太陽よりも
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皆でカウントダウンをして新年を祝って、飲みに飲みまくって誰も彼もが酔いつぶれた頃。
床に転がる大量の酒瓶とクルーの間を縫って、目当ての人の所まで歩く。急がなければ。空が白み始めている。
「エース。…エースっ!」
他の人を起こさないように、エースの肩を揺する。といっても、エースの鼾の方が煩いから、ちょっとくらい叫んでも周りが起きる事はないけど。
何度か呼びかけると、エースは眉間に皺を寄せながらも目を開いた。
「…ん、ミア…」
「おはよ、エース!」
「おう、」
まだ怠そうに起き上がると、くあ、と大きな欠伸をひとつ。それがエースらしくて、クスリと笑いが漏れた。
「どうした?寝れねぇのか?」
「ううん、エースに見せたいものがあるの」
「見せたいもの?」
「うん、来て!」
こくんと頷き、エースの手を取って引っ張る。それにつられるように立ち上がると、エースはぐいぐいと引っ張る私に黙ってついて来た。もう一度大きな欠伸をしたせいか、目尻には涙が浮かんでいる。
少し早歩きで、船尾までエースを連れてくる。見張りを残してほとんどが酔いつぶれて寝ている今は、とても静かで、ざばざばと波の音しか聞こえない。
「ここに何かあるのか?」
「えへへ、あっち。ほら、」
青の中、オレンジ色に染まりつつある海の上を指す。エースが顔を向けた時、ちょうど、今年一番目のお日様が顔を出した。途端、眩しさで目を細めてしまう。
ちょこりと顔を出した太陽を見た後、隣のエースを見る。眩しそうだけど、太陽を見つめて口元を上げる自信ありげなエースの顔に釘付けになった。
そんな私に自分自身で気付いて、どう足掻いても私にとっての太陽はこいつで本物の太陽でもそれに勝つ事は出来ないのかと苦笑した。
「ん?どした?」
いきなり笑った私を不審に思ったのか、エースはこちらに目を向けた。
半分程顔を出した太陽に照らされてキラキラして見えるエースは、いつもより3割増格好いい。
「え?うん、…エースと初日の出見たかったんだ」
だけどそんな私がバレないように、もっと見ていたかったエースから目を離し、海の向こうへと目を向ける。もう完全に周りは明るくなっていた。
そっか、と嬉しそうにしたエースはそっと私の肩を抱き頭のてっぺんにキスを落とした。
「エース」
「ん?」
「お誕生日おめでとう」
「え、ああ。…サンキュ」
照れたように礼を述べるエースは、去年から何も変わっていない。何故か誕生日を祝うと少し戸惑って照れるのだ。そんなエースに背伸びをしてキスをあげる。
「エースに会えてよかった」
「おれも、ミアに会えてよかった」
彼に出会えた事が本当に幸せで、今年初めての心からの言葉と笑顔をエースにあげる。どこの誰かも知らないけれど、エースを生んでくれたご両親に感謝。
「来年も、再来年も、ミアにこうやって祝ってもらいてぇな」
照れたようにぽつりと呟くエースに目を丸くする。そんなの、聞かれなくてもそのつもりだよ。
「何言ってんの?そんなの当たり前だよ」
きょとんと顔を傾けて言う私に、だよな!、と嬉しそうにエースは言った。
「エースこそ、私とずっと一緒にいてくれなきゃ困るんだからね」
「それこそ、当たり前だろ」
完全に昇りきった太陽に照らされて、2人顔を見合わせて笑った。
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