あの子に告白せよ!
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「わーぉ、僕負けたのって初めてじゃない?」
潔くじゃんけんで決めた勝負にチョキを出したハルタは自分の手をまじまじを見つめた。
「負けは負けだぜ!ハルタくん、頑張りなさい」
「イゾウ相手ってすっげー期待だよな」
勝ち誇ったグーを掲げてにししと笑うサッチとエースに、嫌な顔を隠そうともせずにハルタは溜息を吐いた。
「で?罰って何だっけ。」
「ハルタもう忘れたの?イゾウに告白することだよっふふ!」
二人に合わせて勝ち誇ったグーを掲げたまま、私はそう答える。あ、だめ。にひひって口元が勝手に上がってしまった。そんな私に目敏いハルタはほっぺをつまんで攻撃する。痛いじゃん!DV反対っ!
「ミアはほんっと僕の神経を逆撫でするのが好きみたいだね」
「いひゃいいひゃい!はーなーへー!!」
「ムカつくからもうひとつの罰はミアにするから」
「へっ!?」
ハルタの言葉にはっとすると同時に、ばちんと頬を元に戻された。痛い。
うっかりもいいとこだ。今日の罰には特別ルールが追加されていたことをすっかり忘れていた。
と、言っても私にはなんの脅しにもならないんだけどね!ひひひ!
「出来るもんならそうすればー?」
余裕の顔でそう言うと、ハルタは一瞬驚いた顔をした後ににんまりと顔を緩ませた。
「後悔しないでよ」
「するわけないじゃん。何でもかかってこい!」
だいたい、何が起こるか完全にわかってるのになんで後悔することになるんだ。心の準備だってバッチリできるし!
それにハルタのおまけ罰なんて大したことないし、第一、被害者のイゾウが罰の罰をしてくれるかすらわからない。それよりもハルタがイゾウに告白っていうカオスな罰のが絶対面白い!
「じゃー、罰の罰がミアってことも決まったことだし、さっさといこーぜ!」
エースのその言葉に皆頷いて、イゾウの元へと歩き出す。
今日の罰ゲームはハルタが被害者のイゾウに愛の告白をする事。プラス、特別ルールの罰の連鎖ゲームって事で被害者にも同じ罰をしてもらうのだ。ハルタはその被害者の被害者を私に決めたみたい。ま、いきなり告白されるイゾウは別だけど、最初からイゾウに嘘の告白されるって事前にわかっている私にとっては、正直こんな罰どうってことないと思うんだよね。
「あっ!イゾウはっけーん!!」
前方2時の方向!船内へと入っていこうとするイゾウを発見!
私の声に気付いてこちらを向いたイゾウは、私たちを見ると嫌な顔をした。酷いな!まったく!
「…嫌な予感しかしねェんだが、罰ゲームかい」
「うわ!誰も喋ってないのにバレてる!」
ぎゃふ!と大きくリアクションしたのに、イゾウも周りの皆もそんな私をスルーする。なにこれ!皆私の扱い酷いな!
一人忙しくリアクションをしている私なんておかまいなしに、イゾウはドアノブにかけていた手を離し、腕組みをしてこちらに身体を向けた。そして私たちはハルタをイゾウの方へと押し出す。
「そう。僕の罰ゲームなんだよね」
「へぇ、ハルタのかい。珍しいじゃねェか」
「ちなみに今回は連鎖ゲームだからイゾウはミアに同じ罰をしてね」
片眉をあげたイゾウは口元に笑みを浮かべると、今度はハルタに向き直った。
「連鎖ねぇ。面白ぇな。で?今回はどんな罰なんだい」
「イゾウに僕の気持ちを伝える事だよ」
語尾にハートマークをつけてにこりとそう言ってのけたハルタに、何故か私がドキっとする。
隣のエースは「うぉ…、」と若干引いていた。既に罰ゲームは始まっているらしい。ハルタやるなぁ。
「気持ちねぇ。まァ、聞いてやろうじゃねぇか」
「じゃあ早速。…僕、ずっと隠しとこうと思ってたんだけどさ」
「ああ」
「イゾウの事、前から好きだったんだよね」
これは告白の手本か!というくらい真っすぐにイゾウの目を見てそう言ったハルタに、間近で恋愛劇を見ている気分になる。私だって女の子。告白とか、恋愛とか、そういうのは興味津々!目の前の二人がどっちも男という事を除けばパーフェクトなシチュエーションだ。
それにしてもハルタ、何で照れずに言えるんだろ。
緊張とか、しないのかな。…ってかハルタの真っすぐな瞳にこっちが照れるんですけど!イゾウはなんでフツーでいられるの!
テンションが上がりすぎて、思わず隣のエースをばしばしと叩いたら男同士の恋愛劇に予想以上に引きまくったエースに冷静に止めるよう言われた。何だよちくしょー、テンション上がってるの私だけか!
「クク、何を言うかと思えば。んなもん、言葉通り隠し通しとけよ」
もはや私の反応は総スルー。そして予想外なイゾウの返答に、 “告白してこんな返事されたら寝込む程落ち込むわ”と思ったけど、どうやらサッチは違う考えのようで、「いや全くだ」と腹を抱えて笑っている。
もっとこう、皆で盛り上がるかと思っていたけど、期待していた展開とはちょっとずれてしまった事に、私は無意識にぷうと頬を膨らませた。
どうやら男同士の罰ゲーム、しかも愛の告白となってしまった事で、気持ちの悪さに予想以上に兄達のテンションは低くなったらしい。
「まーそうだよね。イゾウには迷惑だったよね。それじゃあ僕は潔く諦めるよ。」
「いや、そうは言ってねェだろう」
「……。てことは、イゾウも僕の事好きってこと?」
「知ってたかハルタ?俺は性別はこだわんねぇんだぜ?」
すっとハルタとの距離を詰めて、近距離でハルタを見つめる。
その光景に、ついに隣のエースはおええぇぇぇー!!!と言って逃げ出して、さっきまで空気だったラクヨウは「そりゃ冗談でも言っちゃダメだろ」とどん引き状態。唯一、それが冗談にしか聞こえないサッチと私が爆笑。さっきまで皆の反応が不服だったけど、流石イゾウ。罰ゲームの本質をわかってる!笑わなきゃ罰ゲームじゃないもんね!サッチなんて、「おま!ハルタ!掘られんぞ!」と意味不明な事を言いながらお腹を抱えて床をばしばしと叩いている。
するとその言葉に引きつった笑みのハルタがこちらを向いた。
「ちょっとサッチ、ミアの前であんまり変な発言しないでくれる?」
「いや、ワリ、口滑った」
私も十分笑ってお腹痛かったけど、仕方がないから引き笑い気味のサッチの背中を撫でてやる。優しい妹演出料は今日のおやつで手を打とう。ついでにさっきの意味不明な言葉の意味も聞いとこうかな。
「で。サッチ、掘られるって何?」
「あー。そのうちわかる。」
「何言ってんの。そんなのわかんなくていいよ。わかんなくても一生困らないから。で?イゾウの答えは?」
「あ!ハルタ無理矢理話題変えた!」
「まァ掘りたいのは山々だが、…俺も俺の気持ちを伝えなきゃなんねェんだろ?」
「まぁ連鎖だからそうなるね。てゆうか掘られないから」
「じゃあ、ワリィがハルタ、お前さんへの答えはノーだ。俺が気に入ってんのは、コイツだからな、」
わくわくとハルタとイゾウのやりとりを聞いていると、急にイゾウに手を引っ張られてドアの横へと無理矢理立たされる。引っ張られた勢いで、背中を壁に強かに打ち付けて、口から小さな悲鳴が漏れた。反射的に目を瞑ってしまったけど、背中の痛みに文句を言おうと強気で目を開けたら、思ったより近くにイゾウがいて、思わずぐっと言葉を飲み込んだ。
引っ張られた手を強く握られ、イゾウの左手は私の顔の横。それに視界を遮られ、完全にイゾウしか目に入らないこの状況にさっき爆笑していた自分も忘れて心の中で盛大に焦る。だって、私を見るイゾウの目が今まで見た事もないくらい真剣だから。いつもの余裕のある口元の笑みも今はなく、優しい兄の眼差しもない。真っすぐに見つめられて、無意識にごくりと唾を飲み込んだ。
「……ミア、好きだ」
「ッッ、」
知っていた。イゾウが罰連鎖で私に告白してくる事は。
けど、こんなの想像していなくって。
もちろん、私は嘘でもこんな真剣な顔で告白された事なんて今まで生きてきて一度もなくって。
興味津々だけど経験不足な私の頭はぐるぐると回る。頬に熱を感じるのは勘違いだと思いたい。
そんな私を見て、満足そうに、だけど視線は強気のまま、イゾウはいつものように口元を吊上げた。反射的に私の足が後ろへと動いて、これ以上下がる事は出来ないと主張するように背後の壁が私の足を押し返えす。
イゾウはそのまま私の左耳にゆっくりと顔を近づけた。
「早く、俺のモンになれよ、」
罰ゲームだとは十分承知なのに、兄とは違う低音で囁かれたその言葉に、その瞬間、完全に私の思考はフリーズした。
(……?っはははははは!ミアのヤツ、固まってらぁ!)
((イゾウの爆笑珍しいな)まだまだお子様だねー、ミアちゃんは。でもまーおにーちゃんはそっちの方が嬉しいよ)
((結局いいとこ取りはイゾウになっちゃうんだよね。別に、いーけどさ…。))
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