top
name change
その距離○×センチ。





にこにこ、というか、にやにや、という言葉が似合うくらい。
そう、そのくらい隣にいるエースは機嫌がいい。
かくいう私も、緩む頬が止められないくらい、にこにこ、というか、にまにましている。



「なんだよミア、そんなに嬉しいのか?」
「な、なによー。エースこそ」



広い甲板の隅にちょこんと並ぶ2つの影。

ずっとエースの事が好きだった。大好きだった。
家族だし、胸の奥に秘めて片思いで終わると思っていたこの恋は、意外な結末を見せた。



「うっせーなぁ、俺はいーんだよ、」
「ええっ、じゃあ私もいいでしょー?」



ちょっとしたきっかけで、エースに好きだと言われた。反射的に私も好きだと言ってしまった。
それだけ。
隠されて重なり合う予定のなかった2つの想いが今偶然にも重なってしまって、予期せず晴れてカップルになった私たちの周りを甘酸っぱい空気が囲う。



「……何か喋れよミア」
「えっ、無理!エースこそ、気を利かせて何か喋ってよ」



お互いこういう雰囲気は始めてで、さっきから会話も少なくそわそわと落ち着きない。
でも、不思議とふたりとも側を離れない。



「俺は、その、先に告白したんだから次はミアの番だろ」
「ええーっ、私も好きって、言ったのに、」



確かに先に言う方が勇気いると思うけど、。
エースの無茶ぶりに涙目になりつつも何を話そうと頭を働かせる。
くだらない事ばかりが頭に浮かんではこんな事では場を盛り上げられない、とその考えを振り払った。



「つーかよ、……」



そんな私の横で、エースがぽつりと呟く。
助け舟かと思って少しだけほっとした。




「なに、エース?」
「……この間なに?」
「えっ、」



エースが指差したのは私とエースの間にある子供一人分すっぽり座れそうなくらいの間。
このくらいが、緊張しすぎないで丁度いい、と思っていたのに。



「そっち行って、いいか?」
「えっ!む、無理!」
「え、」
「だだっ、だって、恥ずかしい、じゃん、」



だって、恥ずかしいじゃん…!

心の声が外に漏れた。
きっと私の頬は赤く色付いていて。
きっと私の顔はいっぱいいっぱい。


たった数十センチの隙間だったのに、一度こちらに身を乗り出したエースが元の位置に戻って、理不尽にも寂しいと思ってしまった。

エースを傷つけてしまったかな、。



「あの、エース、…ご、ごめん。き、緊張しちゃって…、」



むすっとしているエースにそう声をかけると、エースは不満そうな顔でこちらを見た。



「…緊張すんの?」
「うん、ちょっと…」
「今まで緊張なんてしてなかったっつーのによ」
「だって、今までとは状況違うじゃん、」



私だってどうしようもないんだもん。
エースと同じ気持ちだってわかったら、相乗効果で前よりもドキドキするんだよ、。

自分でもコントロール出来ない気持ちに、無意識に口を尖らせた。
それを見てフッと噴き出したエースは、「実は俺も」とそう言って困ったように笑った。



「…エースも緊張してるの?」
「まぁな」



頬を掻いて少しだけその頬を染めたエースに、胸がきゅうっとなる。
伏し目がちにこちらを見たエースは、静かにそっと手を出した。



「ん。…近くがダメならせめて手くらい繋がせろ、」



指先まで脈打つ。

そんな顔、ズルいよエース。

家族だった時には見れなかったエースのそんな表情に、またも胸がきゅうっとなった。
トクントクンと胸が鳴って、私の手は自然と2人の間にポツリと置かれたエースの手にそっと重なる。


じわりとエースの温かさが手の平に広がって、全身がピリリと痺れた感覚に陥った。
ふとその手の先に目を向けると、にっと満足した表情を見せたエースがそのままぎゅっと私の手を握り返した。








(今日はこれで許してやるよ)
(もう、いっぱいいっぱいだけどね、)
(明日はそっち行くからな)
(えっ、!…………ん、(コクン))
(………、)




| TEXT |




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -