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れしすぎ、





わいわいと煩い甲板。皆いい具合に酔っている。
もともと騒ぐのが苦手な私はいつも端っこで静かにお酒を飲むのが好きだ。



「ミア、飲んでるかー?」
「飲んでるわよ」



ほら、と手の中のグラスを持ち上げて証拠を見せる。
隊でも比較的仲のいい彼は既にほろ酔いのようだ。



「ったく、おまえ全然飲んでないじゃねぇか」



私のグラスを見て盛大に溜息を吐くと、あろう事か私のグラスに容赦なく酒を足してきた。



「ちょっと、大丈夫だってば」
「折角の宴だぜ?飲め飲め!」
「もう…」



仕方なしに注がれた酒を口に運ぶ。



「そういやミア、アレはいいのか?」



アレ、と言われて指さされた方を見る。
そこには12番隊所属の女の子とハルタの姿。



「いいんじゃない?別に」
「いいっておまえ…。仮にもハルタ隊長の女だろうが」



呆れたように言われたけど、仕方ないじゃない。
ハルタが喋る人を私が制限したくない。

確かに、あの子は私から見ても必要以上にべたべたしてるけど。
ざわりと胸の中に黒い感情が生まれた気がしてそれをかき消すように酒を煽った。



「お、空じゃねえか」



そう言って嬉々としてお酒を注いでくれる相棒にグラスを傾ける。



「おまえ嫉妬とかしねぇの?」
「嫉妬も何も、隊員と話してるだけでしょ」
「かーっ、冷めてんなァ」
「普通よ普通」
「クールっつーか、ドライっつーか…」
「そういう性格なの。仕方ないでしょ」



嫉妬した所でなにが変わるわけでもないし。
よく冷めてるとは言われるけど別にそれはハルタのことすきじゃないからとかではない。
好きだ好きだと頻繁に言う性格でもないし、そこまで鬱陶しくハルタに絡みたいわけでもない。ただ、べたべたの恋愛をする性格じゃないだけだ。
ハルタの事は好きだし、ハルタもそれでいいって言ってるから、私たちの間では全く問題はない。



それから他愛もない事を話していたけど、最初に指を指されたときからチラリチラリと視界に入るハルタとあの子が気になって、ふられる話にも適当に相槌を打つくらいしか出来ない。でも視界に入る光景に、私の酒はどんどん減っていく。



「ちょ、おまえ大丈夫か?」
「…なにが?」
「顔すっげー赤いし、目が据わってんぞ」
「だいじょうぶ」



失礼な。まるで私が酔っているみたいじゃない。

気がつくと彼に顔を覗き込まれていて、私の手にはグラスじゃなくて酒瓶が握られていた。いつの間に瓶ごと飲んでたんだろう。
心配そうに見てくる彼の目に少しイラッとした。



「全然酔ってないよ」
「…。説得力ねぇな。つーかミアが酔ってんの初めて見た」
「だからぁー、酔ってないってば。」



人の話を聞きなさいよ。
でもなんだか、気分がふわふわするし、少しだけ眠い気がする。今日はさっさと部屋に帰って寝ようかな。



「んー。でも少し眠くなったから、私部屋帰るね」
「おう、そうしろ。ハルタ隊長には俺から伝えておくから」
「ハルタ……?…楽しそうだし、別に伝えなくてもいいんじゃない?」



ハルタの方を見ると、いまだあの女の子とべったりだ。お楽しみを邪魔しちゃわるいからね。邪魔者は消えますよ。


ぷいと反対を向いて部屋へと歩き出す。
身体がふらりとしたけど、問題ない。船が結構揺れてるみたいだから、とりあえず壁に手をつきながら歩く。
あー、早くベッドに入りたい。


かちゃりとドアを開けて、見知った部屋の中に入ってベッドにダイブする。
ハルタの匂いが私を包んで、にんまりと頬が緩んだ。と同時に、こつんと何か異質なものの存在に気付き、首を回して手元を確認すると、私の手にしっかりと酒瓶が握られていた。まだ半分以上入っている。とりあえず、もったいないから、ベッドに座って飲みきる事にした。
そこでふとある事に気付く。



「ありゃ?…私、ハルタの部屋に来てる…」



無意識でこっちに来ちゃったのかな。ま、いっか。どっちで寝てもそう変わりはない。

こくりと酒を一口流し込んで、さっきの情景を思い浮かべる。
ざわり、とまた黒い何かか顔を出した気がした。



「…ハルタ今夜帰ってこなかったりして、」



そんな事考えていないはずなのに、口をついて出て来た言葉にドキッとする。でも何故か驚きはしない。と言う事は私はそう思ってたってことだ。

もう一口流し込んだ酒と一緒に、すとんと何かが胸の中に落ちる感じがした。



やだなぁ。ハルタがあの子と仲良くするの。



そう思うと同時に、なんだ、私も嫉妬するんじゃん、と冷静な私が思う。
不思議。2人の私と会話しているみたい。

顔は熱いし、ふわふわするし、頭は重いし、何でか私は一人だし、ハルタはあの子といるし、もう何もかも嫌で、気付いたら一人で泣いていた。
ぽたぽたと落ちる涙は止まる事はなくて、頭はがんがんして痛みが酷くなるし、最悪だ。



「ちょ、ミア、どうしたの!?」



気付かないうちに帰って来てたのか、ドアの所にハルタが立っていた。嬉しいはずなのに、ハルタの顔を見た途端、さっきの情景が浮かんできて、なんか腹が立って手に持ってた酒瓶を思いっきり投げつけた。
力が入っていなかったからなのか、酒瓶は弧を描いてあらぬ方向へと飛んでいく。なんだ私、かっこわるい、。



「…なんでハルタここにいるの」
「なんでって、ミアが部屋に帰ったって聞いたから。部屋にはいないし、もしかしたら僕の部屋かと思って」
「……別に帰ってこなくても良かったのに」
「なにそれ本音?」
「………嘘音…、」



クスリと笑ってそばに寄って来てくれるハルタにぎゅうと抱きつく。もう離すもんか。あの子のとこなんか行かせない。



「今日は随分飲んだみたいだね」
「ハルタのせいだよ」
「僕の?じゃあミアが泣いてるのも僕のせい?」
「うん。ぜーんぶ、ハルタのせい」
「ミア、いつもと雰囲気変わりすぎ。可愛いからいいけど」
「うるさい。反省してんのかっ」



全く反省の色が見られない!
呑気なハルタを殴りたくなったけど、手を離した瞬間どこかに行ってしまいそうだから、ぎゅっとハルタに回す腕を強めた。



「なにこれ、すごい可愛い。」



飲み過ぎるとこうなるんだね、新しい発見したなーとぽふぽふ頭を撫でて抱きしめ返してくれるハルタに、ふざけてんのかと言いたくなったけど、口から出て来たのはさっきの黒い塊だった。



「ハルタのばーかばーかばかばかばーか」
「はいはい、ごめんね」
「何謝ってんの?分かってんの?」
「んー、わかんない。僕何したの?」
「分かってないのに謝んなっ」
「うん、ごめんね」
「もー!…ハルタはわたしのなんだからね、」
「…ん?」



一瞬ハルタの動きが止まって、腕を緩めて見上げたら、ぽかんとしているハルタがいて。それが気に入らなくて私はもっと不機嫌になる。



「なにその顔!むかつく!ハルタはわたしのなのっ!」
「う、うん」
「ちがうの?わたしのじゃないの?あの子のなの?」
「あの子?」
「とぼけるなバカぁぁっ。ハルタの部下の子だよ、。仲良くしてたじゃん…」



ぐす、とまた涙が出てくる。
それでも構わずハルタを睨むと、些か動揺気味のハルタと目が合った。



「ちょ、待ってミア。あの子は、普通に僕の部下だから」
「そんなこと知ってるし。でもわたしあの子きらい!」



ぷいっと顔を背けると、ふっと笑った声が聞こえた。
こっちは真剣なのに!文句を言ってやろうと思ったら、嬉しそうな顔のハルタがそこにいたから、言葉に詰まる。一瞬のその隙に、ハルタは私をぎゅっと抱きしめた。



「ミア可愛すぎ」
「…、そんなのしらない」
「妬いてくれたの?」
「しーらない。」
「…ヤバいな、嬉しすぎ、」
「なに?嬉しいの?えへへ、ハルタが嬉しいとわたしもうれしー」
「ミア、…酔うといつもこうなるの?」
「酔ってないし」
「…。いつも言わない事言ってんじゃん」
「なぁに?」
「饒舌だし、そうやって話したりとか、僕はミアのとか」
「じゃーもう言わなーい」
「ううん、もっと言って」
「どうしようかなぁ。ハルタがわたしにいっぱい好きくれたら考えてあげる」



ハルタの腕の中で、ハルタの匂いに包まれながら、あったかくて幸せで満たされて、嬉しくて、顔がほころぶのが止められない。



「…狙ってんの?」
「ばきゅーん!」



へらりと笑ってこてんとハルタの肩に頭を預ける。
ああ。あったかくて、幸せで。ふわふわで。瞼が重い。

ぐらりと身体が揺れて、ハルタのふかふか枕に着地した。シーツの掠れる音に、慣れた唇の感触。だんだんと深くなるそれに幸せが溢れる。ああ、これは夢なのかな、ハルタが優しいな。起きたら一番にハルタにキスしよう。





(すーすー…)
(……………!!(あ り え な い…))





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