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折角だし、ごはん作ろう





ペンギンのマンションについて、どさりと荷物を置く。



「…大量だな」
「だってペンギンにたくさん作ってあげたかったんだもん」



玄関に置かれたスーパーの袋を1つずつ持ちながらペンギンにそう言われたので、正直に答える。
折角のクリスマスだもん。彼女らしく何か作ってあげたい。



「それは嬉しいが、ミア、料理苦手だろ」
「う…、」



靴を脱いで、荷物を全部持ってくれたペンギンの後を追う。
確かに、私は不器用で料理が苦手。でも、この日のためにいっぱい練習したんだ。きっと大丈夫。



「今日は、大丈夫だよ」
「自信あるみたいだな」
「うん。大丈夫。…でも、怖いから今から作っていい?」



まだ夕御飯には程遠いけど、夜になって御飯が出来ていないのだけはさけないと。
ペンギンには悪いけど、少しだけ待っててもらえないだろうか、と不安気に見上げると、ふっと笑って「もちろんだ」と言ってくれた。



「よし…!!ペンギンは手伝っちゃ駄目だからね」
「わかった」



キッチンで気合いを入れて、念のためペンギンに釘を刺す。
一通りのことは何でも出来ちゃうペンギンはすぐに私の手伝いをしたがる。私が不器用すぎるのが駄目なのは分かってるんだけど、今日だけは自分でやり遂げたい。



「で、何を作るんだ?」
「………期待しないでね」



こんなに意気込んでるけど、何を作るのか聞かれて押し黙ってしまった。
私だって、クリスマスっぽく手の込んだ料理をしてあげたかった。けど、技術的に無理で。

先を促すペンギンに、心を決めて今日のメインメニューを伝える。



「あのね、………ぐらたん」
「……美味そうだな」
「あっ!もう何その間!ごめんね、ほんとごめん。でもこれが私の限界なの」



もうなんて言うか恥ずかしい。グラタンごときをこの日のために頑張って作れるようになったとか。ほんとごめんなさい。もっと手の込んだものを作れるようになりたいよ。

一人後悔で悶えていると、ペンギンが笑いながらこちらに寄って来た。



「いや、別に今のに他意はないんだが、」
「でもね、でもね!ちゃんとホワイトソースから作るから!ごめんね、」



ペンギンの声を遮るように喚く私に、ペンギンはこら、と優しく一喝した。



「人の話は最後まで聞く」
「ご、ごめん…」
「さっきのは、普通に驚いただけだ。その、まさかグラタンとか作れるとは思わなかった…。正直、米と卵焼きとかかと…。」
「それに言い返せないのが悔しいけど、でも頑張って作れるようになったんだよ」
「今日のために?」
「…う、うん」



料理も満足に出来ない彼女で申し訳ない、という思いが出て来て、尻窄みの返事になる。
だけどペンギンは満足そうに笑って「嬉しい」と頭を撫でてくれた。
そんなペンギンにきゅんとしながら、絶対美味しいのをつくってやる、と意気込む。



キッチンに材料を並べて、いざ料理開始。
ペンギンはキッチンに椅子を持って来たらしい。邪魔にならない所に座ってこっちを見守っている。


それから、人一倍時間がかかってしまったけど、野菜を切ってホワイトソースを作って。途中、タマネギの攻撃をうけてペンギンに泣きついたり、火傷しそうになってペンギンが慌てたりしたけど、全て順調にいっている。
この調子だと、出来る頃には6時が回っているだろうから、ペンギンと話して少し早いけどそのまま御飯にする事にした。


後はオーブンに入れて焼くだけ。
盛りつけたお皿を入れて、オーブンの時間をセットして、やっと一息と言う時にペンギンの方を見ると、ペンギンは椅子にもたれて寝息を立てていた。
珍しい、と思って、近付いて顔をのぞくと、本当に寝ていて。

待たせすぎちゃったかな、と罪悪感が沸く。
とその時、テーブルの上に置いてあったペンギンの携帯が鳴って、メールの着信を知らせる。ふと、画面に目をやると、メールの受信を知らせるメッセージとメールの内容のはじめの文章が少しだけ流れて液晶が消えた。いつもだったら気にしないそれにも、今回ばかりは自分の目を疑って思わずペンギンの携帯を手に取る。ボタンを押すと、画面が明るくなったけど、そこには“新着メール1件”の文字しか見えない。
流石に人のメールは開けないけど、さっき見た文字が頭から離れない。



“ご連絡ありがとうございます。当日キャンセルとなりますので、”



隣で寝息を立てるペンギンを見る。
ペンギン、きっと今日の予定立ててくれたんだ。家でゆっくりとか言ってたけど、多分、夜はどこかに出かけるつもりだったんだ。
それなのに私ってば、自分のことばっかりで、ペンギンのことなんて全然考えてなかった。
苦手な料理なんかして、ふたりの時間を数時間も無駄にしてしまった。もしかしたらペンギンはその間も何か予定を立てていたのかもしれない。


鼻の頭がツンとして、目に溜めていた涙が溢れた。
申し訳なさすぎて、きゅっとペンギンの袖を掴んだ。

我慢出来なくて、ぐす、と鼻をすすると、ペンギンの目が開いて、次いで私を見てぎょっとする。



「ミア?どうした?何か焦がしたか?すまない、寝てしまって気付かなかった」



ぎゅっと私を抱きしめて的外れな事をいうペンギンに、首を振って違うと訴える。



「大丈夫か?何かあったのか?」



予定を壊されても文句1つ言わないペンギンの優しさに胸が痛くなる。
私は涙を拭く事もせずに、手の中にあったペンギンの携帯を差し出した。



「ごめん、見るつもりなかったんだけど、受信の時に見えちゃって、」
「ん?」



携帯を受け取ったペンギンは、メールを確認して「しまった」という顔をした。



「どこか、予約してくれてたんでしょ…」
「別にミアが気にする事じゃない」
「ごめんね、私自分ばっかで。よく考えたら料理中ペンギンのことほったらかしだったし、しかも私なんかの料理よりレストランの方が数千倍美味しいのに、」
「そんなことないぞ」



ぐい、と私の頬に残る涙を拭ってペンギンは続ける。



「俺はミアが今日のために苦手な料理を頑張った事嬉しかったし、店の料理より、ミアの料理の方が食べたい」
「ペンギンは優しいからそう言うんだよ、」
「本音なんだがな。それに、待っている間も別に暇じゃなかったぞ」
「?」
「誰かさんが危なっかしいから目が離せなかったし、やっと終わったとほっとして寝てしまったら今度は勝手に泣いてるし」
「う、ごめん……」



バツが悪そうに俯くと、ふっと笑って意地悪くこう言ってきた。



「だから、流石に待ちくたびれて、腹が減って死にそうだ」
「すぐ!すぐ御飯にする!ペンギンは座っててね!後5分だから、」



名誉挽回とはいかないだろうけど、ペンギンの優しさを無駄にしないためにも出来るだけ楽しい夜にしたい。
ぱたぱたと駆けて、テーブルを準備して、グラタン以外のものを並べていく。最後にオーブンの中のグラタンをチェック。いい具合に焼けていて美味しそう。火傷しないようにゆっくりと取り出した。



「美味そうだな」



テーブルに並べると、意外そうにそう言うペンギン。私も意外に出来が良くて驚いたから気分を害するのはお門違い。



「美味しいといいけど、」



心配そうに言う私に、いただきますと言ってペンギンは最初の一口を口に運ぶ。予想以上の出来だったのか、めちゃくちゃ褒めてくるペンギンに胸を撫で下ろしたのも束の間、ある重大な事に気付いた。



「あ!!」
「どうした?」
「…ケーキ買ってくるの忘れたーっ」
「なんだ、そんなことか」
「なんだ、って……!クリスマスなのにケーキ忘れるとか、ほんとダメな彼女でごめん、」



スプーンを口に入れたまま深く落ち込んでいると、ピンポーンと来訪者を告げる音。
誰かなと思ってると、ペンギンが玄関まで出て行く。
しばらく待っていると、四角い箱を持ったペンギンが戻って来た。



「なにそれ?」
「ん?クリスマスのサプライズ」
「えっ、なになに」



キラキラと目を輝かせてペンギンを見つめる。
テーブルの上においた白い箱を開けると、そこには“メリークリスマス”と書かれたホワイトチョコプレートが乗っているクリスマスケーキ。
驚いて声が出なくて、ペンギンとケーキを交互に見る。



「気に入ったか?」



そういうペンギンに、こくこくと頷く。
それにしても、このタイミングで、どうやったんだろう。



「ペンギン魔法使ったの?」
「ん?」
「だって、凄くタイミングいい」
「タイミングはたまたまだよ」



席に着いたペンギンはまだあつあつのグラタンを頬張る。



「ミアが料理に夢中で、ケーキまでは考えてないだろうなと思っただけだ。荷物の中にもなかったし」
「いつ買ったの?」
「ミアがタマネギ焦がしてる時にオーダーしといた」
「でも、よく買おうと思ったね」
「こういうの好きだろ、ミア」
「…すき。ありがとう。」
「うん。後で食べような」



なんでここまで頭が回るんだろう。感心してしまう。
嬉しさで胸がいっぱいで、右手を胸にあてる。すると何か覚えのないものが手に当たって、ん?と首を傾けた。そのまま視線をずらして胸元を確認すると、あるがずがないものがそこにあって。



「!??」



つけて来た馴染みのあるネックレスと、それより少し短い長さのシンプルででも上品なネックレス。
身に覚えのないものに、声も出せずに驚いていると、前に座るペンギンが声を殺して肩を震わせていた。



「え?これ、え?ペンギン??」



楽しそうに笑うペンギンに「やっと気付いたか」と言われる。



「これ、いつ!?」
「ミアが折角切った人参が入った皿をひっくり返して焦ってる時、どさくさに紛れてつけた」
「うそ、気付かなかった…!」
「流石に俺も気付くと思ったが、全然気付かないんだもんな」



そしてまた笑い出したペンギンをじっと見つめていたけど、もうどうしようもなく気持ちが抑えられなくて、席を立ってペンギンの方へと回る。そのままぎゅーっとペンギンに抱きついた。



「ありがとうペンギン!」
「どういたしまして」
「ケーキも、プレゼントも、ありがとう!!」
「ミアも夕食ありがとな。凄く美味いぞ」
「…!!」


なんでこんなに優しいの。
もー、こんな風にされちゃったら、



「〜〜っ!クリスマス大好き!」
「…俺は?」
「あいしてる!!」



ふっと笑ったペンギンにまたぎゅうぎゅう抱きついていると、いつの間に完食したのか、おかわりと言われた。
ペンギンのおかわりを準備している最中も、幸せすぎてにやにやしながら何度もネックレスを触ってしまった。






(はい、おかわり)
(ありがとう)
(ふふ、私今すっごい幸せ!)
(よかったな。俺もだ)
(へへへへ。あ!)
(今度はなんだ?)
(そういえばローね、彼女全員にふられて、今日一人クリスマスなんだって)
(ぶふっ)
((ペンギンが噴いた…!))
(ごほっ、…ゴホン。…。笑った事ローには言うなよ)
(わかった(笑))
((いい話を聞いたな))




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