていうか、ルフィが帰って来たらどんな顔をして会えばいいんだ。

ちらりとサンジくんを睨むと、頑張って、と笑顔を向けられて飲み干したグラスを取り上げられた。そのままキッチンへと戻って行くサンジくんを見ながら、なんだか急に寂しくなって、ふう、と息を吐き出す。



やっぱり、ルフィがいないと、



「つまんない……、」



ぽつりと出た言葉は潮風に攫われて消えてしまう、はずだったのに、上から聞こえたとても馴染みのある声に、どきりと心臓が跳ねた。



「なーにがつまんないんだ?」



能天気なその声にすぐさま後ろを振り向くと、いつの間に帰って来たのか船縁に器用に立っているルフィがいて。
さっきの今で焦ってしまった私は、意味もなくルフィから顔を背けた。



「……?ミア?」



不思議そうな声のルフィに、申し訳ないと思いながらも、先程サンジくんから教えてもらったことが思い出されて、なかなか顔を見れない。



「おかえり、船長さん」
「……」



ついでになんだか名前を呼ぶのも恥ずかしくなって、つい可愛くない態度を取ってしまった。

だけどいつも煩いくらいのルフィの声がなかなか返ってこなくて、少し不安になって逸らした顔をルフィの方に向けると、いつの間にか甲板に降り立ったルフィが不機嫌そうにこっちを見ていて。


あれ、何で?と思う暇もなく、ルフィは私の右頬をつまんだ。



「っ??るふぃ、??」
「だめだ。」


むう、と不機嫌顔のままそう言ったルフィは、すぐにつまんだ右頬を解放する。それと同時にすりすりと右頬を撫でながら、はてなマークと共に私はルフィを見上げた。



「おれは船長だけど、ミアがおれを船長って呼ぶのはいやだ」
「ごっ、ごめん」



よく突拍子もないことを言う人だ。
だけどこれは予想していなくて、反射的に謝罪の言葉が出て来た私は結構すごいと思う。



「ミア!」
「は、はい、!」
「ただいま!」
「………お、かえり、…ルフィ。」
「よし!」



言いたい事だけ言って、にかっと満足そうに笑ったルフィに、とくんと胸が鳴る。私には、名前で呼んで欲しかった、ってことだったのか。なんだかきゅっと胸が締め付けられて、もっと一緒にいたいなって気持ちを込めてルフィを見たけど、当の本人はそのまま「腹減ったなー」といつものように船内に入って行こうとしていて。
何で私だけこんなに想ってるの!?って、すぐにキッチンに御飯をもらいに行こうとしたルフィが面白くなくて、無意識にぱしりとルフィの手を掴んでしまった。



「ん?どした?」



きょとんと、こちらを向くルフィに自分のしでかした事に気付いて顔が熱くなる。だけど、少しだけ勇気を出して、一歩前に進んでみようか、なんて考えてしまって。だって、ルフィは言わないとわかんない人だから。
だから、火照る顔のまま、ルフィを見上げて付き合ってから初めての我侭を、言ってみた。



「もう少しだけ、一緒にいたい、かな、」



一瞬目を見開いたルフィに早くも押されてしまって、「やっぱりお腹すいたよね、」なんて弱気になる。けれどルフィはすぐににかっと笑って、掴んだ手を、きゅ、と握り返した。
それだけでまた鼓動を早める私の心臓は、私の頬をより熱くさせる。



「じゃー、もうちょっと一緒にいるか」



嬉しそうに笑う上機嫌なルフィは口笛を吹きながら、繋いだ手はそのままに、私をいつもの特等席へと引っ張って行った。















(ふたりっきりもいいもんだなー)
(えへ、うん。(どきどき))
(〜♪)
(………あ、…ねぇ、ルフィ?)
(ん?)
(皆に、その、私に触るなって言ったってホント?)
(…………?……!ああ、言ったぞ!(ニカッ))
(……。ふふ、そっか!(にこにこ))
(なんだ?ミア嬉しそうだな)
(うん、嬉しい!(ちょっとだけ、近付けたかな、))







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