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お父様を認めさせろ!





「娘さんを、僕にください…!!!」



右手に持った紅茶をそのままに、俺は片眉をあげた。
組んだ足の先で、練習でもしたのかと思う程綺麗に土下座をするエースに一瞬思考が停止する。先に言っておくが、俺に娘はいない。



「……エース、お前…」
「お願いします!!!」



俺の言葉を遮り、ついに頭を床に擦り付けたエース。何かがおかしい。そう思って回りの気配を探ると、いくつかの兄弟の気配を感じた。なるほど、罰ゲームか。ということは、娘というのはおそらくミアのことだろう。



「…くださいとは、どういう意味だ?」



思ったよりも低い声が出てしまった。
それにびくりと身体を揺らしたエースは、垂れる前髪の隙間からゆっくりとこちらの様子を探った。

いつかミアも大人になったら好きなヤツくらい連れてくるだろうと考えた事はある。その度に脳内でそいつらを抹殺してきたのは言うまでもないことで。
罰ゲームのようだが、まぁいい予行演習だ。エースには悪いが存分に相手をしてやろう。



「えーと、つまり、その、…ミアとけっこ、」



おっと、いかんいかん。いきなりぶっ飛んだ言葉を言うもんだから、こっちもうっかり覇気が漏れてしまったじゃないか。

ヒッと息を呑み込んだエースを横目に、俺は自分を落ち着かせるために紅茶を一口啜った。



「悪い、ついうっかりな。で?ミアがなんだって?」



極力笑顔でそうエースに問う。エースの顔が更に引きつった。隠れている兄弟の数も若干増えたようだ。ギャラリーのためにも俺は人肌脱ぐべきか。



「あの、その、なんつーか、」



土下座したまま1歩後ずさるという何とも難しい事をやってのけたエースは未だはっきりと喋らない。煮え切らない態度のエースは俺の神経を上手に逆撫でする。



「エース、男ならハッキリとしろ」



仮にもミアが欲しいというなら、そのくらいの男気は見せて欲しい。
一瞬下を向いたが、俺の言葉にごくりと唾を飲み込んだエースは、覚悟を決めた眼差しを向けた。



「ビスタ!ミアを俺にくれ!!」



真っすぐ俺を見るエースにさっきよりマシになったか、と一息ついた。が、だからと言って素直にイエスと言う程俺もお人好しではない。



「何故欲しい?」
「すっ、好きだからだ!」
「…ほう」



自棄になったのか、どうにでもなれというように叫び返す。
潔くなったのは良い。だが、兄としては面白くない告白だ。



「エース、お前はミアが好きなのか」
「好きだ!」
「どこが好きか言ってみろ」
「うっ、そ、そりゃ、全部だ!」
「全部って?俺は、どちらかと言うとミアは欠点だらけだと思うが?」
「確かに、ミアは口悪ィし寝相悪ィし泣き真似するし限度を知らねぇし調子乗ってて他人の不幸も容赦なく笑うような可愛くねぇ妹だ」



よくもまぁすらすらとミアの欠点が出てくるものだ。だが、間違ってはいないので訂正する気もない。少し離れた距離から「エース一発殴らせなさいよ!」というミアの声が聞こえてくる。気配からして、マルコがそれを止めているようだ。



「だけど」



真っすぐに俺を見て言葉を続けたエースに口元が上がった。



「ミアはちゃんと大事なモンわかってるからよ。だから俺はミアの事欠点含めて全部好きだ!」
「………。」



にかっとお得意の末弟の笑顔にふと笑みが漏れる。気付けば外の気配も静かになっていた。本当にこの弟は、罰ゲームなのか本気なのか見極めが難しい。
ひとりで呑気に「それにアイツ結構優しいしよ!時々だけど俺に肉分けてくれるし」と何かズレた事を言う弟を今後どう扱おうか。まぁ、どこの馬の骨かわからない男にミアをやってしまうくらいなら、いっそこの弟でも…、とそこまで考えて首を振った。これはまだ遠い未来の話だ。それにこれは罰ゲーム。ここでイエスと言おうがノーと言おうが、何が変わるわけでもない。



「だからよ、ビスタ!ミアを俺にくれ!」
「エース、お前がそこまでミアの事を想ってくれているとは…」



キラキラとした瞳で俺にせまるエースを手で制す。
これはただの罰ゲーム。ただでイエスをあげる程俺も優しくはないので、少しエースで遊んでみたのだが、さっきのはエース自身気付いているのかいないのか、本気とも冗談ともとれる告白で一瞬ミアの花嫁姿を浮かべた俺の涙腺は既に切れそうだったから、今日はこの辺で勘弁しておいてやろう。



「そうだな、お前ならミアを幸せにしてくれるだろうな。………なんて言うと思ったか!お前なんかにミアはやらんからな!!」



大人になってエースの罰ゲームに乗ってやろうと思ったが、言ってから何とも言えない気持ちになって、すぐにそれを叫びながら訂正し、エースを蹴り飛ばして部屋から出した。


部屋のドアを静かに閉めながら、これまでのミアとの出来事を走馬灯のように思い出してとても切ない気持ちになった。














(…いっっってー!!)
(ブクク、大丈夫かエース?)
(サッチてめー何笑ってんだよ…(ムカ))
(いい感じだったかと思ったんだけどねい)
(うっせーマルコ。ビスタのシスコン度合いは半端ねぇよ…。…って、ミア?なんでそんな離れたとこいんだよ?)
(や、あの、なんてーか(もごもご))
(なんだよ?)
(さっきの…、本当?)
(さっきの??)
(コクハク)
(………………)
(……(エース顔赤…))
(うううううそに決まってんだろーがばーか!!!)
(ばっ、馬鹿って言う方が馬鹿なんだからねー!(ムキー!))

(サッチ、今日も平和だな)
(ああ。若いっていいな。)





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