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街中通って行こう




夕方に家に来て、というハルタのメール通り、5時頃にハルタの家のベルをならす。バタバタと騒がしい足音の後にがちゃりとドアが開いた。



「メリークリスマス、ハルタ!」
「なんだ、ミアか。メリークリスマス」



なんだとはなんだ。
そんな事言うなら帰っちゃうぞ。



「鍵持ってるんだから、普通に入ってくればよかったのに」
「だってお出迎えして欲しかったんだもーん」



にゃははと笑い、玄関に入るとふわりと美味しそうな匂いが漂ってきた。



「いいにおい!何か作ってるの?」
「相変わらず犬みたいに鼻が利くね。」



犬じゃなくても気付くよ。全くハルタはいつも一言多い。
でも、何も準備してくるなってこういう事だったのか。今年はハルタが全部オーガナイズするからって言われて、本当に何もせずにここまで来たのだ。ちなみに、ハルタからはプレゼントも何もいらないから、本当になにもするなと3回くらい釘をさされている。それでも、プレゼントだけでもと渋ったら、じゃあもうクリスマスは会わないとふざけた事を言われたので私が折れた。



「手伝おうか?」
「いい。もうほとんど終わってるし」
「ハルタ主夫になれるよ」
「一年に一回くらいならいいよ。ミア限定ね」
「私もハルタ限定の主婦にしかなりたくないな」
「ごはん7時でいい?」
「あ、うん」



ちょっと勇気を出してさりげなく私はハルタだけ宣言したのに、軽く流されてショック。
でもそんなのいつもの事だし、気にするだけ無駄だ。


ごはんまでまだ2時間くらいあるし、それまで映画を見る事になった。個人的にはクリスマス定番の19人の男女のラブストーリー映画を見たかったけど、何故かこれまた定番の大家族の末っ子が家に置いてかれて泥棒と戦うコメディ映画を見る事になった。

ソファに座ると、ハルタがココアを持って来てくれる。今日私はキッチン立ち入り禁止らしい。



「ありがとー」
「それだけでいい?なんか食べる?」
「ううん、ごはん楽しみにしてる」



カップを両手で持ってふうふうと冷ます。
隣に座ったハルタの手には湯気が立つコーヒー。

始まった映画にふたりとも静かになる。相変わらずキッチンからはいいにおい。
こてん、とハルタの肩に頭を乗せてみる。何も言わずに私の頭に頬を寄せるハルタに幸せで顔が緩む。


そのまま映画を見ていたが、物語も少し進んで、私も集中し始めた頃に、ハルタがわたしのこめかみに優しくキスをした。
急な事にどきっとしたのを隠しつつ、どうしたの、と目で訴える。
そんな私に「見てていいよ」とだけ言い残してキッチンへと消えていく。少しだけハルタの背中を名残惜しく見ていた。
数分しても戻ってこないから、空になった隣を寂しく思いつつも言われた通り映画を見続ける。

そんな事が何回か続いて、物語も終盤。



「…ミア泣いてんの」
「うっさい。お母さんの家族愛素敵すぎる」
「泣き虫」
「見んなっ。もー、ハルタいつも意地悪。…電気つけたら頭燃えるように細工してやる」
「ミアそこまで頭よくないでしょ」
「んで水道全部止めてやる。トイレの水で消火するといいよ」
「…。ミア明日用事ないよね?」
「え?うん」
「わかった。じゃあ後で明日一日立てないようにしてあげるね」
「え、!い、いやぁー、明日は、ほら。ハルタの朝ご飯作ってあげたいかな、なんて…」



ハルタの不穏な言葉に若干焦る。ヤツは有言実行する男だ。冗談のように聞こえても、本当にやりかねない。

いつの間にかエンドロールが流れる画面を見て、ハルタが電源を切る。そして先程の会話等気にしていないように、私に話しかけてきた。



「ミア、おなかすいた?」
「うん、ぺこぺこ!」



その私の言葉を聞いて、じゃあごはんにしよっか、と私の手を取る。部屋の中なのにダイニングテーブルまでエスコートするハルタに、心の中で微笑んでしまった。
だけどそう和んでいたのも束の間。テーブルに並んでいる料理を見て唖然とした。

色とりどりの料理が並んでいて、それぞれ綺麗に盛りつけられている。それはもう、レストランに来てしまったのかと錯覚するくらい。



「どうぞ」



紳士的に椅子を引いてくれるハルタにも気後れするぐらい挙動不審になってしまう。



「…ハルタ、これ全部作ったの?」
「たまにはいいでしょ」
「家庭料理の域を超えてるよ、」
「一年に一回だからね」



綺麗に形をなしているカルパッチョにシーザーサラダ、メインのローストチキンに、隣にはスープまで。一年に一回でももったいない。

あまりのサプライズに感動しすぎて、さっきの映画の感動なんてなかったことにしてしまった。



「ミア、飲むでしょ?」



目の前に並ぶ料理に感動していると、そう話かけられて顔を上げる。
はい、と傾けて来たのはシャンパンのボトルで。渡されたグラスを両手で持って注いでもらう。ヤバい、震える。



「ハルタぁ…」
「なに」
「どうしよう、緊張する」
「なんで」



呆れたように笑ったハルタに、だって、と眉を下げた。



「まさか、こんなに準備してくれてるとは思わなくて、」
「ミアが喜んでくれたらと思ったんだけど」
「うん、凄く嬉しい!」
「ならよかった」
「でも、なんか、…もっとおめかししてくれば良かった…!」
「なんで。家なのに」
「だけど、」



そこまで言いかけた所で、素早く自分のグラスにシャンパンを注いで席に着いたハルタが、私の方にグラスを傾けた。



「メリークリスマス」
「……、メリークリスマス」



カチンと控えめな音を立てて乾杯をする。
まさかこんな大人な夕食になるとは思わなかった。
別に夜景の見えるレストランでもなければ、大きなツリーがある場所でもない。いつもと同じハルタの家。だけどいつもと違う雰囲気に、心はしゅわしゅわとするシャンパンみたいになる。






ハルタの料理は本当に美味しくて、たくさんあったのにほとんど完食してしまった。そして同時に次料理する時はもっと勉強しよう、と心に誓う。



「ケーキもあるけど、食べる?」
「えっ、食べ、る…。」



片付けも終わって、ふとハルタがそう言うから、目を輝かせて答えたけど、ハルタのにやりとした顔を見て言葉が宙を舞う。



「太るよ」
「う、…でも、クリスマスだし…」
「うそうそ。紅茶でいい?」
「あ、私するよ!ハルタごはんしてくれたし」
「ミアは座ってて。じゃないとケーキあげない」
「えー…。わかった、」



今日限定だけどなんでもしてくれるハルタに少しだけ不満顔。私だって何か手伝ってあげたい。
だけどケーキは欲しいから渋々と席に戻る。
しばらくしてハルタが紅茶とケーキを持ってきた。
小さなホールケーキは2人でも少し多いくらい。「切り分けてて」とナイフをもらったので、慎重に切り分けて取り皿に移す。2人分同じようにして、紅茶をカップに注いだところで、ハルタが戻って来た。手には可愛くラッピングされた袋。



「はい、クリスマスプレゼント」



夕食だけで大満足だっただけに、予想外の展開に目をぱちぱちとさせた。



「わ、私に?」
「他に誰がいるの」
「…、ありがとう…!!」



サンタさんからのプレゼントを開ける子供のようにわくわくしてそれを受け取る。ハルタに開けていいか聞いて、それからリボンに手をかけた。
中から出て来たのは程よい大きさのティディベア。



「可愛い!ありがとうハルタ!」



ぎゅっとティディベアを抱きしめてお礼を言うと、くまさんのおなかに何か固いものが入っている。



「あれ?これ、なにか話すの?」



おなかの固い部分を何度か押してみるけど、うんともすんともくまさんは喋らない。
あれ?と首を傾けていると、笑っているハルタに頭を撫でられた。



「中見てみたら?」
「中?」
「何か入ってるかもよ」



そう言われて、くまさんの背中のを見ると、ファスナーがついていた。それをそっと下ろすと、中にちらりと箱が見えて。
まさか、とドキドキしながらそれを取り出す。手の平サイズのその箱を見て期待してしまう。開ける前にハルタを見ると、優しく頷いてくれた。
もう一度、箱に目を戻して、ゆっくりと開けた。そこには期待通り、可愛らしいデザインの指輪があって、あまりの嬉しさにもう一度ハルタを見る。



「…ハルタっ」
「うん?」
「ゆびわ…!」
「うん、ミアにだよ」
「…っ、嵌めてみても、いい?」
「もちろん」



嬉しくて高揚した気持ちを押さえられないまま、くまさんをケーキの横に置き、箱の中の指輪を取り出す。落とさないように大事に手に取り、ゆっくりと薬指に通した。
目の前に手を出して、まじまじと指輪を見る。繊細だけど、ふんわりと柔らかさを感じるデザインの指輪。ハルタから初めてもらった指輪。嬉しくて、心が躍って、胸がいっぱいになって。

今日一日で容量オーバーになってしまった私の心に、目頭が熱くなって、泣いてるって気付かれたくなくてハルタの胸に飛び込んだ。
ハルタの背中に腕を回して胸に顔を押し付ける。



「ハルタありがとう、」
「気に入った?」
「すっごく」
「よかった」



安心したように力を抜いたハルタが、私を包む。背中に回された手が温かくて心地良い。



「私何も用意してなくてごめんね、」
「僕がそうするよう言ったんでしょ」
「でも約束破ってでも、何かプレゼント用意してくればよかった」
「だめ。今年は全部僕がミアに何かしてあげたかったの」
「でも…、何か、ハルタにしてあげられないかな、」
「じゃー、明日1日中立てなくなるくらい頑張ってもらおうかな」



ハルタの意地悪な、でも冗談っぽい声が聞こえて、またそれかと思うけど、でももう本当に何でもしてあげたくなっちゃうくらい嬉しかったから。



「うん、わかった。ハルタが喜んでくれるように頑張るね」
「はっ!?」



そう言ったら、焦って私を引きはがしたハルタと目が合った。
そのハルタの顔が面白くて、噴き出すように笑ってしまったら、容赦なく鼻をつままれた。



「女の子がそんなハシタナイこと言っちゃだめでしょ」
「でもハルタのために私に出来る事なら頑張るよ。…ってゆうか私がそうしたい、」
「…。そういうのは今じゃなくてベッドの中で言って欲しいな」
「うっ、……余裕があったら、ね」



目を逸らしてそう言うと、ハルタが笑うから、私も笑ってしまって。
目が合ってから、引き寄せられるようにそっとキスをした。









(あ、そういえば、私ハルタに見せたいものがあったんだ!何もあげられないから、これがクリスマスプレゼントってことで。)
(なに?)
(じゃーん、街のイルミネーション。綺麗でしょ?)
(ほんとだ。綺麗。)
(でしょー(へへへ))
(で?これだけ?プレゼントにもなってなくない?)
(えっ、………ごめん(しょぼん))
((ミア可愛い)あとで見に行こっか)
(ほんと!?(キラキラ))
((可愛い…))






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