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寝ている彼の頬を奪え!





負け続きの私の今度の罰ゲームはサッチの寝込みを襲うこと。…と言ってもほっぺにちゅーのみ。
そんなの楽勝!と言わんばかりに、まんまるなお月様が空高く登った頃サッチの部屋に潜り込んだ。
暗い部屋の中で微かに聞こえる寝息。ふふふ、寝てる寝てる。

そろりそろりとサッチのいるベッドまで近付いて顔を覗き込む。窓から漏れる月明かりでうっすらと見えるサッチに、彼が起きいていないことを再度確認した。



「……」



サッチの顔を見ていると悪戯心が疼いて、笑うつもりはなかったのににやりとしてしまった。
罰はほっぺちゅーのみだけど、それだけじゃ楽しくないもんね!

心の中で鼻歌を歌いながら、サッチの机に向かう。どうせなら、顔に落書きして行こう。
想像して、堪えきれずにニシシと笑いながらペンを探す。



「うわ、なにこれ…」



なかなかペンが見つからなくて、サッチの机を色々漁っていたらいらん雑誌が出て来た。衝撃と不快感で思わず低い声が漏れる。
まあ、男所帯の船に乗っているのだ。こういうものを全く見ないと言ったら嘘になるけど、女の私にとってはあまり好ましいものではない。とりあえず、女の人が載っているそれは、見なかった事にしてそっと元あった場所に戻しておいた。うん。私なんていい妹なの。

もう一度サッチを見て、引き出しの奥に転がっていたペンを掴み、また静かに近付く。


にひひ、と悪魔の笑みを向けて、ペンを掲げた。
ベッド脇に座って、サッチに顔を近づける。定期的に聞こえる寝息を再度確認し、おもむろにサッチのおでこにペンを走らせた。



「変、態…」



少し大きく書きすぎたかな、と書き始めた時に思ったけど、消せるわけなんてないから、そのまま続ける。



「…王!」



…に、俺はなる!って書きたかったけど、流石に長いから、変態王にしておいた。おでこに文字が入っただけなのに、サッチの顔はアホ面に早変わり。



「ぶく、…くくく、」



堪えきれない笑いが口の端から漏れる。けど、すぐにサッチの口の端がぴくぴく動いているのが見えて、「ヤバい、起きる!」と慌てて両手で口を塞いだ。
これは早々にここから退散した方が良いかもしれない。


すくりと立ち上がり、ペンを元の場所に戻す。急いでドアへ行こうとしたけど、そこではたとここへ来た目的を思い出した。



「あ、やば。罰ゲーム、」



すっかり忘れて、悪戯だけして満足する所だった。

もう一度サッチの所へ戻って、罰ゲームを遂行する。
寝ている角度から、頬にキスするのは難しかったけど、1秒触れるか触れないかの素早さでサッチの頬に自分の唇を当てる。



「、……」



本当のキスなら何のその、ほっぺちゅーくらいならステファンにするようなものだし、大丈夫!と思ってたけど、実際にしてみると、なんだか気恥ずかしさで無意識に自分の前髪を撫で付けた。
サッチも寝てるし、誰も見てないはずなのに、変なの、。

勝手に微妙な雰囲気を感じ取り、足早にドアまで行く。早くこの場を立ち去りたい。
くるりとサッチに背を向け今度こそドアへと手をかけた。
とそこで、「あ」とある事を思いつき声を出す。ついでだし、と、もう一度振り返ってサッチを見た。



「ちょーこーふぉーんーでゅー」



サッチに向かって両手を差し出し、気合いを入れて、明日のおやつがチョコフォンデュになるように呪いをかける。



「これでよし!」



ここでやる事は全てやり終えた!という達成感とともに、今度こそ本当の本当にサッチの部屋を後にした。







((ばたん。パタパタパタ))

(…………ブ、ハッッ!、ククク)
((くっそ、完全に起きて怒るタイミング失っちまったぜ。ミアのヤツ、ぜってぇ俺が起きてる事に気付いてねぇよな))
(ま、変態王はいただけねぇが、明日はフォンデュにしてやっか)





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