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隣のおっさん





「マールコさーん、いるー?」



ピンポーンと隣のおっさん家のインターフォンを鳴らす。
しばらくしてがちゃりとドアが開いて、眠そうな目をしたマルコさんが顔を出した。ワオ、寝癖姿とは珍しい。



「お前な、今何時だと思って」
「朝の8時!」
「…今日は休みだぞ、」
「知ってる!だから来たんだもん」



小さい頃から何かと良くしてくれたおっさんは大学の先生をしていて。しかもそこが自分の志望校なんだからこれを使わない手はない。



「つーかミア試験明後日だろ」
「そうなの!だからマルコさん面接官して!」
「断る。めんどくせぇ」



ぱたりとドアを閉められそうになった所ですかさず自分の足をドアの隙間にねじ込む。おかげでドアが閉まるのは免れたけど、地味に響く痛みに素直に「痛い!」と叫んだ。



「体罰で訴えてやる!」
「ハッ、口で俺に勝てると思うなよ」
「く…、じゃあレイプされたって泣く!これなら一発でしょばーか!」
「お前ほんっと性格悪いな」
「じゃあ中入れてよー!」



じたばたとドアを開けようともがく私にチッと舌打ちをして、マルコさんはついにドアを開放した。
大学の先生が舌打ちって最悪じゃん!とか思ったけど、マルコさんに面接のノウハウを教えてもらおうと意気込んで来たのでそこは顔には出さない。

絶対に面接を成功させて、マルコさんの講義を聞きにいくんだ。学部違うからこっそりだけど。
とまあ私がマルコさんを好きなことはあきらかで。ずっと隠してきた想いだからこれを知ってる人なんていないけど。
密かに想いを寄せている相手が自分だって知ったらマルコさんはどう思うだろうか。
それがこの大学を受験する決め手になったと知ったら、きっと「アホか」とひっぱたかれるだろうな。
でもさ、歳の差なんて誰にもどうにも出来ないことだから、想いは告げないにしても、せめて同じ大学で並んで歩いたりしたいじゃないか。
もちろん、勉強したい分野の学部があって選んだ学校だけど、不純な動機があったら受験しちゃいけないなんて、ルールないでしょ。



「おっじゃましまーす」



きょろきょろとさり気なく部屋を見渡し、私の定位置、ソファの右端に座る。よし、今日も女の影なし!おっさんが彼女の一人もいないなんてかなり寂しいけどね。でもまあ私は嬉しかったりする。



「コーヒー飲むか」
「飲むー。甘めで!」
「お子様」
「若い子好きなくせに」



ハッと鼻で笑ったマルコさんに、私も鼻で笑って返す。もちろん少しだけ願望も込めて。でも私以外の若い子なんて好きになって欲しくないけど。



「ほらよい」
「ありがとー」



熱々のマグカップを受け取って、ふうふうと立ち上る湯気を吹き飛ばした。
マルコさんはそのまま私の前を通り過ぎ、私と反対側のソファの左端に座った。



「で?」
「で?って?」
「何しに来たんだよい」
「面接の練習」
「今更か」
「いいじゃん、最終チェックってことで」



お願いしますマルコ先生、と下手に出ると、マルコさんは少しだけだからなと少しだけ上機嫌で言った。



「そうだねい、…じゃあ、本学を選んだ理由は何ですか」
「おお、王道だね、えーと、」
「面接官にそんな口きいたら即はねられるよい」
「えっ、厳し!てかそんなのわかってるよ」
「無駄口叩くなら俺はもう一眠りする」
「う、わかったよ、」



ごめん、と謝って、真面目に志望動機を告げた。答えた後にコーヒーをこくんと喉に流し込み、左隣をチラ見すると、マルコさんは何も言わずにコーヒーを飲んでいる。これはオッケーってことなのかな。



「好きな科目は?」
「体育です。」
「入学後にしたいことは?」
「(マルコさんの)講義を早く受けたいです…!」



じとりとマルコさんに見られたから、心の中の言葉までバレてしまったのかと焦る。
だけと、そうではないみたいで、私の面接練習はあっけなく終わった。



「え、もう終わり?」
「それだけ聞きゃ十分だ」
「完璧ってこと?」
「アホか」



ちくしょー。華の十代にそんな口きいて許されるのは、ホントに、マルコさんだけだぞ。



「じゃあダメだったんだ?」
「つーか、もう少し考えて答えろ」
「というと?」
「志望動機。あれ、ほぼ願書に書いてる通りだろ」
「え、うん。まあ」
「覚えて言ったって、面接官は既にそれ読んでんだから意味ねえだろ」
「じゃあ、なんて言えばいいわけ、」
「機械じゃねぇんだから、もっと会話しろよい」
「……難しい」
「じゃあ、暗記して読みましたっていうような話し方はやめろ。内容は同じこと言ってても心証は変わってくるからな」
「うーん、頑張る」



何となく納得はしたけど、いきなりは難しそうだ。
けど、折角もらったアドバイスだから頑張ろう。



「あとは、」
「まだあるの!?」
「…。あと2つアドバイスだ」
「うん、」
「質問に対する回答を一言で終わらせるな」



思い返してみて、あ、と気付く。確かに、答えを一言で返していた。
マルコさんの話を聞くと、適度に回答文を長くした方がいいとのことだった。
例えば、私みたいにこれですあれです!って一言で返すよりも、「身体を動かすのが好きなので体育が好きでした」とか、「○×について興味があるので入学したら○×の元になる△をより深く勉強したいです」とか。
言われると、確かにそう答えた方が心証は良くなりそうで納得させられる。
流石マルコさん。伊達に大人やってないな。



「最後は?」
「最後のアドバイスは、笑顔でいろ」
「笑顔?」
「ああ。それなら簡単だろい」



こちらを見てにっと笑ったマルコさんにつられて、安心して笑ってしまった。



「うん、それなら簡単」
「ガチガチになりそうだったらとりあえず嘘でも笑っとけ」
「わかった」
「……でもへらへらしすぎんなよい」
「…肝に銘じておきます、」



マルコさんと話したら、少しだけ安心した。
面接の時緊張したら、マルコさんのことを思い出そう。


だから、絶対上手くいくって、信じててね、マルコさん!









(そういやうちの大学、メシが半端なく美味いぞ)
(え!それは…!マルコさん、受かったら一緒にランチしてくれる?)
(お前集る気だろ)
(失礼な、!(純粋にマルコさんとランチしたいだけなのに!))
(冗談だ。時間が合えばいつでもメシくらい付き合ってやるよい)
(…っ!!( や っ た … ! !))





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