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電車に揺られる


シャチの家の最寄駅まで来て、電車を降りる。改札を通る前に一度トイレに入って前髪を整えた。さすがクリスマス。人が多くてまいっちゃう。
しっかりと髪とメイクが整っていることを再度確認して、慣れた手つきでお財布を改札口にかざして外に出た。

今日のクリスマスはシャチの家で二人で過ごす。去年も一昨年も外に出たから、今年は二人でゆっくりしようってことになったのだ。

シャチの家がある東口に軽い足取りで向かっていると、ブブブと携帯の振動がポケットに響いて着信を知らせる。
足を動かしながらも携帯を取り出すと、そこにはシャチの名前。どうしたのかなと思い、とりあえず通話ボタンを押して耳に押し付けた。



「もしもーし」
『おー、オレ』
「もうすぐ着くよ。今駅出たとこ」
『だと思った』



へらりとした笑い声が聞こえて、なんかおかしいな、って思ったら、シャチの声が受話器の向こうと後ろから同時に聞こえた。



「素通りすんなよ、へこむだろ」
「シャチ!」



後ろを振り向くと、鼻の頭を赤くしたシャチが私の好きな笑顔で立ってて。
びっくりして思わずぽかんと口を開けてしまった。



「なんで?びっくりした!」
「折角迎えに来てやったのに、前素通りだもんな」
「ご、ごめん。出口しか見てなかった」
「いいよ、ちゃんと会えたし。驚かせたくてオレも連絡しなかったのが悪いし」



予定してたよりも早くシャチに会えて、早速サンタさんにプレゼントをもらった気分になる。
わざわざ迎えに来てくれるなんて思わなくって、胸がむず痒い。うれしくて、ふふと乙女っぽく笑ってしまった。



「会いたかった」



にっと嬉しそうに言うシャチは何年たっても変わらなくて。それに私の胸もきゅんってなる。
さりげなく差し出された手を取って、二人でシャチの家へと歩き出した。



「そのマフラー新しいの?可愛い」
「うん、この間買ったの」



さすがロー。シャチの好みをわかった上でアドバイスくれたんだ。なんていい幼馴染。男としてはサイテーだけど。



「シャチはマフラー忘れてきたの?」
「うん。でも近いし大丈夫」
「ホント?私そんなに寒くないから貸すよ?」



首周りが寒そうなシャチにそう提案する。
寒くないなんて嘘だけど、シャチに貸すなら問題ない。だけどそれでもシャチはいいって言ってくれた。優しいけど、私もシャチに優しくしたい。
むぅ、と不満気な顔をしていたら、急にシャチが私の手を引っ張ってきて、とっさのことで反応できずシャチの胸に飛び込んでしまった。
いきなりのことにドキドキとする。時々シャチって、強引だ。どこにそんな力があるの?って言うくらい強く引っ張られて、急にシャチが男の子だって事を思い出す。



「わり、大丈夫?後ろから来てた自転車ぶつかりそうだったから、」
「ううん、大丈夫。ありがとう」



なんだ、そういうことか。全然気付かなかった。
ちょっと男度の上がったシャチに抱きつきたくなったけど、ここは街中だし、ちょっと我慢。



「家、暖房つけて来たからあったけーぞ」



にししと笑うシャチに「さすが!」と笑顔を向けて、シャチのアパートの階段をのぼる。
部屋の前まで来てシャチに鍵を開けてもらって、ふたりで中に入る。



「相変わらず玄関狭いね」
「うっせー」



こつんと頭を叩かれながらも、シャチが後ろにいるのでなるべく早くブーツを脱ぐ。やっと片足脱げた、という時に、 後ろに立っているシャチから「なあ」と声をかけられた。



「なに、…わっ、!」



返事も待たずに後ろから抱きしめてくるシャチに思わず小さく叫んでしまった。



「駅でミア見つけたときからすっげー抱きしめたかった」



肩に顔を埋めてそういうシャチに、どきんとする。

そんなの私だって一緒だよ、

そう伝えたくって、少しだけシャチの手を緩めて、くるりと身体を回してシャチと向き合った。そして負けじとぎゅっと抱きしめる。



「私もぎゅってしたかった」
「え、じゃー駅ですればよかった」
「えー、それは恥ずかしいからだめー」
「だろ?オレ偉いっしょ。我慢したぜ?」
「ふふ、はいはい。偉い偉い」



くすくす笑いながら、子供にするみたいにポンポンと頭を撫でてやる。



「子供扱いすんなよ」



にやっと笑ったシャチと目が合ったと思ったら、唇を奪われた。強引だけど、乱暴じゃない。癖になるほど大好きなシャチのキス。甘い余韻を残してシャチが離れていく。



「…、子供は、こんな事しないでしょ、」



シャチのコートをきゅと掴む。ブーツを脱ぎ捨てた片足だけ異様に軽くて意識してしまった。



「もちろん。大人なクリスマス、期待してるぜ。ミア」
「…へんたいシャチ。」
「ミアが嫌なら子供なクリスマスでもいーけど。そのかわり、いい子は9時就寝だからな」
「え、うーん。」



別に子供なクリスマスでもいいけど、9時就寝はやだなぁ。
でもまあ別に私も下心がないわけでもない。下着も可愛いの選んだし。ってゆーかわざわざ買ったし!

だけど、純情ぶってる私はちょっとだけ考えるふりをする。
でも、やっぱり私もシャチといちゃいちゃしたいわけで。答えなんて決まってる。



「じゃあ、…おとななクリスマスにする。」
「へんたいミア」
「な、…!!」



にやっと笑ったシャチが楽しんでるのは明らかで。
もう!とお腹にパンチして、残りのブーツを速攻で脱いで部屋へと入ると、肩を震わせながら謝るシャチに腕を引っ張られて振り向き様にキスされた。



「………。」
「怒んなよ。楽しもうぜ、クリスマス」



怒ってないよ。怒ってるふりだよ。
だってこんなやり取りだってシャチとだったら楽しいもん。


ちゅっと私からの不意打ちキスをくれてやった。



「メリークリスマス、シャチ」
「…、うん。メリークリスマス、ミア」



おでこを合わせてくすくすと笑い合う。
早く温かい部屋に入って、コート脱いで、美味しいもの食べて、いっぱいお話しして、たくさん笑って、抱きしめ合って、キスして。今年も誰にも負けないふたりだけの思い出作ろうね。




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