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クリスマス限定ディナー





この船に乗って11ヶ月。サッチと付き合い始めて6ヶ月。
今日はクリスマスで、皆大盛り上がりで宴をしている。こんな楽しい宴は久しぶりで、島に停泊してるのにほとんどの家族が船で飲んでいた。
それは私も例外じゃなくって、少し前から皆に混ざって宴に参加させてもらっている。この船に乗ってもうすぐ一年だけど、まだまだ打ち解けてない人も大勢いるから、宴があるとすぐ仲良くなれるし、とても楽しい。


ふと自分のジョッキが空になっていることに気付いて、皆に一言行ってキッチンへと向かう。
もしかしたらサッチがいるかもしれない。こんな楽しい宴なら、サッチも一緒に飲みたいに違いない。

るんるんとスキップで廊下を進むと、急に横から腕を引っ張られて、船室のひとつに連れ込まれる。知った匂いが鼻をかすめて、口元が緩んだ。



「サッチ。ちょっと呼び止め方乱暴なんじゃない?」
「悪ィ。ミアを拉致るには丁度いいと思ったんでね」



拉致?と首を傾ける間もなく、にっと笑ったサッチは私を担ぎ上げて船尾へと運んでいく。あいにく今は皆甲板に出てるから、途中で会う人も少ない。
そのままサッチは船外へと出ると、陸地へ向けてジャンプした。横付けされているとはいえ、船と陸には多少の距離がある。でもそこは隊長さん。なんなく着地をすると、街へ向かって走り出した。



「ちょっと、サッチ、急に何?」
「まーまー、黙ってなって」



ノリにノっているときのサッチは何を言っても聞かない。それはこの何ヶ月かの付き合いで嫌という程分かった。



数分後、やっと下ろされたと思ったら、なんだか高そうなお店の前で、サッチは店員に話をすると、「後で迎えに行く」と私に告げた。

はてなマークを浮かべていると店員に奥に入るように促される。何がなんだか、と言う感じだったけど、奥に入ってずらりと並ぶドレスを見た時に合点がいった。


初めての家族でのクリスマスが楽しすぎて忘れてたけど、そう言えばサッチとのクリスマスも初めてだ 。
いや、別にサッチとのクリスマスが嫌というわけじゃなくて、ただ単に、先に騒いでた家族の方に目がいっただけだけど。

でも、恋人達のクリスマスって言うし。きっと皆は夜まで大騒ぎだろうし。
少しだけサッチと恋人のクリスマスを満喫するのも悪くないかもしれない。


ふふ、と笑うと、愛想の良い女性店員が「お食事楽しんでくださいね」と声をかけてくれた。なるほど。今から食事に行くのか。
店員とドレスを決めて、髪をセットしてもらって、少しだけメイクをして。お店のホールに出て行くと、カジュアルスーツを着こなしたサッチが待っていた。



「ミア綺麗」
「…ありがと、」



慣れない言葉に少しだけ詰まる。
既に支払いをすませているらしいサッチは、店員にお礼を言うと、私の手を取り外へとエスコートする。
外に出て、絡ませた腕を少しだけ引っ張った。



「ん?」
「なにこのサプライズ?」
「びっくりした?」
「うん」



素直に答えると、サッチは嬉しそうに笑った。



「で?愛しのサッチは何を食べさせてくれるの?」
「あれ?俺レストラン行くって言ったっけ?」
「ううん、店員さんが口滑らせてた」
「えー。なんだそれ」



脱力するサッチにクスリと笑みが漏れる。



「ま、いいけどよ、」
「近いの?」
「ん、そこの角曲がったとこ」



ヒールの私に合わせてゆっくりと歩いてくれるサッチにエスコートされて角を曲がると、いかにもドレスコードが必要そうなレストランがあってぎょっとする。



「わ、…た、高そうだね」



つい本音が出てしまった私にサッチが「ミアが気にする事じゃねぇよ」と言う。
でも、着飾ったことはあっても、こんな高そうなとこ入った事ないから、緊張しちゃう。



「か、海賊立ち入り禁止とかないかな?大丈夫かな?」
「だから着替えてんだろうが」
「えっ、じゃあバレたら、」
「暴れなければバレねぇよ。ちょっと堅苦しいけど、味はすげぇんだ」



サッチが言うならそれは間違いない。
少し気後れしてしまうけど、こんなチャンス滅多にないと思うし。なんだか大人なクリスマスになりそうだから、意を決して中に入る。

中に入るとウエイターとは思えない、執事みたいな人が席まで案内してくれて。座る時に椅子なんか引かれてしまったりしたからそわそわしてしまった。



「ミア、挙動不審過ぎ、」
「だっ、だって初めてなんだもん」



クックッと笑うサッチにそう言われて赤くなりながら反論する。



「別に悪くねぇよ。可愛いって思っただけ」



いつもに増して甘いサッチの言葉に余計調子が狂う。
だけどサッチはそんな事気にもしないかのように、ワインリストを見るとウエイターにこそこそとオーダーする。別に、サッチはこそこそなんてしてないんだろうけど、いつも酒場で“ビールもういっぱい!”って大声で注文してる身にとっては十分こそこそだ。
なんか慣れてて、大人でかっこいいな。



「サッチこういうとこよく来るの?」
「んー、まあな。ときどき」
「他の女の人と?」
「おまえそれ今聞く?」
「だって男とじゃ来ないでしょ。もしかしてマルコと来てんの?」



一番仲の良いマルコの名を挙げてそう言ったけど、言ってから想像してちょっと引いた。



「勝手に想像して勝手に引くな」
「だって流石にちょっと嫌だなと思って」
「俺だって嫌だっつの。ま、女と来た事は否定しねぇけど、ミアと会う前の話だ」
「ふーん」



見た事もない女の人に、少しだけ嫉妬。きっと私みたいな小娘じゃなくて、綺麗な大人の女性なんだろうな。
テーブルの上に置いてあるキャンドルがゆらゆら揺れて私の心を揺らす。



「だから今聞く事じゃねえって言っただろうが」
「だって気になったんだもーん」



ぶうと口を膨らますけどすぐにウエイターが来たので慌てて元に戻す。

ワインを持って来たウエイターがボトルをサッチに見せるのを黙って見る。分からないときは口を出さないのが一番だ。
軽くサッチが頷くとサッチのグラスに赤いワインが少しだけ注がれた。
それを手に取り少しだけワインを見て、静かに揺らして口に運ぶ。一連の動作があまりにも自然で、じっと見つめてしまって、サッチがワインを口に含んだ時に目が合ってしまった。



「なに?」
「えっ、ううん。け、見学?」



ふっと微笑んだサッチは、ウエイターに目で合図をすると、ウエイターは私のグラスにワインを注ぎ始めた。



「ミアきっとこのワイン好きだぞ」
「え、でも私赤なんてあんまり飲んだ事ないよ?」



きゅっと注ぎ口を回し、トーションを当ててボトルを引き上げるウエイターが様になっていて、横目で見ながら惚れ惚れとしてしまう。



「俺の舌信じてねーな?」
「ううん、信じる」



サッチの分も注ぎ終わったウエイターがニンジャのように静かにいなくなる。



「じゃあ、試してみるか?」



こくん、と頷き、サッチにならってグラスを軽く上に上げる。



「「メリークリスマス」」



グラス同士をぶつけない乾杯なんて初めてで、なんだかくすぐったい。

そっとサッチお勧めのワインを口に含む。
飲めない事はないけど、辛口な赤ワインは実はちょっとだけ苦手だ。だけど、口に広がったのはほのかな甘み。あれ、これは…、



「…おいしい。」
「だろ」



得意げに言うサッチは嬉しそうで。
運ばれてきた前菜と一緒に食べると、その美味しさは倍になった。

その後も、クリスマスのスペシャルディナーで次々と運ばれてくる料理に舌鼓を打ち、その料理ごとに合うワインに変えてくれるサッチ。
大きなプレートに乗る小さな料理は絶品以上に絶品で、マナー違反だとはわかっててもばくばくと胃に入っていく。



「んな急がなくても誰も取らねぇよ」
「だって、おいしいんだもん、」
「そんなに好きなら今度作ってやろうか」
「え!サッチ作れるの?」
「食材が手に入ればな」
「サッチはなんでもできるねぇ」



ほぅ、と感嘆の息を吐き、フォークとナイフを合わせて置く。もう食べ終わってしまった。
こくりとワインを飲むと、ほわりと気分が和らぐ。あ、少し酔ってきたかも。
普段はこのくらいで酔ったりなんてしないけど、雰囲気酔いしてしまったみたいだ。


いつの間にか空のプレートを下げたニンジャウエイターは、しばらくしてからデザートを持ってくる。
本当に、フルコースだ。わいわい皆でお行儀悪く飲むのも好きだけど、たまにはこうしてサッチとお洒落なディナーを楽しむのも悪くない。


出てきたデザートにも満足して、会計を済ませて外に出る。
しっかりと手を差し出してくれるサッチに、ふへへ、と顔がだらしなくなる。あーあ、好きだなぁ。早く皆に自慢してやりたい。



「これから、どうするの?」



そう聞きながら、自分は何がしたいかなぁと考える。
船に帰って、皆とのクリスマスも楽しみたいなぁ。サッチも独り占めして、皆とも楽しみたいなんて、私ってば欲張りだ。
今年は家族もできて恋人もできて。
サッチが隣にいて皆と歌って騒げれば、サンタさんからのプレゼントなんていらないな。



「実は、俺さー」
「うん?」
「宿取ってんだよね」



にんまりしてちゃらりとキーを見せるサッチに目をぱちくりさせる。



「なにその予想してませんでした的な顔」



すぐにそう指摘されてヤバイと笑顔を作った。



「ん、ちょっとびっくりしただけ」
「んー?なんか隠してんな?」
「え!そんなことないよ!」



必死に取り繕うけど、皆とも騒ぎたいと顔に書いてあったのか、あっさりとサッチに見抜かれる。



「あ、そういやミア、船来てまだ1年経ってなかったよな?」
「…うん、」
「じゃあ家族ともはじめてのクリスマスってわけだ」
「まあ…」
「じゃあ、帰るか」



私に気を使わせないようにするためか、にっと笑ってそういうサッチだけど、手の中にあるキーがそれをさえぎる。折角サッチが準備して宿取ったんだから、もったいないよ。



「でもここ来る前に皆とちょっと飲んだし大丈夫だよ」



ね、と腕を引っ張ると、少し考えた素振りをしたサッチがふと口を開いた。



「ミア、今日親父と会った?」
「ううん?忙しくてまだ会ってないけど?」
「じゃー、帰んなきゃな」
「え?親父には明日でも会えるよ?」



きょとんとする。だけどサッチはそんな私の頭をぐちゃぐちゃとなでて、「ばか」と言った。なんで馬鹿なのよ。



「俺はミアとの時間を満喫したからいいけど、クリスマスは家族のものでもあるんだぞ」
「そうなの?」
「それにウチではクリスマスの日は皆親父に挨拶するのがルールなの」
「え!知らなかった!」



そうだったのか。
まさかそんなルールがあったなんて。さすがに一人だけ親父に会わないのはいやだなぁ。思春期の不良娘じゃあるまいし。



「てことで帰るぞ」
「うん!あ、でも宿…」



はっとしてサッチの手の中にあるキーを指差すと、きょろきょろと周りを見たサッチは目の前を通ったカップルを呼びとめる。
何をするのかと見守っていたら、運がいいな、とそのカップルにキーを渡して宿の場所とか部屋とかを簡単に説明する。どうやら取ったのはスイートルームらしい。それを聞いてさらにもったいなく感じた私は現金だ。そしてそれを惜しげもなく他人にあげるサッチは男前だ。下手すると馬鹿ともいうけど。



「よし、行くぞ」
「うん!」



手をとって二人で歩き出す。
いつだって私のことを考えてくれているサッチが愛しくて、くいと腕を引き、背伸びしてサッチの頬にキスを贈った。










(親父!メリークリスマス!)
(ミアか。寒ィのに元気だな)
(あの、私、もしかして最後だった?)
(? なんのことだ?)
(…?(あれ?))



(お早いお帰りだこって)
(ようマルコ。)
(落ちてんな。元気出せよい)
(ここまでお膳立てして女抱けねぇのなんて久しぶりだぜ)
(無理やりやりゃあいいじゃねーか)
(鬼畜。ミアにんなことできっかよ)


(さっちぃぃぃー!)
(お。じゃあ俺は行くよい)
(ああ、またな)
(よかった。やっと見つけた!)
(ああ、どうした?親父と会えたか?)
(うん!サッチの優しい嘘、しかと受け止めました)
(はは、ばれたのか)
(…、。〜〜っ!)
(?)
(サッチ、好き!!(ちゅ、))
(!(…、ま、これも悪くねぇな))





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