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男性不信1歩手前 <ビスタ編>





あの事件から3日、ミアがあからさまに俺のことを避ける。



「いやだからあれは不可抗力だったんだっつーの、」



冷や汗を流し苦笑いで俺を見るサッチは、ミアが俺を避けるようになった元凶だ。



「だから、その手に持っている物騒なモン、仕舞ってくれねぇかな、なんて…」



へらりと俺を刺激しないように下手に言うが、そのふざけた顔だけで俺を十分刺激していることに本人は気づいていない。



「約束しているからな。約束は守らないとな」
「え、ちょ、マジで言ってんの?俺もう一生女抱けなくなるとか勘弁なんだけど」
「俺はそれでもなんら困らない。むしろ妹をここまで怯えさせるものなどいらないだろう」



にこりと笑って、自慢の愛刀をチャキと握りなおした。



「ちょちょちょマジ勘弁!いや、悪かったって!悪かったけど、不可抗力だったんだよ、」



このフランスパンをどう甚振ってやろうか、と海賊も尻込みする程残酷な拷問方法を頭に描きながらじりじりとサッチに詰め寄る。
相当悪い顔をしていたのだろう。本気で逃げる準備を始めたサッチに1歩近付いたところで、後ろからとても小さいが、懐かしいようなずっと聞きたかった声が聞こえて即座に振り返った。


廊下の角からちょこっと顔を出していたのは、やはりミアで。


この3日間わけもわからず避けに避けられて、話すこともままならなかったミアから声をかけてもらえてことが柄にもなくうれしくて、思わずミアの名前を叫んでしまった。
それにびくりと肩を揺らしたミアは、このクズサッチのせいで男性不信になったようだった。
あんなに俺に懐いていたミアが俺を避ける日が来ようとは。
俺の精神的ダメージは海よりも深い。やはりサッチに制裁を与えるしかない。
だがそれはもちろん後回しだ。


愛刀を仕舞って、極力怖がらせないようにゆっくりとミアに1歩近付いたら、引きつった笑顔で1歩後退りされてしまった。
この世にこんな絶望の感じ方があったのか、というくらい一気に地獄へと落とされた気分になる。
だが、それを悟らせてしまっては、ミアが傷つくのは目に見えているので、何とか平静を装ってその場から話しかける。



「どうしたんだ?」
「ビ、ビスタ、…あの、ね」
「ん?」
「今日、も、やっぱ、部屋いけない、の…」
「…、そうか」



いつも寝る前におやすみの挨拶をしに来ているので、そのことだろう。
申し訳なさそうにビクつきながら言われても、痛々しくて怒る気にも攻める気にもならないのだが。



「大丈夫だ、気にするな。俺も今夜はサッチに用事があるからな」



そう笑顔で言ったら、先程まで目を合わせようとしなかったミアが俺の顔とサッチを交互に見回した。
そして俯いて口を噤んだかと思うと急に思いつめたように顔を上げて、一言だけ俺たちに叫ぶように告げて踵を返して走っていった。



“喧嘩はだめだよ、!仲良く、してね!”



ぱたぱたと可愛らしい足音が遠ざかっていく中、ぽかんと大の大人二人が立ち尽くす。
罰が悪くなって後ろのサッチを見ると、サッチもサッチで苦虫を噛み潰したような顔をしていた。



「サッチ…」
「…おう」
「とりあえず、ミアに免じてこれで許してやろう」



懇親の力を振り絞り拳をふざけたパンへと振り下ろす。



「…ッッッてぇぇぇぇぇ!!」
「男がそんな声を出すな。みっともないぞ」
「……!!」



何かを訴えたそうに涙目で俺を見上げたサッチだが、これ以上は譲る気はない。



「また女と寝れるんだからいいだろう」
「…へいへい、すんませんでした、」



まだ何か言いたそうだが、こいつもこいつでミアに思うところがあるらしい。
潔く俺の鉄槌を受け入れて、痛むであろう頭を抱えながら甲板へと向かう俺の後をついてきた。










(悪いな、邪魔するぞ)
(あらぁー、ビスタ隊長!どうされたんですか?怪我…には見えませんけど)
(いや、その、最近ミアがよく来ているだろう?)
(ああ、はい。(ふふ))
(別に何というわけではないんだが、その、皆で食べてくれ)
(え?えっ、こ、これ、超有名な限定クッキーじゃないですか!?)
(気にするな、皆で食べたほうが美味いだろう)
(じゃあ、ビスタ隊長も、)
(いや、俺は遠慮しておく。怖がらせたくないしな。悪いが、ミアをよろしく頼む)
((〜〜!!ミアは本当に幸せ者ね!)まかせてください!責任を持って餌付けしておきます!)
(ははは、頼もしいな)




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