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一炊の夢





何でこんな男好きになっちゃたんだろう。
娼館に行って女を抱いて酒に呑まれて朝帰り。おまけに船についた途端甲板で鼾をかいて寝始めた。


馬鹿だなぁと思いつつも、もう何年も想ってきた。1年前に告白して、玉砕していても、だ。今更捨てられる程軽い想いでもない。
女は抱くけど恋愛はしない。そんな男。きっと面倒事が嫌いな質なんだ。
だから失恋した後は極力気を使わせないよう今まで通りに接してきたし、恋愛のれの字も臭わせなかった。



ひやりとした空気に私は身震いをひとつ。
夏島と言っても、その中の冬の季節。澄んだ夜明けの空気は少しだけ肌寒く感じる。
手にしたブランケットを目の前の男にそっとかけ、その隣に静かに座った。



「ラクヨウのばーか」



大きく鼾をかいて気持ち良さそうに寝る男の隣でぽつりとそう呟く。

あんたが女抱いて帰ってくるたび、胸が張り裂けそうになるんだよ。
私の気持ち、知ってるくせに。酷い男。


きゅっと膝を抱いて顔を埋めると、少ししてラクヨウの鼾が止まった。



「さ、寒っ!」



寝起き一番でそう発したラクヨウはかけてあげていたブランケットで大きな身体を肩まですっぽり覆った。
もう1枚、持ってくれば良かったな。



「おはよう、朝帰りくん」
「あ?おー、ミア」



私の存在に気付いたラクヨウは、ブランケットを身体に巻きつけながらゆっくりと起き上がった。



「お前、こんなとこで何してんだ?」
「ラクヨウが寒いかな、と思って。それ持ってきてあげたの」
「そうか。へへ、悪ィな」



照れたように笑うラクヨウに胸がきゅんとして、それを隠すようにわざと溜息を吐いた。



「あ?なんだよ、悩み事か?」
「まーね」



あんたのことだよ。ラクヨウのにぶちん。

だけど、

今の気持ちを言葉にしたら、ラクヨウはどう思うのだろうか。
困るだろうな、。
この際、言ってしまおうか。


ひゅ、と乾いた空気を短く吸い込む。
どくりと心臓が大きく動くのを感じた。



「ラクヨウさ、」
「おう」
「…娼館楽しい?」
「……は?」
「いやだから、娼館」



気まずそうに顔を歪めたラクヨウは、「そりゃ、まぁ、」と言葉を濁す。



「別に誰でもいいならさ、…私を抱いてよ」



言葉が脈を持っているかのように口から滑り出る。キツく膝を抱き、声が震えるのをどうにか押さえた。

どうせ届かない想いなら、消えない想いなら、身体だけでもいい。
きっとあとで自分が虚しくなる。空っぽの自分に死にたくなる。だけど、それでもこの想いが止まる事はないから、だったらいっその事、貴方に抱いてもらえれば、。



「お前、………本気か?」
「………まぁね」



今度は、少し震えてしまった。
指先が冷たい。
ラクヨウの方は見れなくて、私は必死に自分の爪先を見つめた。

数秒の沈黙のあと、ラクヨウの乾いた笑い声が隣から響いた。



「俺にミアが抱けるわけないだろ」



苦笑まじりにそう紡がれた言葉に、キリリと胸が痛んだ。
他の誰かから聞いたならこんなに痛まない。きっとラクヨウからラクヨウの声で聞いてしまったから、こんなに痛むのだ。

鼻の頭がツンとして、これはヤバいな、と悟る。
涙が溢れ出る前に、ここを離れなきゃ。


スクリと立ち上がり、きゅっと拳を握っていつもの私の笑顔を作った。



「冗談だよばーか。ラクヨウなんて性病もらって死んじゃえ」
「んなヘマしねーよばーか」



ほっとしたような表情でそう返してくるラクヨウに、「私眠いから朝ご飯まで寝るね」と言ってくるりと背を向けた。
瞬間、ぽろりと涙が頬を伝う。
いつも通りに歩こうとするけど、体中の神経が敏感になっているみたいで。ちゃんと歩けてるかな、ラクヨウ、変に思ってないかな。そう思いながら、不審に思われないようにゆっくり歩を進めて、甲板から船内に入った。
ラクヨウから私の姿が見えなくなってすぐに、私は声を殺しながら部屋まで走り、パタンと自室のドアを閉めたと同時に声を上げて泣いた。




サイテーな人。
でも嫌いになれない私が一番サイテーだ。








(一瞬の希望さえも粉々に砕いて、)






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