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男性不信1歩手前 <ラクヨウ編>




気にいらねぇ。
何がって、あのくそガキがだ。
特にこれといって用事があるわけではない。
だが無視されるとやっぱり腹は立つもので。


つーかサッチのナニ見ただけでこの調子じゃあ、将来どうするっつーんだよ。


お節介にも、可愛くないわけじゃない妹のことを心配しながら、いつも通り酒を片手に歩みを進める。



今日も酒が美味い。
あとはミアさえ元に戻ってくれりゃあ、この船の変な雰囲気も元に戻って万々歳なんだが。



「あ」



角を曲がった所で、マルコの部屋の丸窓に何かを押さえつけながら背伸びをしているミアを発見した。
相変わらずちっちぇな。



「おーい、ミア」



また逃げられんだろうな、と思ったが一応声をかける。
すると案の定、驚いた猫のように真上に飛び跳ねたミアは俺を見た後、即回れ右で背を向けて走り出した。

いつもは「思春期のガキが、」と気にすることはないのだが、今日は何故かミアのその態度にカチンときてしまった。
そしてそのまま身体は自然に動いてしまったわけで。



「てめぇ、待ちやがれミア―――!!」
「は!?えっ!や、やあああぁぁあぁぁぁ!!」



酒瓶を放り投げて後を追ったら、一瞬後ろを振り返って俺を確認した後、絶叫して速度を上げやがった。全くもって、可愛くねぇ。



「くっ、来んなバカラクヨウーー!!」
「ミアが逃げっからだろうがぁぁ!!」



一度追いかけてしまったら途中でやめるわけにもいかなくて、結局船尾近くでミアを捕獲した。が、じたばたと暴れて俺を引っ掻く馬鹿妹にイラッとして、意外と短気な俺はミアの服を後ろから引っ掴んでそのままその小さな身体を船の外へとぶら下げた。



「騒ぐと落とすぞ。ちなみに下は人食い鮫がうようよだ」



ヒッと素直な反応をしたミアはぴたりと黙って、大人しく俺の手からぶら下がっている。猫は襟首掴むと黙るっつーが、まさにそれだな。
と言っても服が首にかかって苦しいだろうから、「逃げんなよ」と一言忠告して船縁に座らせた。



「…ラクヨウ鬼…」
「てめぇがうるせーからだろうが」



ぽつりと呟く声とともに、鼻をすする音。

このべそっかきが。

心の中で舌打ちをする。
これだから末っ子は困るのだ。涙なんて無縁の野郎共ばっかり相手にしているから、何年経っても女の扱いには困る。女っつっても兄妹なんだ。末弟のエースにするように接して何がいけねぇんだよ。



「お前な、何でそんなに避けんだよ」
「……」
「サッチのなんて確かに誰だって見たかねーけどよ、ここまでする程か?」
「……ラクヨウにはわかんないよばーか」



未だ船縁に座っているミアは海を見ていて表情は見えない。けど、ぷいと少しだけ顔を背けたのが見えた。
そういやこいつ処女っつってたか?海賊で処女とか人間国宝だな。



「まー、御愁傷様って言うしかねーけどよ、」



今度はむっと口を尖らせたのが雰囲気でわかる。



「なんつーか、アレだ。俺は別にどーでもいいけどよ、皆ミアのこと心配してんだよ。」
「……」
「だからよ、俺達は無理にしても、とりあえず誰でも話せるヤツに相談しろ。ナースとか、仲いいヤツいんだろ」



口数の少ないミアに、何で俺が焦んなきゃいけねぇんだ。
うっかり慰める言葉なんてかけてしまった。本当、柄でもねぇ。



「……ラクヨウ。…ありがとう」
「…おう」



そう言ったミアはまだ海を見ていてこちらに表情を見せない。
こういう雰囲気は、慣れねぇ。やっぱこいつにはいつも通りでいてもらわねぇと、困るな。



「ミア」
「なーに。早くあっち行ってよ」
「…はいはいオジョーサン」



酷い物言いだと思ったが、右袖でぐいっと顔を拭ったミアにこれ以上一緒にいてもこいつに酷なだけか、と渋々返事をした。
こいつは、何が何でもこっちを見ない気らしい。



「じゃーな、こんなことくらいで泣いてんじゃねぇぞ。お前は親父の娘なんだからな、」
「わかってるよラクヨウのばぁーか!」
「ほんっと可愛くねぇな」
「…泣くわけないじゃん。私は親父の娘だもん。……んでもって、ラクヨウの妹だもん、」



これだから、!!
油断した。
こいつが嫁に行くとか言い出した日には俺は泣くかもしれねぇな、。

はあ、と遠い未来のことを思い、溜息を吐いた。
ミアの言葉には返事をすることはなく、そのまま踵を返し、ミアを残してその場を後にする。
が、その前にもう一度振り返りミアに話しかけた。



「おうミア、お前、サッチ殴りたくなったら手伝ってやるから俺に言えよ」
「ガッテンにーちゃん」



こちらも見ずにそう言って片手を上げたミアに、少しは調子戻ってきてんじゃねーか、と少しだけ安堵した。





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