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彼を誘惑せよ!





アイツらぜっっっったい笑った事後悔させてやる!


そう息巻きながらずんずんとエースの部屋へと進む。
今日も今日とて罰ゲームで負けてしまった私は、いつもからは想像もつかないくらい大人っぽい格好をしている。もちろん、仲のいいナース達に手伝ってもらっての格好だけど。

今回の被害者はエース。罰ゲームは「誘惑」。
いくら私に色気がないからって、隊長達全員で爆笑するのは酷いと思う。私だって女の色気くらい、むんむんのまんまんで放出してエースなんてけちょんけちょんにする事だって出来るのに!


エースの部屋の前で、一度大きく深呼吸をする。
演技派女優ミア、行きます!!



「エース、ミアだけど…。入っても良い?」



控えめにノックをすると、「おー」と怠そうな声が聞こえる。ゆっくりとドアを開けて中をのぞくと、机に向かって何かを書いているエース。姿勢はお世辞にも良いとは言えない。エースはこちらをチラリとも見ずに机の上の書類と格闘中。
静かにエースの背後に回って、親父のマークをしげしげと見る。だけど珍しく集中しているのか、そんな私の視線も気にせず黙々と書類に文字を書いて行くエースが、なんだか面白くない。



「ねぇ、エース。構って?」
「あー。ちょっと待ってろ、あと少しだから」



…折角お色気むんむんな格好をしているのに、全然楽しくない。ちらりともこっちを見ないし。
こうなったら、…もちろん邪魔するに決まってる。

エースの背中にゆっくりと手を這わせて、首筋を通って、きゅっと抱きしめた。ついでに耳元で甘く喋ってみる。



「ねぇ、そんなに書類の方が大事なの?」



言った瞬間に、がったーんと盛大に椅子から落ちたエースに、本気でビビって反射的に身を引く。よかった、巻添え食らわなくて。
一瞬の後、床で尻餅をついてこちらを指差しながら口をぱくぱくしているエースに噴出しそうになったけど、気合いでそれを押し込めた。



「大丈夫?怪我してない?」



指された指をそっと包んで心配そうにエースを覗き込む。包んだ瞬間に手を引っ込めたエースに、またもや笑いそうになったが、唇を噛んでなんとか我慢。その代わりに私の腹筋が悲鳴を上げる。



「お前、な、な、なんだよ、そ、え?」



上手く頭が回らないのか、ほのかに頬を染めながら言葉にならない言葉を紡ぐエースに内心にんまりと頬を釣り上げた。

そう、今こそ!
私の本領が発揮される時!
見てなさいよクソ兄共!!



「だって、私、エースと一緒に遊びたかったんだもん」



膝を折って手をつき、ない胸を頑張って強調してエースに詰め寄る。



「はっ!?、ちょ、ミア、待っ、!」



待つわけないじゃんエースのばーか!
ふひひひと笑いたいのを頑張って押さえ、エースの膝の間に入って腰の横に手をつき、身体を極限まで近づけて、潤んだ目でエースを見上げた。



「……ダメ?」



上目遣いは効くと他の兄達で実験済みだし、絶対勝算はあると思っていたんだけど、一瞬固まったエースの目がいつもと違うような気がして、不安になる。多分2秒も経ってないけど、なんだか間が持たなくなって来て「冗談でしたー!」っていつものノリで言おうとした瞬間に、くるっと視界が回って 強く頭を打ち付けた。



「っったぁ…、……っ!」



どうやら床に頭を打ったみたい、と呑気に構えていたら、胸元に慣れない感触がしてびくっとする。


あ、あれあれ、ええ、はっ、え!??


ぐるぐると目が回るような感覚を一生懸命押さえつけて、なんとか自分の状況を把握しようとする。
だけど、一瞬こちらを見たエースは何か怖い目をしてるし、私もその目を見たら何も言えなくて。

エースは私を無視して、そのまま首筋に舌を這わせた。初めての感触に背中がゾクリとする。拘束されているわけでもないけど、身体が全然言う事聞かなくて、動かなくて、…怖くて。
エースの手がスカートの中の腿を撫で上げた時に、やっとの事で声が出た。



「…エースッ、ばっ、ばかっ…!…やめ、」



思ったよりも弱々しく出た涙声の私に、一瞬でエースは身を引く。そして、表情を硬くした後、にかっと笑った。



「ビビった?」



言葉の意味が一瞬分からなくて、目尻に涙を浮かべたままぽかんとする。するとエースが私の手を引っ張って起こしてくれた。



「ミアの自業自得。俺にあんなん通用すると思うなよ」



にっと笑ったエースに徐々に状況が理解出来て来て、「誘惑」の仕返しにあったんだって事を理解する。とたんになんだかほっとして、ぽろぽろと涙がこぼれて、でもエースに返り討ちにされた事が悔しくて、エースの胸を容赦なしにぽかぽかと殴る。



「馬鹿っ!エースのアホ!!」
「わ、悪かったって!泣くなよ!」



急に焦ってエースはそう言うけど、もう許さん。絶対許さん!



「絶対許さん。怖かったバカアホクソマヌケエース!!」
「ぐ、…悪かった。本当に、ごめん」



真剣な顔で床に手をついてぺこりと頭を下げる。
そんな顔、急にされたら今度は私がどうして良いかわからなくなる。
けど、絶対に許さないと言った手前、すぐに良い顔なんて出来ないし、私も素直な方ではないから。



「……本当に悪いと思ってる?」
「思ってる。ごめん」
「ほんとーの、ほんとーに?」
「うん。ミアが俺にするのと、俺がミアにするのは全然違った。本当にゴメンナサイ」



またぺこりと頭を下げるエースに、罰ゲームとはいえ私も同じ事をエースにしたんだよなぁと思うと、まあお互い様とも思えるので許す事にする。私とエースがするのでは違うってのはよくわからなかったけど、もういいや。

気を取り直して、今度はぶすっとした、いかにも不機嫌ですって顔を作る。



「もう絶対同じ事しない?」
「…ミアが嫌がる事はしない」
「絶対?」
「絶対」
「じゃー許す!」



いひひ、と飛び切りの笑顔でエースに仲直りのハグをあげようと飛びつ……こうとしたら、エースは自分の手を私の顔の前に持って来てそれを止める。



「…なに??」
「その前に。ミアも約束」
「うん?」
「俺にも、同じ事をしない事」
「わかった!私もエースが嫌がる事はしない!」



どっちにしろ罰ゲームじゃないとしないしね。



「じゃあ仲直りー!」



もう一度いひひと笑うと今度はしっかりとエースに抱きついた。





((俺の理性保たなすぎ…。つーか俺、もしかして、ミアのこと…、…参ったな、))
((何かあったら全力で吹けってサッチにもらったこの笛、結局使う暇なかったなぁー。まあエースも冗談だったんだし、いいか))
((何にせよ、上手くごまかせて良かった(脱力)))



((…てかいつまで抱きついてんだよミア!!…っこなくそーー!!(涙)))




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