さくらんぼゲーム
「サッチー!おやつおやつ!」
「腹減ったー!」
騒がしく食堂に入ってきて我先にとテーブルについた末の妹と弟に、もうこんな時間か、と大きく伸びをする。
両手両足をバタバタとさせテーブルを叩く二人はまるで5歳児のガキだ。
「お前らいつも元気だねぇー」
「いひひ、まぁね!それよりサッチサッチ!今日のおやつ何??」
「肉くれ肉!」
「肉はおやつじゃねぇだろうが。ちょっと待ってろ。何か持ってきてやる」
キッチンに入ると最近寄った島で手に入れたフルーツの存在を思い出す。新鮮なうちに食わねーとと思っていた所だったのだ。丁度いいのでこれを出す事にしようか。
結構な量のそれを皿に盛りつけて再び食堂に顔を出すと、二人の座っているテーブルにイゾウとハルタがいた。まぁ人が増えるのはいつもの事なので、軽く二人に目で挨拶をした。つっても今朝も会ってるけどな。
「ほらよ、これでも食ってろ」
「わぁぁぁ!さくらんぼ!!!美味しそー!」
「なんだよ、肉じゃねぇのか。これじゃ腹膨らまねぇぞ…」
「へーぇ。じゃあエースは食べないってことで。その分僕が食べてあげる」
「あ!ずりィぞハルタ!俺の分食うんじゃねぇって!」
「んっふふ!おいしー♪」
いつも通りと言えばいつも通りのこの光景。
ミアは周り無視でさくらんぼを頬張るし、エースは張り合って掃除機のごとくさくらんぼを吸い込んでいく。ハルタとイゾウはちゃっかり自分の分を確保済。
そんな中、もぐもぐと実に美味そうに食べていたミアが「あ!」と声を張り上げた。
「どうしたミア?」
そう声をかけると、むひひひひと嫌な笑みを浮かべてこちらを見た。あ、こりゃ、何かしょうもねぇこと考えてんな。
「いーこと考えた!」
案の定ミアは元気よくそう言って、俺達を見てにっこりと笑った。
「ねぇねぇ!罰ゲームしよ!」
「あぁ?またかよ。お前さんも好きだねェ」
「いいでしょー?お願いイゾウ!皆もしよーよ!」
「俺やるぜー!ゲーム楽しいもんな!」
にかっとミアに同意したエースにつられてイゾウも「仕方ねぇな」とそれに参戦。もちろん俺もノーと言う理由はない。
「で?ゲームと罰はどうするの?」
結局末妹の“お願い”に弱い俺らはそのまま罰ゲームをする流れとなるわけで。
代表して言ったハルタのその問いにミアはお得意の悪戯好きの顔でそれに答えた。
「ゲームはさくらんぼの茎結び!もちろん舌で結ぶやつね!罰は、そうだなー…」
ううーんと腕組みをして考えるミアを横目に、何て安易なゲームを考えるんだと苦笑いした。さくらんぼイコールこれ、みたいな考えになったんだと思うが、連想ゲームか、ホントに。
悪いがこのサッチさんはさくらんぼの茎結びが大得意である。一時期キッチンで流行って、コック皆で料理中口の中モゴモゴさせてた時があったからな。もちろん、俺のキスで落とせない女はいない。
と、ドヤ顔でそこまで考えていた時に、ピコーンという音が聞こえてきそうな仕草でミアの表情が晴れた。
「じゃー、罰は我らが1番隊隊長の弱点を見つけるってのはどう?」
なかなか面白そうな罰に、もちろん俺は乗る。まぁ自分の勝ちが目に見えてるからってのもあるが。
他の兄弟もマルコの弱点か、と乗り気のようだ。
「それじゃ、これで決まりね!」
「ルールはどうすんだ?」
「先に10本結べた人の勝ち、でどう?」
「了解」
5人で顔を見合わせる。
「ズルなしだからね。んじゃ、始め!」
5人の手が伸びてさくらんぼを掴んだ。
もちろん、皆さくらんぼを存分に味わってから茎を結ぶ。久しぶりだし若干の心配はあったものの、以前と同じように茎は俺の口の中で簡単に絡み合った。
「一個目でーきた」
べ、と舌の上に乗せた茎を見せる。
ハッとした顔でミアとエースがこちらを向いて、口のもごもごのスピードを上げた。
頑張る2人には悪いと思いながらも、俺は同じ要領で茎を結んでいく。
口をもごもごと動かしながらチラリとハルタとイゾウを覗き見れば、2人とも着々と結び目を作っていた。
どう見ても、不利なのはミアとエースのようだ。可哀想に。
「終わりー!俺一番な」
しばらくして10個結び目を作った俺は、声高らかに勝利宣言をした。
すると即座にミアが声を張り上げる。
「サッチずるい!!」
「いや何もずるくねぇだろ」
冷静につっこむと、そうだけどさー、と言いつつムキーっとしているから、にやにやしながらエールを贈ってみた。
「すっごいむかつくサッチ」
「はっはっはっ、ミアちゃんは何個結べたのかなー?」
「うっ、サッチほんとハゲろ!」
「ハゲねぇし。俺の髪立派ですから」
「うっさいもぎ取るぞ!つーかもげろ!」
だんだん口が悪くなる妹に心がもげそうになるけど、そこは兄。なんとか持ち直す。
結局現時点で茎1つ結べていない妹が、まぁ可愛いと思う辺り、まだまだ俺の心が折れることはないだろう。
「つーかミアちゃんは何で自分が出来ない事をゲームにするかなぁ」
「だって簡単そうに見えたんだもん…」
「まー頑張れ。ぶーぶー言ってる間にももうイゾウは終わりそうだけどな」
俺の言葉にハッとしたミアは急に立ち上がってテーブルに身を乗り出した。
「イゾウ後何個!?」
「…これで最後だ」
「嘘!ちょ、ストップ!ハルタは!?」
「んー、…あと3つ」
「うっそ、ちょっとズルい、!エースは!??」
くるりとエースの方を見たミアは明らかにほっとした顔をする。わかり易いんだよホント。
「…なんだよその顔は」
「いえいえ、別に何でもぷふふ」
「言っとくけど、俺の方が勝ってんだかんな」
「勝ってるって言ってもまだ3つしか出来てないじゃーん」
「ゼロのミアよりはマシだろ」
「私今から超高速で結ぶもん」
今までで1つも出来てねーのに、どうしたらそういう考えに辿り着けるんだ。全く、能天気な妹が時々羨ましくなる。
とりあえず、どうするのか見ていると、ミアはイゾウの近くへと移動した。
「…どうした?」
「うん、イゾウがどうやって結んでるか観察しようと思って」
どうぞ続けて!と言ってイゾウをガン見しているミアに素早く口を動かしたイゾウは、口を開けて舌の上の丸まった茎を見せた。
「ちょ、早かった!もう一回!」
「残念、俺のはこれで最後だ。ってわけで、俺も勝ちだな」
「あっ!そっか、しまった!」
「…教えてやろうか」
「え?」
「結び方」
「ほ、本当!??」
ぱぁと顔を明るくさせたミアに、いつも以上に優しい笑顔のイゾウ。こういう時のイゾウは楽しんでいる確率が非常に高い。
「ああ、本当だ。」
ミアはその言葉に素直に喜んで、茎を口の中に放り込んだ。
「どうすれば結べるの?」
「俺のする通りにすりゃあいい」
「??わかった」
きょとんとしたミアを見て、にやりと笑ったイゾウは、そのままミアにキスをしようとする。イゾウのヤツ真っ昼間から何やってんだ、とぎょっとしたけど、それは寸での所でイゾウの襟首を掴んだハルタによって止められた。
うお、全然気付かなかったが、ハルタとエースのイゾウへの視線が、やべぇ。
殺気が漏れそうな視線に、俺の身体は素直に1歩後ずさった。
「ちょっ、ちょちょ、イゾウ?ななっ、なんでこんな近いの、?」
ミアは自分の顔の前で止まったイゾウに、挙動不審気味にそう尋ねた。だけどそこは流石イゾウ。笑顔でとんでもねぇこと言いやがった。
「そりゃ、舌で結ぶんだから、舌使って教えねぇと意味ねェだろ」
その言葉にみるみるうちに顔がさくらんぼ色になったミア。
直後に、すごい早さでイゾウから離れた。
「ばっ、馬鹿!変態!イゾウの痴漢!エ、エロゾウ!!」
「クク、折角教えてやろうと思ったのになァ」
誰の目から見てもイゾウはミアをからかっているだけで。
ハルタもイゾウの襟首から手を離す。そこに自分のベロチューの危機を救ってくれたのがハルタだと気付いたのか、またお得意の泣き真似をしながらミアはハルタに抱きついた。
「ハルタありがとー!流石私のお兄ちゃん!」
「どういたしまして。ミアが無事でよかったよ」
ふわりとハルタの雰囲気がいつものものに戻って、少しだけ胸を撫で下ろす。ぽふぽふと背中を撫でてそう答えるハルタの前にはきちんと結ばれた茎が10個。
ミア、お前、どんどん負けが近付いていってるぞ。
「ミア、俺もう6個作ったかんな!」
エースはハルタと和みムード突入のミアの腕をぐいっと引っぱると、自分の方へと引き寄せた。
仏頂面のエースは、本当に自覚がないんだろうか。ニブいにも程があるぞ。
気付いていないであろうその光景に、当事者ではない俺がげんなりしてしまう。
どうやら、今回もまたミアの負けになりそうだ。
自分が負けるゲームを提案する自爆妹のマルコへの罰ゲームに、勝負が決まる前からわくわくしてしまった。
(ははははは!結局ひとつも出来てないじゃねぇか)
(うっさいエース!予定では出来るはずだったの!)
(じゃ、ルール通りマルコの弱点見つけてきてね)
(ハルタなんでそんなに楽しそうなの…?(ぐす))
(俺が結び方教えてやってりゃあ、負けなかったかもしれねぇのになぁ?)
(やだもーん!エロゾウとはもう喋りませーん)
(いやお前それもう会話してんじゃねぇか(ビシッ))
(あっ、…!)
((((アホ可愛い))))
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