top
name change
you don't wanna know





いつもは冷静沈着なペンギンが、頬を染めてだらしなーい顔をしていた。



「ペンギンさー、女帝のしもべになりたかったんだ?」
「いや、それは」
「いいなーってベポに言ってたよね」
「………、」



冷めた目で目の前に正座するペンギンを見つめる。
ペンギンを正座させるなんて天地がひっくり返ってもありえないと思ってた。けどそれが今実現しているわけで。ペンギンの部屋で今私は般若の顔で仁王立ち。もちろんペンギンの前で。
半分は嫉妬から来るペンギンに対する怒り、そしてもう半分はペンギンの別の一面を知った嬉しさとありえないこの状況を楽しむ感情。



「麦わらが生死を彷徨ってる時に、私は死ぬ程働いてロー船長の手伝いしてたのにさ。まさか甲板で鼻の下伸ばしてるなんてね」
「……ご、誤解だ、」
「うるさい」
「………、」



麦わらは予断を許さない状況だったから、どうにか命を繋げられるようにロー船長も私も他の医療チームも必死で処置を施した。
女帝が現れた時も、ロー船長が出て行く時に一瞬ついて行っただけで後はずっと麦わらの目が覚めるまで側にいた。その時にペンギンのアホ面を見てしまって、まさかと思って二度見したけどやっぱりそれはペンギンで。だけど麦わらの側にいなきゃいけなかったから問いつめたい衝動を押さえて船内に戻った。



「麦わらが目を覚ましてからもさぁ、陣の外に出れるの私だけだから疲れた身体に鞭打って探しまわってたのにさぁ」
「す、すまない」
「優しいジンベエさんが代わってくれるって言って陣に戻ってきたらペンギン見た事ないくらいだらしない顔してるんだもん」



そう言った瞬間、ペンギンが頬を染めて口元緩めてアホ面晒してたのを思い出して、ふふと自然と笑みが漏れた。
だけど何を勘違いしたか、ペンギンは恐怖を表すように口を引きつらせる。
それに私は「あ」と反応。この勘違いを利用する以外会話を進める方法はあるだろうか。



「なーに、ペンギン。何か言いたい事でもあるの?」



そのままにっこりと笑ってペンギンを見下ろす。もごもごと言葉を濁すペンギンも初めて見るペンギン。

相手は女帝。もとより敵うなんて思わないし自分と比べようなんて考えもしない。だからペンギンが女帝にめろめろになってしまった事なんて本当はずっと前に許していた。だけど、いつも落ち着いていて格好いいペンギンしか知らなかった私は、ペンギンがこんなにデレるなんてもちろん想像だにしていなくって。他の女に鼻の下伸ばしてた事よりもペンギンの別の一面を見れた事の方が嬉しかった。

だけどそれはそれ。
彼女としてはやっぱり嫉妬する。だから少しくらい意地悪もしたくなるというもので。



「もったいなかったねー。中に入れなくて」
「いや、入らなくても別に、」
「うっそだー!島離れた時名残惜しそーに言ってたの聞いたよ?」
「う………、」
「中に入って石にされちゃえば良かったのにね!」



とびっきりの笑顔でそう言ったら、ペンギンが涙目で引きつった笑みを浮かべた。
私は私でペンギンを虐めるのも楽しいな、なんて的外れな事を考えたりしていて。



「……っ、ハハハッ、もうだめ…!!」
「…??」



だけど、正座して涙目のペンギンなんて、可愛すぎて我慢出来なくて笑ってしまった。

そろそろこの辺で許してあげようかな。

冷静沈着、状況判断なんてお手の物、なペンギンがこの状況は全く理解出来ていないみたい。クスクスと笑いながらペンギンの隣に座る。ビクリと身を引いたペンギンにまた意地悪をしたくなって、膝立ちでペンギンに詰め寄り、愛用の帽子を剥ぎ取って部屋の向こうに投げた。
同時にさらりとしたペンギンの髪が零れ落ちて、それをすくいあげて空いたおでこにちゅっとキスを落とす。



「え?ミア…??」



ますますわからないと言った表情のペンギンに、もう限界、と私は怒ってない事を素直に白状した。
それと同時に脱力したペンギンは、姿勢を崩して床に身を投げ出した。帽子がなくて顔が良く見えるペンギンは四肢を投げ出したまま片腕で目元を隠して安堵の息を吐く。



「ふふ、ペン、焦った?」
「………焦った。」
「あはは、ごめんね」



さらりとペンギンの髪を撫でると、恨めしそうな視線を腕の隙間から寄越す。



「ペンがあんな顔するなんて知らなかったわ」
「幻滅したか?」
「え、ううん。まぁ、あんなデレた顔させられるのが私じゃないのは嫉妬だけど」
「………別にデレてない」
「はいはい」
「好きじゃないからな」
「ん?なにが?」
「女帝」



別にそんな誤解してないけど、むすりとそう言うペンギンにきゅんとしてしまって、これまでのペンギンは何処に行ってしまったんだとペンギンにバレないようにクスリと笑った。



「はいはい、わかってるよ」
「………」



なんだか子供なペンギンがいつもと違いすぎて可愛くて、宥めるようにそう答えたら、寝転がったままじっとこちらを見つめるペンギンと目が合った。
真っすぐな眼差しにトクンと心臓が跳ねてすぐに目を逸らしたけれど、時既に遅し。
素早く身体を起こしたペンギンに頬を固定されてキスされた。



「…ミアだけだからな」
「、わかってる、よ…」



逸らせない視線のせいでペンギンの手が何処にあるかなんて把握出来ず、床に垂れていた私の右手を急に包まれて、心も一緒にぎゅって掴まれたような感覚に一気に頬が上気した。














(シャチー、私ペンギンのだらしない顔も好きなんだー)
(なんだよ惚気か)
(うん!よくわかったね!)
(うっぜーこの女!)
(まあ滅多に拝めないけど)
(なんでだよ)
(え、だって女帝に会った時くらいしかデレないもん)
(………。ミアは知らねぇと思うけど、お前の話してる時いつもあんな顔だぞ)
(………え、マジ?(きゅ、ん))







| TEXT | →




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -