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3回まわってワンと鳴け!





「オヤジ!緊急召集って、なにかあったのかよい!?」



ばったーん、と顔色を変えて親父の部屋に転がり込んで来た長男の何と早い事。
まだ召集をかけてから1分も経っていない。



「グラララ、まあ落ち着け、アホンダラ」



そんなマルコに驚くでもない親父は、ぐいっと一口酒を煽った。
そして私はというと、今仲のいいナース達と一緒に親父の背中に隠れている。



昨夜、隊長達が私をハメて罰ゲームでズルをしていた事が判明した。もちろん私は皆に復讐する事を誓ったわけで。早速その復讐を実行する事にしたのだ。

ナース達は嬉々として協力してくれたし、上手く親父をゲームに引き込む事が出来た。つまり、今日の罰実行者は親父だ。ゲームでも親父は絶対負けないけど、可愛い娘達とのゲームとなると話は別。しっかりきっかり負けてくれて罰ゲームをしてくれる運びとなった。

ちなみに親父の罰ゲームの被害者は隊長達全員。緊急召集と称して親父の部屋に集まってもらっている。もちろん、親父の覇気で後ろに私たちがいることを隠すのも罰ゲームの一環だ。誰だって自分の命は惜しいし、第一バレてしまったらこの罰ゲーム自体がパーだ。



「親父っ!大丈夫か!?」
「緊急って何があったんだ!??」



マルコには負けるけど、それにも劣らない早さで次々と隊長達が押し寄せてくる。ばったんばったんと並大抵ではない力でドアの開閉を幾度となくされ、13人目のジョズが開けた時についにバッキーンと大きな音を立てて壊れた。
手で口を押さえながら皆の必死さに噴き出しそうになるけど、両手でなんとか押さえて声が漏れないようにする。
呆れ声を出した親父には申し訳ないけど、後で船大工チームに言って直してもらうから許してね。


最後にブレンハイムが無理矢理入って来て、ものの5分で全員そろってしまった。すごい神妙な面持で親父の前に並ぶ16人に、私の腹筋は既に壊れてしまいそうで。隣のナース達も、隊長達のあまりの焦りぶりに唖然としている。
誰も親父が罰ゲームをしているなんて思わないから、もうこの時点で私の復讐は大成功ってとこだけど、まだまだこれで許すなんて事はない。



「親父、これで全員だ。」
「ああ」



16人並んでいる端っこにいたマルコが代表で親父に告げる。その表情は深刻なそれそのもので。
私は容赦なく、手元にあった録画用でんでん虫でマルコの顔をドアップで映した。ちなみに、これは食堂と甲板に生中継で繋いでいる。鬼畜と言われようが構わない。これはいわば私の精神的苦痛に対する慰謝料である。



「今日てめぇらを呼んだのは、ひとつ、頼みてぇ事があるからだ」



親父も親父で上手くこの状況に乗ってくれて、静かに一言だけ告げた。この親父の深刻そうな声のおかげで、きっと船にいるほとんどのクルーが中継に齧りついてくれていることだろう。



「頼みなんて、水臭ぇ!」
「俺らは親父の言う事ならなんでもするぜ!」
「そうだそうだ!何でも言ってくれ、親父!」



必死にそう言う隊長達に、私は嬉々としてでんでん虫を向ける。いい歳したおっさん共の必死の顔は何者にも代え難いくらいシュールで笑いを誘う。本人達は真面目にしているのだから尚更だ。特にマルコとエース、ラクヨウの必死さがきもい。



「そうか。それなら話が早ぇ…」



腹筋に力を込めて、すぐに襲ってくるであろう笑いに対抗すべく準備をする。



「てめぇら全員、3回まわってワンと鳴け」



準備したにも関わらず、ぐっと噴き出しそうになってどうにかそれを堪えた。でんでん虫が私の我慢出来なかった笑いに合わせて揺れる。画面の前の皆が酔わないといいな。
とりあえず体制を立て直し、隣にいるわくわくしているナース達を横目に隊長達を見ると、「?」やら「!」やらを頭の上に浮かべたぽかんとした面の野郎共。
一番に意識を取り戻したのはやはり長男のマルコだったようだ。



「ど、どういう事情があるかはわからねぇが、親父が言うなら俺は…!」
「「「マルコ!?」」」



他の隊長達も何が起こっているかも分からずにマルコを見やる。そんな兄弟には目もくれず、親父を見ながら真面目な顔で、目立つバナナップルを華麗に揺らし三回まわったマルコは「ワン!」と鳴いた。同時に隣にいたナースも「マ、マルコさん…!!」と言いながら泣いた。お悔やみ申し上げる。

するとすかさずエースも「マルコずりぃぞ!」と言って元気に三回まわって「ワン!」と鳴く。全くもって何がずるいのか分かんないけど、親父の期待には誰よりも先に応えたいとかそんなとこだろう。そんな事より、「エース隊長可愛い!」と何故かナースに人気のエースに、これじゃ復讐になっていないと思わず舌打ちしてしまった。

ともあれ、マルコの珍行動を前に私は既に呼吸困難を起こしそうなくらい笑いを耐えている。思いっきり笑う事が出来ればいいのに、笑いを耐えるって本当に健康に悪い。


それぞれ顔を見合わせる他の隊長、覚悟を決めてまわろうとする隊長達を見ながら、「げ!」とある事に気付いて、後ろから親父の肩をトントンと叩く。こそこそとある事を伝えて、親父が頷くと、ほっと胸を撫で下ろした。



「ハルタ、お前はこっちに来い」



親父のその言葉に更にはてなマークが増したハルタだったけど、怪訝そうな顔で親父の後ろまで来て心底嫌そうな顔をした。見つかった私とナース達はしーっ!と指で静かに、と伝える。そんな私たちに溜息をひとつくれて、私の隣に腰を下ろすと、他の隊長に気付かれないように小声で話しかけてくる。



「で?これは何の茶番?」
「ミアちゃんの可愛らしい復讐だよ」
「復讐?また物騒な言葉を使うね」
「“ミア用罰ゲーム”箱を作ってた人たちには言われたくないけどね」
「………僕じゃないけどね」
「筆跡鑑定済みだけどね」
「………」



罰が悪そうなハルタは、「ひとつだけ入れた。ごめんね」と正直に謝ってくれたのでまあ許そう。



「でも何で僕だけ免除?」
「ん?ハルタには悪い事しないって約束したでしょ?」
「ああ、そういえばそんなやり取りもあったね。覚えてたんだ?」
「だってハルタ怒ると怖いもーん」
「わかってんじゃん」



満足そうに笑ったハルタはあの時みたいにまた私の頭を撫でて「いい子だね」と言った。
と、ここまで話してラクヨウの自棄的な「ワン!」が聞こえて来て、また親父の横からこっそり覗く。私がハルタと話している間も、でんでん虫ちゃんはちゃんと仕事をしていてくれたようだ。

その後、ラクヨウにつられるように、訳がわからずもとりあえず3回まわってワンと言う隊長達が面白すぎて、笑いが堪えきれず「フグゥ…!!」という何とも奇妙な笑いが口の端から漏れた。
まわったときにサッチのリーゼントがビスタの厚すぎる胸板に突き刺さったり、ブレンハイムがまわるたびに船が尋常じゃないくらい揺れたり、意外にもイゾウが親父から目を逸らして「わ、わん…」と言ったのもツボで、今回の復讐は本当に大成功だと意地の悪い笑みがにんまりと顔に乗る。


そして全員が被害を被った所で、親父がとどめの一言を言った。



「急に呼び出して悪かったなァ。もう帰っていいぞ」
「「「「??????」」」」



捨てられたウサギのような顔で「ちょ、親父、」と言っているマルコも録画中。ポカン顔のサッチも録画中。必死に説明を求めるラクヨウやイゾウも録画中。困った、とヘタレ顔のビスタも録画中。普段は見れない隊長達の頼りない表情を全て録画して、これで数日は隊員達から後ろ指指されていればいいよ、と内心毒づいた。



「親父、納得出来ねぇよい!ちゃんと説明してくれ」



そういう長男に皆がうんうん、と頷く。
すると私の後ろでハルタが馬鹿なことを聞いて来た。



「ミアさ、復讐の復讐って知ってる?」
「大丈夫。そんなことしたら親父に言いつけるから」
「……怖い妹を持ったね、全く」



ふうと苦笑まじりにそう言ったハルタは、親父の横から皆の前に出て親父の代わりにマルコの質問に答えた。



「つまり、妹は大事にしようねってコト」
「グララララ、そういう事だ」



ハルタはそのまま「緊急じゃないみたいだし僕もう帰るね」と親父に言って壊れたドアをくぐる。
未だ納得のいかない顔の隊長達も、事情を知っていそうなハルタの発言に、顔を見合わせながらハルタについて出て行った。



残された私たちは、予定通り既に準備していたティーセットで親父と優雅にアフタヌーンティを楽しむ事にした。
ちなみに録画したテープはナース室で厳重に保管されることになった。









(ミアー!聞いたぞお前!)
(なによラクヨウ、ズルする方が悪いでしょ!)
(俺なんかお前、隊員達の信頼取り戻すのにどれだけかかったと…)
((ざまあみろサッチ)文句あるなら正々堂々ゲームで勝負しようよ)
(なんだとやるかー?!)
(罰ゲームは例の箱の中から決めるけどね。負けたらちゃんとやれよ(にこ))
((((スミマセンでした………))))
(わかればよろしい。…あれ?そういえばマルコは?)
(“マルコさん、プライドのプの字もないんですか?”って隊員に蔑んだ目で言われてから寝込んでる)
(ブフッ!!あ、ごめ(ぶくくく))
((ひでぇ……))




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