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「はぁぁぁぁ…!緊張する…!!」
「意味なく緊張するな。名前書くだけだろ」
「意味ないとか!紙一枚だけど意味ありまくるよ、ロー馬鹿!?」
「……。」



婚姻届を前に、さっきからミアはこのテンションで、いちいちリアクションがでかい。
紙一枚書くのに既に1時間はこうしている。



「だって、一生に一回しか書かないんだよ?すごく大事じゃん」
「当たり前だろ。二回も書かせるか」



一瞬黙ったミアはこちらを見た後、だらしなく頬を緩めた。最近のコイツは何が地雷になるかわからないのが厄介だ。



「だよねー。ふふ、ローも私とずーっと一緒がいいんだよねー!へへへ!」
「………。」



ミアが嬉しそうなのは多いに結構だが、このぶっ飛んだ花畑脳を時々どうにかしたくなる。というか、この妊婦がいつかなにかやらかしてしまうんじゃないかと気が気じゃない。以前の毒を吐くミアが今では懐かしく感じるくらい。
まぁ、ようは心配している。少し目立ってきた腹の中のガキと、ミアの頭ん中を。



「…さっさと書け」
「えっ、さっきのスルー?ひっど!」



楽しそうに笑うミアに苦笑する。



「お前は落ち着きってモンがねぇのか」
「えー、いや、だってさ。私今本当に今までにないくらい幸せなんだもん。もう最上級に幸せ。だからテンションくらい壊れるって!」
「これがミアの最上級なら、コイツ生まれた時どうするんだ?」
「えっ!…………幸せすぎて死んじゃうかも?」
「縁起でもねぇこと言ってんじゃねぇよアホ」



冗談じゃねえ。人間生むってのは、命がけなんだ。母子ともに健康であってこそだろうが。幸せすぎても死なせるか。むしろ生きて一生幸せ地獄を味わえ。
ミアの額を小突いた所で、サインする欄のみを残して綺麗に埋められた婚姻届のある欄へと目がいく。



「あ…?ミア苗字変えるのか?」
「え?当たり前じゃん、」
「へぇ。」
「何で?別姓にすると思ってたの?」
「ああ。考えても見ろ。トラファルガー・ミアって変じゃないか?」
「いや変だけど。でも結婚したら旦那さんの名前にするの夢だったからいいの!」



そんな夢聞いてねぇよ。
サバサバした性格だし、毒吐く時もあるし、態度悪ィ時もある。たまに見せる女らしさとか、恥じらいとか、全部ひっくるめてコイツの事を大事だと思うが、妊娠発覚後からコイツの女性ホルモンは必要以上に分泌されているのかもしれない。
フワフワと飛んでいきそうなミアに今まで以上に守ってやらないと、なんて柄にもねぇ事を考えて自嘲した。

さっさとこの紙を書いて、コイツを抱きしめながら寝たい。明日も早朝から仕事だ。



「わかったから、早く書け」
「いひひ、そんなに早く結婚したいのか!ローも可愛いとこあんじゃん!」
「どうしたらそこまでポジティブになれるんだ…」
「ちょ、ロー喋んないでよ集中出来ない」



若干腹が立ったが無言でそれを押さえる。束の間の静寂。真剣に自分の名前を紙に書くミアにやっと安堵の息が漏れる。紙を押さえる左手にはあの日あげた指輪が輝く。俺のものだという印に無意識に口の端が上がった。



「緊張したー!出来たよ、次はローね」



はい、と渡されたペンを受け取り、そのまま躊躇いもせず自分の欄にサインをした。



「うわ、ローのサインかっこいい。ムカつく」
「なんだ、俺にカタカナでサインして欲しかったのか?」
「いや、それはかっこ悪いからヤだ」



俺だって自分の正式なサインをカタカナになんてしたくない。断固拒否だ。

真面目な顔して嫌だと言ったミアはそのまま二人のサインが載る婚姻届を持ち上げた。さっきの真面目顔とは打って変わって、両頬を緩ませてまたあのだらしない顔に戻る。



「にやにやし過ぎだ」
「だってローが私の旦那様になったんだよ?にやにやぐらい許してよ」
「厳密にはまだ夫婦じゃねぇけどな」
「………。なんっで水差すかなー?スピード離婚推奨の人?」
「なわけあるか。明日役所持ってくぞ」
「へへへ、はぁーい!」




その返事に満足した俺は、極力負担をかけないようにミアを慎重に抱き上げて、寝室へと移動する。
その間もにやにやをやめないミアに、根負けした俺は少しだけ便乗してしまった。







(あ!ローもにやにやしてんじゃーん(うはは!))
(うるせぇ(ニィ))
(あ、ねぇねぇロー!私赤ちゃんの名前考えたんだけど!)
(気が早ぇな。なんだ?)
(ふっふっふ、この子の名前はトラファルガー・ローソン!)
(…………。冗談だろ)
(え、良くない?てかこの間ローソン行って初めて気付いたんだけどローソンってLAWSONって書くんだね!ローの息子だよ?すごくない?ヤバい発見だよこれ!)
(本気で言っているなら明日俺はお前を役所じゃなくて病院に連れて行く)
(いやあの、ごめん。冗談ですテンション上がりすぎました…)
(……(ったく、))
((なによー、そこまで言わなくたって冗談に決まってんじゃんか(ぶうぶう)))
(……名前はふたりで決めるからな、(ぎゅ))
(………うん。(きゅん、))







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