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だめだ、だめだめだめ、!
この状況、非常にマズい。身動きひとつ、取れません…!



「あ、あああああの、イ、イゾウたたったいちょう、」



ちくしょう噛む!


私の切羽詰まった声を聞いた隊長は、ゆらりと火照った顔をこちらに向けた。
完全に、酔っている。



「…ミアか。俺の酒はどうした?」
「お酒は、サ、サッチ隊長に、取り上げられました、」
「あ?サッチ?いねぇじゃねぇか」
「は、はい。今は、いません…」



どうやらさっきまでの記憶はないらしい。もしかしてこの短時間で寝てた?

絶対におかしい。
なのに、イゾウ隊長はこのおかしい状況に疑問を抱かないのだろうか。さっきまでの記憶をなくしているのなら尚更、この状況がおかしいと思わないのは変だ。それ程に、酔っているというのか。あのイゾウ隊長が―。

















いつものように甲板で宴になったのはつい数時間程前。
こっそりイゾウ隊長に思いを寄せている私は、ちょくちょく隊長達の所の料理がまだ残っているか確認に行ったり、新しい料理を運んだりと顔を出していた。こういう時、4番隊で良かったと心から思う。だってイゾウ隊長の近くに行っても変に思われないから。

そんな風にして過ごしていたんだけど、今日の宴は皆悪ふざけが過ぎたみたいで。ありえない量の酒をイゾウ隊長に飲ませていて、これまた珍しくイゾウ隊長が悪酔いしていた。



「オイサッチてめぇ、酒が空じゃねェか」
「いやー、イゾウっち飲み過ぎっしょ。まあ俺らのせいだけど。これは没収なー」



なんてやりとりが聞こえて来たもんだから、サッチ隊長に「お水もってきましょうか」なんて話しかけちゃって。だって好きな人が苦しんで(?)たんだもん。これ以上お酒はあげられなくても、お水くらい持ってきますよ。

だけどいつも意地悪なサッチ隊長は私を見ると物凄く不細工な笑顔を浮かべて、その直後に私の腕を取ってイゾウ隊長に向かって放り投げた。「酒はもうねぇが、代わりにコイツやるよ」って言葉付きで。
そしてしっかりを私を受け取ったイゾウ隊長は、私の顔を見るとニヤリと笑って立ちながら私を肩に担いだ。「サッチ、俺ァもう寝るぜ」という言葉付きで。


いやもうこれはパニックなるよね!誰だって、なるよね!何この状況!!
イゾウ隊長の背中からサッチ隊長に目で助けを求める(だって声出なかった!)けど、サッチ隊長はまたあの意地悪顔で私に手を振っていて。何処の極悪非道な海賊だ!好きな人とこんな風に結ばれたってうれしかねーよ!と心の中で思いっきり悪態を吐くけど、イゾウ隊長にたてつく勇気もなく、そのまま隊長のお部屋へと連れて来られた。


そして、お布団の上に座ったイゾウ隊長は、私を膝にがっちり抱くと「気持ち悪ィ、」と呟いて俯いた。当の私は、緊張と恐怖とパニックと隊長にがっちり捕まっているのとその他諸々でその場から全く動けなくて。それからそのまましばらく時間が経って、冒頭のセリフに至っている。よく、声をかける勇気が出たものだ。










「イイイゾウたいちょ、その、お水でも、お持ちしましょう、か?」



とりあえず、この状況をどうにかしなければと、切羽詰まる心を押し殺してもう一度声をかける。するとイゾウ隊長はコクリとしおらしく頷いて、私を拘束する力を緩めた。普段見ないイゾウ隊長の表情に胸がきゅんとして顔が更に熱くなってしまったけど、今しかチャンスはないので、すかさずイゾウ隊長の腕から抜け出す。



「あの、すぐに持ってきますので、キツかったら横になっててくださいね」



イゾウ隊長の方に向き直り声をかけた。少しだけ解けた緊張のおかげで噛まずに言えた事にほっとする。
ありがとな、とそう言われて、嬉しくて顔が綻んだ。早く持って来てあげよう、と急いで踵を返す。



「なんてな、」



だけど次の瞬間、私の身体はドアとは反対方向に傾いていて。イゾウ隊長の楽しそうな声とともに、自分が隊長に手を引っ張られているのだと気付いた。
倒れる、と思った瞬間に背に響いた衝撃に、キツく目を閉じると口から小さな悲鳴が漏れた。



「い、た…、」



じんじんと痛む背に、衝撃で頭がくらくらする。
だけど何故かお水を持って来なければという思いだけが頭の中に残っていて、とりあえず身体を起こそうとしたけど、両手が動かなくて急に目が覚めたようにパチリと目を開いた。



「………、」



天井は見えなくて、見えているのはイゾウ隊長。
多分、私は今パニックを通り越して逆に冷静になってしまっている。



「あ、あ、あの、イゾウ、隊長?」
「なんだ?」



どうやら私の両手はイゾウ隊長に押さえられているようで、顔の横で万歳をしている体勢から動かす事が出来ない。
逆光でイゾウ隊長の顔は影になっているけれど、隊長の真っすぐな眼差しと口元の笑みくらいはしっかりとわかるくらいには近くて。

あれなにこれ。やっぱり私このまま酔ったイゾウ隊長と一緒になっちゃうのかな、なんて頭の隅で冷静に考えていたりする。



「おみず……、」
「…今は、水よりもミアがいいんだが」



流れるような目で見つめられ、そう私に告げた隊長は、そのまま私の耳元に口を近付ける。



「…ミアだって、嫌じゃねェだろ?」



背筋がゾクリとした。返事なんて出来るわけなくって、開いた口から空気だけが漏れる。

隊長はそのまま私を見る事もせず首筋に唇を這わせる。両腕はびくともしない。


こんな風に。
こんな風になるなんて、望んでなかった。


じわりと目尻に涙が浮かんだ時には、隊長は私の胸元をキツく吸っていて。
流れた涙がこめかみにじわりと広がったのを感じた。



「…震えてんなァ」
「……っ、」
「手、開放して欲しいかい?」



またも耳元で問われて、ゾクッとした背筋を振り切るように何度も頷いた。



「条件がある」
「じょう、けん、」
「今日から俺の女になるか、このまま俺に奪われるか」
「……は、」



なにを、言っているの、。

きっと思った以上にポカンとした顔をしていたのだろう。ふっと小さく笑った隊長は続けてこう言った。



「海賊は手段は選ばねぇぜ?欲しいものは手に入れる」



クク、と喉を鳴らした隊長は、そのまま屈んで私の耳元に口づけた。






――だが特別に、方法くれぇは選ばせてやるよ。







(どう、し、よう、)









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