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彼の唇を奪え!




私の呪いは思った以上に効果覿面だった。
用意されたフルーツにテロテロにチョコをつけてぱくりと口へ運ぶ。



「サッチよく私が食べたいの分かったねー」
「まあな」



昨晩落書きしたおでこにはまだうっすらと「変態王」の文字が残っている。つっこむと絶対私の仕業だってバレるから、絶対に言わない。私ってば賢すぎ!



和やかにテーブルを囲んで、皆でフォンデュを食べる。実は私、また罰ゲームで負けてしまったんだけど、フォンデュが美味しすぎてとりあえず後回し中だ。



「ミア、早く罰ゲーム行けよ」
「やだよー。その間に皆食べ終わるでしょ」
「まー待っとけばエースも来るでしょ」



フルーツをチョコに絡める手は止めずにラクヨウもハルタも私も他の隊長達も席を立とうとはしない。
と、案の定、そこに大きな声でエースが飛び込んで来た。



「あー!お前ら何食ってんだ!?」
「おー、エース。来たな。」
「食いもんに関しての勘はすげぇからな」
「あ、エース!チョコフォンデュだよー!はい!」



丁度チョコに絡め終わったイチゴをエースの口元に持って行ってあげる。ぱくんとそれに食いついたエースはもぐもぐと口を動かした後「ん、美味い」と頷いた。



「じゃ、罰ゲームだな」



にやりと言ったラクヨウに、「分かったわよ」と渋々答える。
それにエースはきょとんとした顔で、2つ目のフォンデュを口にした。



「なんだ、ミアまた罰ゲームなのか?」
「うん。なんか最近私ばっかり負けんだよねー」
「そ、そ、そうか!残念だな!」



急に笑いながらバシバシと肩を叩くエースに若干違和感を覚えるけど、早く罰を終わらせないと私のフォンデュがなくなってしまう。



「まぁ負けたから仕方ないけどね。今回はエースが被害者なのでよろしく!」
「おう!で?罰は何なんだ?」
「エースにキス!」
「ぶっっ…!」



まあ、びっくりするわな。兄妹でキスなんて。
思いもよらない罰に、口に入れていたものを噴き出したエースは、それがラクヨウにかかっている事も気にせず口を拭って私を凝視した。
予想通りと言ったら予想通りのエースの反応に、悪いけど私はラクヨウを指差しながら爆笑する。



「ちょ、ミア、おまえ、それ本気か?」
「え、だって罰ゲームは絶対なんでしょ?」
「そうだけど、よ、…」



そう言ったエースは何を思ったか、隊長達をじとりと見る。すると隊長達は「俺じゃねえ」とでも言いたげに、それぞれ首を振ったり顔の前で手を払ったりした。
きっとこの罰を誰が考えたかって事なんだろうな。と思ったけど、そこまで思ってあれ?と気付く。そういえば、この罰って誰が考えたんだろう。ゲームを始める時には既に決まってたような…?



「ま、何でもいいじゃねえか!罰は罰だろ!」



ラクヨウのその言葉にハッとしてさっきまでの思考を停止させる。そうだよね。私のフォンデュがかかってるし、さっさと終わらせてしまおう。



「エースは私とキス嫌なの?」
「はぁ!?…、んなわけ、ねぇだろ、」



少し目に涙をためて言ってみたら予想通りの言葉が返ってくる。まあこれで「嫌に決まってんだろ!」とか言ったら鬼だけど。

思いの外スムーズに行きそうで、にひひと笑う。エースの前に立ってみたけど、背伸びじゃ多分届かないから、ちょいちょいと手招きして屈んでもらった。


昨日はサッチのほっぺにキスしたし、こんな罰ゲーム、ちょろいちょろい。
そう思いながら、後はキスだけ、と顔を近づけたけど、今までにないくらいにエースの顔が近距離にあって、何の前触れもなく、ばくんと心臓が飛び跳ねた。


あ、れ…?


さっきまで普通だったのに、どきどきと早くなる鼓動が私の顔を熱くさせる。フォンデュの為に早くしちゃおうと思ってたけど、エースとキスする直前になってそんなこと頭の中から吹っ飛んでしまった。



「…だから、無理すんなって。つーかお前、初キスすらまだなんじゃねぇの?」



固まってしまった私に、体勢を戻したエースがそう言う。
別に馬鹿にしたように言われたわけじゃないけど、いつも子供扱いされることに若干の不満を覚えていた私は、私だって大人の女だって事を認めさせたくって、ついうっかり言い返してしまった。



「別に、初めてじゃないし!」
「「「「え!?」」」」



その言葉にエースだけじゃなくて他の皆も目を開いて驚く。その反応に、隊長達は私が初めてだと思った上でこの罰を考えたのかと、今驚いた奴らの頭をバリカンで刈上げたくなった。



「お前、初めてじゃないって、」
「初めてじゃ、ないもん」
「い、いやいやいや、嘘吐くなって」



なんだか必死な隊長達に、そんなに私は子供に見えるのか、とむすっとしてしまう。あまりにも皆がしつこいから、フォンデュには手を付けないで後ろの席で傍観を決め込んでいたイゾウを指差した。



「そんなに言うなら、イゾウに聞いてみればいいじゃん!私の初キスイゾウだもん!」
「「「「「はあぁぁぁぁああぁぁ!???」」」」」
「…は?」



一気に皆の視線がイゾウに向かうが、当の本人はぽかんとした間抜け面。



「ちょ、待て、ミア…。おまえさん、まさか、…アレが初めてだったってことかい…」
「うん。アレ、初めてだった」
「そりゃあ、なんつーか、わ、悪かったな…」



辿々しいイゾウは何だか面白くて、「気にしてないよ」と言いながら笑ってしまった。
それに固まっていた他の隊長達がはっとして次々とイゾウに詰め寄る。



「おうおう、イゾウさんよォ。“アレ”とやらを詳しく聞かせてもらおうじゃねぇか」
「てめぇいつの間に妹に手ぇ出してんだよ」



流石海賊。ガラの悪さでは天下一品。シメる!シメる!と強面で暑苦しくイゾウにまとわりつく兄共に、そんな過保護な、と思ったけど、隣にいたはずのエースまでポキポキと指を鳴らしてそれに参戦しようとするから、慌ててエースの腕を掴んで止める。エースまでいなくなったら、罰ゲームが出来ないじゃない。

チラリと皆の方を見ると、イゾウに絡んでて全くこっちを見ていない。キスするなら、今のうちだ。

ぐい、とエースの腕を引っ張り、首の後ろに手を回してエースの顔を引き寄せる。恥ずかしかったけど、皆の見ていないこの隙にするしかない。精一杯背伸びをして、きゅっと目を瞑り、エースの唇に自分の唇を押し当てた。

一瞬だけ触れ合ってすぐに離す。

速攻で皆の方を確認したけど、皆はイゾウに夢中で全く気付いていないみたい。ほっと息を吐いて、火照る頬を押さえながらエースをチラリと見上げた。するとそこには固まっているエースがいて。キスくらい何度でも経験ありそうなエースのこの反応に、一瞬目が点になり、そしてすぐに噴出してしまった。



「え、まさかエースこそ初めてだったんじゃない?」
「ばっ、!んなわけあるか!」



笑って冗談を言う私の言葉にハッとして否定するけど、それもまた面白くて声を立てて笑った。
自分からキスした事の恥ずかしさから、私の頬の熱はまだとれない。
エースから目を逸らしてわいわいとイゾウを取り囲んでいる兄共を見ながら、どうして私の初キスごときに皆がこんなに騒ぐんだろう、と思う。やっぱり過保護?じゃあ、これは皆に教えない方がいいのかなぁ、と思いながら、隣にいるエースを手招きして手で口元を隠して内緒話をするように、私はこっそりとエースに告げた。



「実は私からキスするのは、エースが初めてなんだよ」



いひひ、と照れ隠しも含めた悪戯笑顔で見上げると、なんだか神妙な面持ちのエースが、被っていたテンガロンを取り私の頭に無理矢理のせた。と同時に走って食堂を飛び出す。



「は?エース…???」



その場に取り残された私はぽかんと口を開けて立ちすくむ。
だけどすぐにハッとして、フォンデュの事を思い出した。エースもいないし、隊長達はイゾウに絡んでるから今がチャンス!
今は誰も手を付けていないフォンデュを満喫しながら、エースのキスはチョコの味がしたなぁと思い出し、一人でまた少し照れた。











(ちょ、エース隊長またっすか!?)
(げほっ、…ぐへっ…!!)
(下!海獣だらけなんすよ!ちょっとは助ける方の身にもなってくださいよ!)
(わ、わりぃ………)
((どーせまたミア絡みなんだろうけど…))






(あ、ビスター!)
(お、ミア。今日は朝から会えなくて寂しかったぞ)
(えへへ、私も!あ!実はね、今日ね、)
(うん?何かあったのか?)
(罰ゲームでエースにキスしたんだよ!)
(ああぁぁあぁ!??エース…ミアの初めてをよくも……(パキポキ))
(え?私の初めてはイゾウだよ?)
(#$%^&*$!%^@!!!???)
((あ、ヤバ!口止めされてたのに言っちゃった!))





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