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世界で一番大好き作戦!





「ハールター!」



ばたーんと元気よくドアを開けて、末の妹が僕の部屋に入って来た。



「…ミア。入る時はノックくらいしようね」
「はーい、ごめんなさーい」



間延びした声でそう返事をすると、ミアはベッドに飛び乗って、そこで本を読んでいた僕の前にくるりと背を向けて座った。

ほかほかと火照った身体と濡れた髪の毛からお風呂上がりである事は一目瞭然。ぽたぽたと髪の先から落ちる雫に、読んでいた本から目を離して眉を寄せた。



「……なに?」
「えへへ、罰ゲームついでにハルタに髪乾かしてもらおうと思って!」



読書の邪魔をされるのは好きではないから、無愛想に返事をしてしまった事に少しだけ後悔したものの、そんなのは気にも留めないのか、ミアは笑顔で振り向いてタオルを差し出して来た。
その笑顔に僕は毒気を抜かれて、手に持っていた本を完全に閉じ、ベッドの端へと投げる。



「仕方ないなぁ」



呆れまじりでそういうと、妹特有の人懐っこい笑みでお礼を言われる。
それを隠すように僕はタオルを受け取ってミアの頭に被せた。



「わぷっ!ちょ、もっと優しくしてよー」
「わざわざ乾かしてあげてるのに文句言うの?」



がしがしと少し乱暴に拭いたら、不満の声が出て来て、ミアに気付かれないように笑う。



「ビスタはもっと丁寧に拭いてくれるもん…」
「あ、そう。じゃあビスタにしてもらえば?」
「わ!ごめん!嘘です、ごめんって!」



あっさりと乾かす手を止めると、焦ったようにミアの言葉が追いかける。
ころころと変わるミアの表情に、心が和む。



「そう言えば、罰ゲームって?ミアまた負けたの?」
「そうなの!なんか仕組まれてるとしか思えないくらい負け続けるんだけど」



後ろからでも分かるくらい、頬を膨らませて不満顔になる。
そりゃもちろん、仕組まれてるんだから、勝てるわけないよね。なんて、口が裂けても言わないけど。これと言った被害もないし、僕もそこまでお人よしじゃない。



「ミアが弱いからでしょ」
「ぐ、それはそうなんだけど、さ」



更に不満そうな声を出し、ミアは立てた膝を両腕で抱いた。さっきとは打って変わって丁寧に髪から水気を取りながら、不貞腐れるミアとの会話を続ける。



「で?今回の罰ゲームはなんなの?」
「ハルタにお風呂上がりに好きって言う事。」
「…へぇ」



また馬鹿な事を罰にしたものだ。兄弟達はミアに好きと言って欲しいのだろうか。罰にしてまで。
正直、直接本人に好きかどうか聞けば、絶対ミアは好きだと返してくれると思う。

まあ、罰ゲームだからそこまで深く考える事はないか。

そこまで考えて、タオルを取った。綺麗に拭いたから、もう雫が落ちる事はない。



「じゃ、罰ゲーム、言ってごらん」
「…ハールタァー?そんなに余裕でいいのかな?」



急に顔だけこちらに向けたミアは、にひひ、といつものあの悪戯笑顔で。
あ、コイツ、何かするな、と思ったら、「準備はいい?」と聞いてくるから、兄としての余裕を見せて「いつでもどうぞ」と答えた。
もう一度、楽しそうな笑みを浮かべたミアは、身体を反転させると両手を伸ばし僕に抱きついて来た。



「ハルタ!世界で一番だーいすき!」
「…っ、」



咄嗟の事に声が出ない。
その瞬間に、気付きたくない事に気付いてしまた。
無意識に目を背けて、一枚壁を張っていたつもりだったのに、その壁はこの馬鹿の予想外の行動でいとも簡単に壊された。


いや、予想出来なかったと言えば嘘だ。
だけど、僕の本能は既にこれに犯されていたみたいで。
とびきりの笑顔で無邪気に抱きついてくるミアに、僕の中で今まで無意識に繋げるまいとしていた糸が1本に繋がってしまった。こんな簡単に。ミアの行動ひとつで。

ぎゅうぎゅうと僕の身体に抱きついて首筋にすりすりしてくるミアに自然と手が動く。細い身体に手を回すとすっぽりと僕の胸の中におさまってしまった。未だ温かさが残る身体に、ふわりと香るシャンプーの香り。気付くと、ミアの首筋に顔を埋めていた。



「…ハルタ?」



何も話さない僕を疑問に思ったのか、抱きつく手を緩めながら不安そうに声を出すミアにはっとする。後2秒遅かったら、このままミアの首筋に色を残す所だった。自分が綱渡りから足を滑らそうとしていた事実に、ゾクリと嫌な汗をかいたと同時に、ミアに気付かれないように自嘲気味な溜息が漏れた。

それから一拍置いて、自分の手を緩める。そのまま抱擁を解くミアに若干の寂しさを覚えつつも、ミアの前ではいつもの僕に戻る。完全にお互いの身体が離れて、向き合うように座ると、珍しく僕はミアがいつもする悪戯笑顔を向けた。



「世界で一番、僕が好きなの?」
「えっ!」
「親父よりも、ビスタよりも?」
「えぇっ、う、うーん…、」
「じゃあ、さっきのは嘘?罰で仕方なく言っただけ?」
「う、嘘じゃないよ!でも、皆も同じくらい好きだから、順番は、ちょっと…うぅーん…」



困った、と眉を寄せて腕組みをしているミアに、僕は追い打ちをかけるように話す。



「僕は、ミアの事、世界で一番大好きだけど?」
「へっ!?」



驚いた声を出して、その後嬉しそうにしたミアに少しだけイラッとして、目の前の小さな鼻をつまむ。



「なんてね。嘘だよ」
「えぇ!?」



今度はしゅんと眉を下げて悲観的な声を出す。本当に、ころころとよく表情が変わるものだ。



「…好きだよ。…でもミアと同じ。」
「私と?」
「順番はつけらんない。親父も家族も皆一番大事。ミアもその一番大事な中の一人」
「わ、私も!そう!みんな大事だから順番つけらんない!」



それが言いたかったの、とキラキラとした目で言うけど、残念。僕はもう気付いてしまったから、そんな言葉では嬉しくなんてならないよ。

だけどそれを察知させる程僕も子供じゃないから、笑顔でミアに調子を合わせる。
馬鹿だなぁ。同じなわけないでしょ。一番は一番でも、家族愛と恋愛は違うんだよ。



全く、本当に面倒な事になったな。
欲しいものを奪い取る自信はある。けど、気付いてはいないけど、末弟もコレにご執心だからね。家族仲を壊すのは僕は絶対に嫌だ。だからと言って、諦めるなんて柄でもない。
とりあえずは、そうだな、…傍観といこうか。



「…ホント、ミアは問題児だよね」
「なんで!?」



急な僕の言葉に、訳分からないと言う顔で詰め寄るミアに、そっと溜息を吐いた。






((頼むから、僕に隙を見せないでね))






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