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受験なんてこの世から消滅してしまえ!
もともと頭の出来が違うんだから、同じレベルの試験を受けさせるなんて不公平だ。
と、目の前にいる男と勉強しているといつも思う。
まあ勉強してるのは私だけで、この男はほとんど遊んでいるに等しいんだけど。いいよね、既に大学決まってるやつは。


はぁー。
やってらんない。
シャーペンを投げ出して、ローにじとりとした視線をプレゼントした。



「お前集中力なさすぎ」
「だってわかんないんだもん」
「どこがわからないかわからないというオチはいらねぇからな」
「………小論文と現代文」
「漠然としすぎだ」



私では到底理解できない分厚くて目がちかちかするような難しい漢字の多い本をぱたんと閉じて、ローはこちらを見た。



「まあ、今更俺がどう言おうが、試験は数日後だけどな」
「だから困ってんじゃん…」
「何がそんなに難しい?」
「その聞き方すっごいむかつく」
「そうか、じゃあ落ちろ」
「うわひど!すみません私が悪かったです。っていうかそういうこと冗談でも言わないでよ」



傷つくからさ、と柄にもなく落ち込んで机の上に突っ伏する。
弾みで触れてしまったシャーペンがころりと机の上を転がった。

現実逃避だってのはわかってるけど、やる気が出ないのは仕方ない。
無理してローと同じ大学を志望しなければよかった。
ローとの関係だって、友達止まりなのに。
いっそのこと、ローが彼氏にでもなってくれればこの低迷してしまったやる気も浮上すると思うのだけど。



「なんだよ」



ちらりと腕の隙間からローを見上げると、偶然にも目が合ってきゅんとする。
照れてしまったのを隠すように「別に」と返事をしてフイと目を逸らした。



「…ねぇロー」
「なんだ」
「好き。付き合って」
「ああ?」



右眉だけ器用に上げて珍しく驚いた声を出したローは、そう言った後しばらく押し黙った。
ですよね。困るよね。ごめんね。ホントどうしちゃったんだよ私。受験のストレスによる戯言だよ、とほほ。



「あー、うん。気にしないで」
「はぁ?」
「嘘じゃないけど嘘だから」
「なんだそれ」



脱力感がハンパない。完全にやる気を失ってしまった。
また腕に頭を埋めて突っ伏する。
だめだなー、今日は帰ろうかな。

そんなことを思い始めた時、私の枕になっていたノートをローが無理矢理抜き取った。
何がしたいのかわからなくて、顔を上げてこてんと首を傾ける。



「…なに?」



なおも私のノートを無言で見つめるローに、少しだけ焦る。
授業中に書いた相合傘とか、ローかっこいい!とか、は、たぶんこのノートじゃなかった気がする。
いやでも、そうだったら、マジで嫌だ。

痴態を晒す前に急いでノートを取り返そうと手を伸ばした。



「いいぜ」
「は?」



だけど、何の脈絡もなくいきなりローがそういうものだから、伸ばした手はそのまま宙を舞った。
そんな私はお構いなしに、ローはにやりと不敵に笑う。



「な、にが?」
「付き合ってやっても」
「え…、え!?」



頭の中がもうプチパニック。
覚えた文法単語公式漢字全部忘れたらどうしてくれるんだ、まったく。
いやでもちょっと待ってどういうこと、。



「ろろろろろー!!!」
「クク、なんだ」
「それは、受験勉強に付き合うとか、そういう反則的な意味じゃ、なくて…?」
「ああ」
「私と、つつ、つきあって、くれるの?」
「ああ。ミアと恋人同士になるという意味の付き合うだ」



目の前が一気に虹色に輝く。
やばい、どうしよう、うれしい。確実に公式1個は忘れたな。

隠しようもない喜びに、胸が高鳴って、顔が緩む。
だけど、そんな私に水を差すようにローは「ただし、」と言葉を続けた。
とんだ落とし穴がありそうな予感に、ごくりと唾を飲み込む。



「ただし…?」
「ミアが受験に成功したらな」
「うっ、言うと思った…」



なんとなく予想はしていたけど、まずは目の前の難関と向き合えってことね。
でもそんなの、その先に待っている幸せに比べたらなんてことない!、と思う!



「出来るか?」



そう聞かれたら答えはもう決まっている。



「やる!」



元気いっぱいに答えて、ローの手からノートを奪い取る。
シャーペンを手にとって机にかじりつくように勉強を始めた私に、ふっとローは笑った。



「受かったら、俺から告白してやるよ」
「…!!」



心臓足りない!
いきなりのローの爆弾発言に口をぱくぱくと動かしローを見つめるけど、うまく言葉が見つからなくって、返事の代わりにさっきよりも猛スピードで手を動かした。
ローのせいで、頭に入っているかどうか怪しいけど、絶対に絶対にやりきってやる!!
だけど、はたと、嫌な考えが頭を過ぎって、勢いよく動いていた手は減速し、ついには止まってしまった。



「……」
「…?」
「ローさ、」
「ああ」
「もし、もしもだよ?私が落ちちゃったら…」
「縁起でもねぇこと言ってんじゃねぇよ」



自分はさっき言ってたくせにコノヤロー。
ローは少し考える素振りをして、にやりと笑ってこちらを見た。



「だがそうだな。万が一そのもしもがあれば、」
「うん…」
「ミアは俺が大学で女に囲まれてても文句言えねぇな」



はっとする。そうだ。こいつはもてるんだ。
すっごいナルシスト的発言で腹立つけど、こいつに限ってはありえないことでもない。

そうとなれば、本当に本気で死んでも受かるしかない。
死んでもなんて大げさだけど、4月からの幸せを考えれば、人生の中で1回くらい死ぬほど頑張ったっていい。
他の女なんかにローを渡してたまるか。
俄然やる気が出てきて、今度こそ机の前の問題集とノートに真剣に向き合った。







(……ミア、小論文なんだから、まず論点を明確にしろ)
(ん?)
(言いたいことをひとつに絞れ。そこからブレるな。)
(……)
(読み手に読みやすく。説得力を持ってまとめろ)
(そんな簡単に言うけど、わたs)
(黙れ。やれ。)
(…はい(怖っ!))




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