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男性不信1歩手前 <イゾウ編>





「悪ィが、頭痛薬もらえるかい」



医務室に誰もいなかったので、隣のナース室に顔を出して中にいるナース達に声をかける。
風呂に入ってそのままここに来たので、髪を結っていない俺が誰だかわからなかったらしい。一瞬の間を置いて、ナース達は目を見開いて俺の名前を呼んだ。



「イ、イゾウ隊長…!?」
「……ああ、」
「び、びっくりしました。いつも髪結っているところしか見た事なかったので…」
「驚かせて悪いな。頭痛薬が欲しいんだが、あるか?」



いちいち何故結っていないかなど説明するのも面倒なので再度用件だけを伝えると、4人いたナースの中の一人がいくつか薬の入っている箱を持って来てくれた。



「イゾウ隊長、体調悪いんですか?」
「いや、俺じゃなくて、俺んとこの隊員がな。」
「あら。お優しいんですね」
「まァ、随分辛そうだったからな。ついでだ」



くすくすと笑って、いくつかそいつの症状を聞いてくる。
それに素直に答えると、ナースは手の中のひとつの薬瓶を選んで俺に渡した。



「助かる」
「いえいえ。もし明日の朝までに良くならないようでしたら、すぐに教えてくださいね」
「ああ。じゃあ、」
「あ!イゾウ隊長!折角ですのでお茶でもどうですか?」



礼を言ってその場を後にしようとしたら、後ろにいた別のナースから声をかけられる。隊員も待っているし、断ろうとしたが、なんでもミアが今から来るらしい。最近の目に余る行動。確かに、一言だけでも話しはしておきてぇな。そう思って、少しだけ邪魔する事にした。

女特有の高い声で中へと通され、ナース達が座っていた丸テーブルへと腰を下ろす。右に二人、左に二人。俺の目の前の席は空だ。テーブルの上には4つの紅茶と菓子が並べられている。



「…お前らよく食後にこんだけ甘ぇもん食えるなァ」
「あら、いいじゃないですか。デザートですよ」
「イゾウ隊長もどうですか?」
「いや、ありがてぇが今日は遠慮しておく」
「じゃあお茶をどうぞ」
「お、ありがとな」



きゃいきゃいとよく喋るナース達に押されながらも、出されたお茶を飲む。



「それにしてもイゾウ隊長、本当に髪綺麗ですねぇ」
「そうか?」
「ええ、とっても!いつものイゾウ隊長もいいですけど、髪おろしてるともっと色っぽいですし」
「たしかにー!」
「なんだ、なんならお前さんら、今夜俺の部屋にくるかい?」



楽しそうに話すナース達に、にやりと笑って悪ノリをすると、また一層トーンを上げて女子特有の声を放つ。



「やだもー隊長ノリ良すぎですよ〜!」
「私たちには親父様がいるのでご遠慮願いまーす!」
「言ってくれんじゃねェか。後悔すんなよ?」



きゃあきゃあと笑う声を聞きながら、お茶を喉に流し込む。女達が元気だと船も元気だ。いいことじゃねぇか。
そう呑気に考えていると、一人のナースがどこから持ってきたのか、俺に白衣を渡してきた。



「なんだ?」
「それ着てくださいね!」
「…?」
「ミア、男の人がいるってわかると逃げちゃうから。変装変装!」
「あ、そうね。いいかも。隊長それ着ててください」
「後は私たちに任せて任せて!」



断るのも面倒なので、とりあえず言われる通りにそれに袖を通す。と、タイミングよくノック音が聞こえ、ナース達が返事をする前にミアが元気よく入ってきた。
なんだ。心配するまでもねェくらい、いつも通りじゃねぇか。



「やっほーみんなー!遅れてごめんね!」
「ミアおっそーい!」
「ケーキちゃんと残しといたからね」
「早く、すわってすわって!」



ケーキと聞いて目を光らせたミアは促されるまま俺の目の前の席につく。



「うっわー!美味しそー!って、あれ?あなた新人さん?あ、でも白衣ってことは女医さん?めっずらし、………、…、?……」



席についた瞬間ケーキを絶賛し、俺を見たかと思ったら一気にそうまくしたてて、そして突然固まった。頭から機械音が聞こえてきそうだが、目が点になっている時点で脳内でない脳みそ絞って色々考えているんだろう。



「よォ」



手短かに挨拶をしてやる。すると、たっぷりと間をあけて、ミアはがったーんと椅子から後ろに倒れた。倒れた瞬間頭を打ったのか、「ノォォォォ」と後頭部を押さえてごろごろと転がる。



「あらあらミア。大丈夫?」
「痛い…!でも大丈夫!」



そう言って涙目で立ち上がったミアは俺を指差して叫んだ。



「なんでイゾウがここにいんの!?」
「いちゃ悪ィか?」
「う、…わ、悪くはないけど…、」



口籠るミアの横では「あらバレちゃった」「白衣意味なかったわねー」とナース達の呑気な会話が聞こえる。



「まァ座れよミア」
「や、やだ!!」
「へぇ。俺の言う事が聞けねぇのかい」
「うぅっ、…わ、私は誰の言う事もきかないもんねー!!」



ぷいっと顔を背けたミアに溜息が出る。とんだ反抗期だな、オイ。



「ま、気持ちはわからんでもねェが、俺の言う事聞かなかった代償はでけぇぞ」
「…何よ、べ、別に怖くないもん、。」
「へぇ?」
「うっ、…はっ、早く部屋帰ればかばかばーかっ」



いーっと口の端を伸ばして俺を追い出そうとするミアにニヤリと笑う。一瞬怯んだ顔をしたが、もう遅い。忠告は、したからな。


テーブルから倒れた椅子を挟んで立っているミアに阻止出来るはずもない。俺は少し身を乗り出して、ミアのために用意されたケーキを手掴みで取りそのまま自分の口へと放り投げた。
口に広がる甘さに反吐が出そうになるけど、それを一気にお茶で流し込む。
あーっと絶叫して俺を見たミアは、ケーキが全て俺の口の中に消えると、へなへなとその場に座り込んだ。



「言ったろ、代償はでけぇってな。」



そう言ってナースからもらった薬を取り白衣のポケットに入れる。「次からはちゃんと兄貴の言う事は聞けよ」とミアに釘を刺し、ナースに茶の礼を言いその場をを後にした。



ガキ相手にやり過ぎかとは思ったが、ここ数日皆アイツに振り回されてんだ。こんくらいの仕置き、許されて然るべきだろう。








(……見た?)
(見た)
(見た!)
(口の端にクリームつけたイゾウ隊長、反則すぎ…!!)



(うわーーーん!けぇぇきぃぃぃ!!!)
(…そしてこっちはこっちで大変ね)
(ただでさえ、ここ数日サッチ隊長のスイーツ食べれてなかったものねぇ…)
((ふぅ…、))




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