メリークリスマス
![](//img.mobilerz.net/sozai/1641.gif)
ふんふんと鼻歌を歌いながら、小さなベルを取りツリーに飾り付ける。
今日はクリスマスイブ。綺麗にツリーを飾り付けして、皆に見てもらおうと思って今朝から頑張っている。
流石にツリーは運べなかったので、ブレンハイムに頼んで甲板まで持って来てもらった。その高さ、私の身長の約3倍弱。
脚立を使っても、てっぺんまでは届かない。とりあえずは、下から飾り付けようと思って、ひとつずつ丁寧に木の端にかけていく。
「お、ミア、なーにやってんだ?」
「あ、サッチ!」
さっきから通りかかる人に声をかけられて、主に上の方の飾り付けを手伝ってもらっている。
「クリスマスツリーだよー!」
「またでっかいの持って来たなぁ」
「夜までに飾り付けるんだー」
へへ、と笑って、袋に入っている飾りをごっそり手に取り、サッチにはい、と渡す。
「え、なに?俺もすんの?」
「うん!これサッチのノルマね!ちなみに私の手が届く範囲にはつけちゃダメ」
「チビちゃんにはでっかいにーちゃんが必要ってわけね」
「ちびは余計だよもー」
ぷりぷりと腰に手を当てて怒ったふり。だけどそんな私なんて無視して、さっさとツリーの飾り付けを始めるサッチ。
でもちゃんと私の届かない高い場所に飾りをつけてくれているから、私も満足して飾り付けを再開する。
「ミアって去年もこんなしてたか?」
「うん?あぁ、去年は風邪で寝込んじゃって、何も出来なかったんだぁ。だから今年は絶対皆で楽しむの!」
「ふーん。じゃあ、そうだな。クリスマスらしく、ケーキ作ってやるよ」
「ほんと!?」
サッチの言葉に目をキラキラと輝かせる。
「ほんと。何ケーキがいい?」
「え、え、えっと。クリスマスだから、やっぱりブッシュドノエルがいい!」
「りょーかい」
手に持っていた最後の飾りをツリーの上の方につけて、サッチは私を見た。
「ノルマ完了。特大のケーキ作っててやるよ」
そう言って手をふりながら船内に帰っていくサッチに気持ちが上がる。ツリーもあるし、ケーキもある。なんだかわくわくして来た。
とそこに、また新たな訪問者。
「頑張ってるな、ミア」
「手伝うかい?」
「ジョズ!イゾウ!!」
お言葉に甘えて、とふたりの手に飾りをどっさりと乗せる。
「思った以上に進んでるな」
「だって来た人皆に手伝ってもらってるもん」
「去年はなかったからなァ」
「折角のクリスマスだからね。私頑張るよ!」
ぐっと拳に力を入れると兄2人は顔を見合わせた。
「え、なに?」
「いや、なんでもない」
「まぁ、妹が楽しそうなのは見てて飽きねぇな」
そう自己解決して、手に持った飾りを全てつけると、じゃあなと言って2人とも歩いていってしまった。
「変なの…。」
ぽつりと呟く。
気にした所で2人とも行ってしまったのだから、仕方ない。気を取り直してツリーを見上げる。
またひとり残ってしまったけど、見上げたツリーはてっぺん付近以外ほとんど完成していて、その出来に頷きながらも満足してしまう。
一番上の方は、ジョズがつけてくれた飾りがちらほらあるだけだ。もう少し飾り付けたい。
「ミア、寒くない?」
何の前触れもなく後ろからそう声をかけて来たのはハルタ。
「ちょっとね。でも動いてるから大丈夫」
「はい、差し入れ」
湯気の立つカップを差し出されて、顔が綻んだ。
「わあ、ありがとう!!」
両手で受け取ると、冷たくなった指先がじんわりと痺れた感覚に陥る。チョコレート色の中身はきっと甘いココア。
ふうふうと冷ましてから、カップに口を付けてココアを体の中にしみ込ませる。体の中の温かさが感じられて、外の寒さが際立ち、逆に身震いしてしまった。
そんな私を見て隣でハルタは笑った。
「綺麗だね」
「ふふ、でしょ?まだ上の方が終わってないけど」
「手伝おうか?」
「ううん。ハルタは美味しいココアくれたから免除」
「なにそれ。ラッキー」
ハルタは自分の持っているココアを一口飲むと、また口を開いた。
「もうすぐ終わるの?」
「うん、夕食までには終わると思うよ」
「皆喜ぶね」
「えへへ、折角のクリスマスだから、皆に楽しんで欲しいな」
「…クリスマスだし、いい子のミアには何か良い事が起こるかもね」
意味深に笑って、私の手から空になったココアを取ると、ハルタはキッチンに向かって歩き出した。
熱に逃げられてしまった手が急に冷たく感じる。きゅ、と手を握りしめて、もう一度ツリーと向き合った。
「んんー…てっぺんどうしようかなぁ…」
「手伝うか?」
「この声は……ビスタ!!」
ビンゴ!
丁度誰か背の高い人が来ないかなぁと思っていたところだったのだ。他の隊長達でもやっぱりてっぺんまで届く人は早々いなかったから、ビスタに飛びついてお出迎えしてしまった。
「待ってましたビスタ!一番上に、飾り付けしてほしいの」
「お安い御用だ」
渡した飾りを素直に受け取り、ビスタは飾り付けを始める。
それを満足そうに見ながら、後は何が足りないかなぁと考える。
「そういやミア、もう泣かないのか?」
「泣く?なんで?」
「小さいころ、煙突がないって泣いてたじゃないか」
「ちょ、いつの話よ!」
忘れていた過去を掘り起こしてきたビスタの背中を蹴る。
小さいころ、私は煙突がないとサンタが来れないということを知り、モビーに煙突がないのは誰のせいでもないのに本気で親父を恨んだ。結局マルコに拳骨くらって収束したけど。今考えるとマルコ大人気ないしひどいよなぁ。
まぁ、今となっては黒歴史。海賊でサンタを信じるなんて、乙女なこと誰にもいえない。マルコの拳骨痛いし。ほんとはいてもおかしくないとは思ってるけど。
「あの頃のミアは純粋でかわいかったんだがな」
「なによ、今はかわいくないってこと?」
「いや、俺からすればミアはまだまだ子供で可愛いぞ」
むっと不機嫌顔になるとビスタは声を上げて笑った。
話をしながらも作業を続けるビスタは器用で、すぐに上まで均等に飾り付けを終わらせる。
「じゃあ、俺は行くが、残りがんばれよ」
「うん!ありがとう!」
しっかりとお礼を言って手を振って見送る。
あとはてっぺんのお星様。
それと、
「あーーー!マルコー!!」
離れた所にマルコを見つけて大声で呼ぶ。気付いたマルコがマイペースにこちらに歩いてきてくれた。
「呼んだかい」
「うん!幸せの青い鳥にお願いです!」
「嫌な予感しかしねぇんだが、一応聞こうか」
「へへへ。これ、ツリーにかけてほしいの!」
差し出したのはキラキラのカールリボン。わざわざ昨日作っておいたのだ。
「周りをくるって巻いたら可愛いと思うんだけど…。私じゃ出来ないから」
「そんなことかい。」
目尻を下げてそう言ったマルコは、私からリボンを受け取るとあっという間にツリーのてっぺんまで飛んで、綺麗にツリーに巻いていく。
下まで巻き終わると、何事もなかったかのように私の前まで歩いて来た。
「他には?」
「ない!マルコ仕事早い!すごい!」
「んな言っても何もでねぇぞ」
「本当にそう思ったんだってば」
素直に私の言葉を受け取らないマルコを睨む。
だけど、後ろから大きくてでも温かい声が聞こえて、それがすぐに笑顔に変わった。
「こりゃあ、いいモンが出来たじゃねぇか」
「親父!」
ナイスタイミングで会いたい人が来て、私は本当についている。
親父の登場にマルコも笑顔だ。
「あとちょっとで完成なんだけどね、最後は親父にやって欲しいの」
「最後なんて大層な役、俺にゃあ勿体ねぇよ。ミアがやるんだな」
「その最後の大役っつーのはなんなんだい」
「この星をね、てっぺんにつけるの」
両手で持って2人に見せる。
これは、私じゃなくて親父にやってもらいたい。
「親父、これをねツリーの一番上に乗せて欲しいの。皆忙しいのにね、少しずつ手伝ってくれて完成したツリーなんだ。だから、親父にも一緒に手伝って欲しいんだけど、」
だめかな、と控えめに聞いてみる。
「親父、これで断っちゃあ父親じゃねぇよい」
「グララララ、マルコの言う通りだな」
その言葉にぱぁっと顔が明るくなる。
私の手から、片手で軽々と星を取って、それをてっぺんにつける。
「どうだ、ミア?」
「うん!ばっちり!ありがとう、親父」
とびきりの笑顔でお礼を言う。
これで、クリスマスツリーの完成だ。明日の宴では、皆ツリーの周りに集まってクリスマスを楽しんでくれるといいな。
一年に一回の家族の日だから。来年の同じ日まで、今年のクリスマスを覚えていてくれるように。
皆で楽しい時間を過ごせますように。
((ばたばたばたばたばったーーん!!))
(ミア、起きろ!クリスマスだぞ!!)
(ううーん、なぁに、エース?(ねむい、))
(早くこっち来てみろよ!すげーぞ!!)
(もー、なに?私まだ眠いんだけど、)
(いいから来いって!(ぐいぐい))
(ちょっとどこ行くのー?)
(甲板!)
(甲板?寒いよー)
(いいから、ミアが作ったツリー見てみろよ)
(ツリー?)
(ほら!!!)
(…?………っ!!!)
(すげーだろ!??)
(なっ、何あのプレゼントの山!?)
(知らねー!けど、朝起きたらツリーの下に置いてあったんだよ!)
(すごいすごい!!ちょ、これ開けていいの!?)
(わかんねーけど、開けようぜ!俺ミア待ってたんだよ!)
(うん!すごいね、本当に、すごいね!!(サンタさん、いたんだ!))
((((癒されるなァ…。))))
((((やっぱ末弟妹は可愛いぜ))))
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