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キツく抱擁せよ!





「ほーらね!ズルさえなければ私が負ける事なんてないのよ」



ふふん、と勝ち誇ったように笑うのはミア。
あの生中継事件から数日後、白ひげ海賊団の船内では懲りもせずまた同じゲームが繰り広げられていた。



「根に持ち過ぎだミア」
「なによサッチ。本当のことでしょ」



ぷーんとそっぽを向いて不機嫌を表しても邪険に扱われないのは末っ子の特権か。



「ま、いいじゃねぇか。終わった事だ」
「まあね、私も仕返ししたし満足」



にししと笑った先には今回のゲームに負けたイゾウ。
今は皆でのほほんと甲板で被害者が来るのを待っている所だ。別に探しに行かずとも、このぽかぽか陽気の日に外に出てこないヤツはいない。


あ、ほらね。噂をすれば。



「ラークヨーウ!!」



目一杯に手を振って自分たちの位置を知らせる。
相変わらず酒を片手にしているラクヨウは、こちらを見ると微妙な顔をした。随分勘がいいですこと。ふふふ。
ずらりと並ぶ隊長達を前に、遠目から見ても十分わかる程盛大な溜息を吐いた後、ゆっくりとこちらへ向かってくる。その速度が焦れったくて、私はぱたぱたとラクヨウの元まで駆けつけた。



「おめでとう被害者ラクヨウくん!」
「うっせー俺を巻き込むんじゃねぇ」
「ふはははは、罰ゲームに拒否権はないことをお忘れなきように!」
「…チッ」



傷つき易いお年頃なんだから、そういう態度やめようよ。全くおっさんは乙女心をわかってないなー。
ぷんぷんと腰に手を当ててラクヨウの前を歩く。だけどすぐに皆の前に来て、私はにっこりと笑った。



「じゃーイゾウ!罰ゲームどうぞ」
「げ!イゾウが罰かよ」



前回イゾウと当たった罰ゲームを思い出したのかラクヨウは一歩後ずさる。



「悪ィなラクヨウ。諦めろ」
「クソ、何なんだよ、今回の罰ってのは」



苦虫を潰したような顔でそう吐き出す後ろのラクヨウに、私の前にいるイゾウは無言で両手を広げた。後ろのラクヨウが顔を引きつらせたのが見えてくふふとにんまり笑う。



「ラクヨウ、ぎゅってしてやるから怖がらずにおいで」



満面の笑みのイゾウにもはや私は噴き出す寸前。それにしてもイゾウ、ノリ良すぎ!
振り返ってラクヨウを見ると、ガチで引いている様子。だけど、数秒イゾウを見たと思ったら急ににやっと笑った。あれ?珍しくやる気になってくれたのかな、とびっくりする。とりあえず、自分が真ん中にいたら邪魔になるので1歩横にずれた。これで心置きなく彼らが抱擁出来るはず。くふ、きも!



「…ん?」



私が横にずれた事で二人の間に阻むものは何もなくなったはずなのに、何故か二人はじりじりと私に近寄ってくる。



「え、な、なになに?」



訳がわからずもう1歩横にずれるけど、二人は更に私に近寄る。



「ちょ、怖!こっち来ないでよ!つか私を巻き込むな!」



二人の悪魔のような笑顔とじりじりと少しずつ距離を詰められていく感覚に、焦ってイゾウの後ろの隊長達を見るけど、馬鹿兄共は我関せずで呑気に「頑張れー」と手を振っている。何故私が頑張んなきゃいけないんだ。

にんまりと明らかに楽しんでいる顔のサッチに悪態を吐こうとした瞬間、両サイドから暖かい感触に包まれる。しまった油断した!



「ちょ、私を間に入れるな!」
「ラクヨウお前、怖がらずに来れて偉いな」
「んにゃー、イゾウ、手!邪魔!私出れない!」
「そりゃあお前、イゾウのためだもんよ。抱擁くれぇわけねぇよ」
「うぎゃ、ラクヨウマジ酒臭い!あっち行けー!」



私を完全無視してぎゅうぎゅうと抱擁し合う二人。…は良くても、間に挟まれている私はマジで死にそう。
いかんせん私の身長の方が小さいから抜け出したくても抜け出せないし、力でなんとかするなんてそれこそ無理。
二人のがっちりしてる胸板にほっぺたを押しつぶされながら、「ひーとーのーはーなーしーをー…聞けー!!」と言ってみるもそれも華麗にスルーされる。

こうなったら、希望はないけど馬鹿兄共に助けを求めるしかない。
ちらりと二人の胸板の隙間から隊長達を見ると、案の定爆笑してるエースとサッチ。チクショーあのやろー!覚えてろ!!
声をかける前に全く助けにならないことを悟って途方に暮れる。他の隊長達もその微笑ましいものを見るような顔をヤメロ!



「ビスタのバカー!あとで胸毛毟り取ってやる!」
「え!なぜ俺だけだ!?」



手に持ってた紅茶カップをガチャンと落としショック顔のビスタ。何故って、ビスタが一番のんびり紅茶なんか飲んででムカついたからに決まってる。助けてくれてもいいのにハーゲ!



「ちょ、ふたりとも、苦し、!つか筋肉痛い!」
「なんだイゾウ?もっとキツく抱擁してほしいのか?」
「は!?なんでそうなんのよ!??」
「俺はそれでもいいが、この罰ゲーム、どこまで続ければいいのかねェ」



そのイゾウの言葉にはっとして、試合終了のホイッスルをならすがごとく私は自分の声を張り上げた。



「じゅ、十分!もうオッケー!全然罰ってるから!」



その必死の言葉の直後、ぱっと自分を圧迫していた感覚がなくなり、甲板にへたりと座り込んだ。



「もー!イゾウもラクヨウも酷いっ!」



えーんと泣きまねしてみせる。だってこれじゃ私が罰ゲームじゃん!



「え?まだ罰ゲームし足りなかったって?」
「なんだ、ラクヨウ。それじゃあ、仕方ねぇなァ?」
「んぎゃ!うううううそうそうそ!全然酷くないっす!」



意地悪な笑顔でまたじりじりとこちらに寄ってこようとした二人に、転がり落ちるんじゃないかってくらい首を横に振って否定する。


チクショウ、今日は私の泣き寝入りか!
思ったように上手くいかなくって、くぅっと出てない涙を飲み込んだ。











(おつかれミア)
(あ、ハルタ。…なんで助けてくれなかったのよ?(じろり))
(ん?必死なミアが可愛かったから)
(またそう言うこと言ってー。そんな手には乗りませんー!)
(本当なんだけどな。あ、じゃあこれ、助けなかったお詫び)
(え、なになに?おお、アメちゃん!(きらきら))
(許してくれた?)
(うん!いっただっきまーす♪)
((こんな子供相手に、ね。(溜息)))




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