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お出かけ前に。



玄関でお邪魔しますも言わずにまるで自分の家みたいに靴を脱ぎ捨てて中に入る。そのまま2階へと続く階段を駆け上って目当ての部屋をノックもなしに開けた。



「ロー!めりくりー!!」
「うるさい。ノックくらいしろ」



ありゃりゃ?
幼馴染のローは認めたくはないけれど、イケメンでモテまくりの男のはずなのに、今日というクリスマスイヴの日にありえない姿で自室にいらっしゃる。



「ロー、今日デートじゃないの?なんで部屋着?」
「…ミアには関係ない」
「え、…もしかして、ローふられたの?」
「……」



ガン無視を決め込んだローは、寝そべったソファの上で雑誌をめくった。

え、ちょっとちょっと、マジで?
あの彼女切らせたことのないローが!?クリスマスというイベントを前にしてフラれた!?


なにそれウケる!!!



「うざい。消えろ」
「あ、ごめんごめん。ローの不幸にちょっとにやついちゃったよ」



だって面白いんだもん。彼女のいないローとか。クリスマスにひとりぼっちとか。
ぎろりと私を睨むローだけど、こんなひねくれた性格のローと幼馴染やってるんだ。そんなの怖くもなんともない。



「何でフラれたの?」
「…」
「てかロー、彼女一人じゃなかったよね?」
「うるせーよ」
「ま、まさか全員にフラれちゃったの!?」



やばい、また笑いそう…!



「もしかして二股してるのがばれたの?」
「ばれてねぇし、二股じゃねぇ。六股だ。」
「うわサイテー!」



こんな幼馴染いやだわホント。
え、ってか…、



「…ロー、まさか6人ともフラれたの…?」



こらえきれずに噴出してしまった。



「もー、自業自得だよー。今日はおとなしく家で寝てな」
「余計なお世話だ。ったく、あいつらは俺のよさがわかってねーんだよ」
「えー。浮気しまくりの男なのに良さって言ってもねぇ」
「あいつらも他に男いたぞ。おあいこだ」
「ろくな女と付き合ってないね、アンタ…。っつーか他の男に取られてんじゃん」
「…」



墓穴を掘ったローに、今度は哀れみの目を向ける。
6人いて6人とも別の男を選んだんだ。この男、めちゃくちゃプライドを傷つけられているに違いない。



「で?ミアは何しにきたんだよ」



この話題はうんざりなのか、今度は私に焦点を当ててくる。
はっとしてここにきた理由を思い出した。



「あ!そうそう、私今からデートなんだけどさ、服、これで良いかな?可愛い?」



幸せいっぱいでくるりと回ってみせると、死ねと真顔で言われた。ひどすぎる。



「もー、アンタの不幸を私に当たらないでよね。自業自得だよ、浮気者!」



ああもう。センスだけはあるローに頼った私がバカでしたー。
はいはい、帰りますよっと。



「ローのアホ。ひとりクリスマス満喫しろバーカ。」



そう捨て台詞をはいて、くるりと背を向けドアに手をかける。



「…マフラーは白にしとけ」



ぽそりと聞こえてきた声に、振り返ってローを見る。
気だるそうな態度だけど、しっかり私の質問に答えてくれていて。

このひねくれ者。
どうしようもない男でも、これだから縁だけは切れないのよね。

振り返ったはいいけど何も言わない私を不思議に思ったのか、ローは目だけこっちに向けてくる。



「あるだろ?この間新しいの買ったって騒いでたやつだよ」
「うん、家にある。じゃあそれつけていくね!ありがとうロー」
「ああ。早く行け。」
「はーい」



にししと笑って今度こそドアをあける。
階段を降りようとした手前でポケットに特大キットカットが入ってたのを思い出したので、もう一度戻ってローに向かって投げた。



「メリークリスマス!」



それだけ言ってパタパタと階段をおりる。すばやく靴を履いて、お邪魔しましたもなしに外へ出た。
ぴゅうと冷たい風が吹いて、身震いをひとつする。隣の家だけど、この寒さだとやけに遠く感じる。早く暖かいお家に入りたい。

よし、と気合を入れて走って道路に飛び出したところで、頭に何かがぶちあったって衝撃が走る。
地味に響く痛みに、うんうん唸りながら頭を抑えると、地面に見覚えのあるものが転がっていた。瞬時にローの部屋を見上げる。



「ちょっとロー!痛いじゃん!てか折角あげたのに!」
「俺はチョコは食わねぇんだよ」
「だからって投げることないでしょー。頭へこんだらどうすんのよ!?」
「へこむかアホ。帰りに駅前の和菓子買ってこい」



なんつー俺様だ!まだ頭痛いし!

腕組して、白い息を吐きながらそう要求してくる幼馴染に怒りを覚えたけど、今日はクリスマスイヴ。こんなやつに構ってやる暇なんてない。それ以前にローの要求はのめない。なぜなら、



「ごめんロー。無理!」
「ああ?」
「だって今日泊まりだもーん」



ふへへへと勝ち組の笑みを向けると、今日二度目の「死ね!」とともにローの部屋の窓がぴしゃりと閉められた。



「ちょ、ごめんてばー!明日買ってくるから」



私の言葉は聞こえているのかいないのか。閉められた窓に答えがうつることはないけど。
皆の前ではクールでかっこいいローなのに、なんで私の前だけこんな子供みたいになるんだろう。


くすくすとこぼれる笑いがとめられなくて、吐き出される白い息はそのままに落ちているキットカットを拾って白いマフラーを取りに家へと帰った。





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