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うの昔に知ってたよ




幼馴染みのペンギンは、優しくて頭が良くて、よく気が利いて仲間思いで、時々意地悪で、でもとてもかっこいい。そんな彼を好きにならないはずがなくて。私は物心ついた頃から、ペンギンの事が好きだった。
何をするにも後をついて回って、どこにいくにも一緒にと駄々をこねて。ついには海賊になんてなってしまった。

こんなにも長い間同じ人を想い続けるなんて、自分の事だけど凄いと思う。だけど、このままではいけないと思った。
しっかりと自分の気持ちにけじめをつけなければいけない。これ以上ペンギンに迷惑はかけられない。というより、いつまでもペンギンと一緒にいる事なんてできないと思った。ペンギンだってペンギンの人生があるし。


深呼吸をしてペンギンに声をかける。
ふたりしかいない甲板で、波の音しか聞こえない、静かな夜。



「ミア、月、綺麗だぞ」



そうだね、と返事をするけど、私にはそんな景色すら視界に入らない。見えているのは目の前の愛しい人ただ一人。
もしかしたら、ううん、もしかしなくても、これがペンギンを見る最後のチャンス。明日の朝、船が島に着いたら、私は船を降りる。



「ペンギン、あのね、」
「ん?」



月の光を背に浴びるペンギンの顔は暗くてよく見えない。だけど、それはそれで好都合。
うるさい胸の音を悟られないように、もう一度だけ、静かに深呼吸した。



「私、ペンギンに伝えたい事あるの」
「どうした?」
「わたし、」



ああ、心臓の音が耳に響いて自分の声すら聞き取れない。
だけど、小さい頃からのこの想いが少しでもペンギンに届くように。



「わたしね、ペンギンの事が、好き」



本当は、“好き”なんて言葉じゃ伝えきれない。好き以上にペンギンの事が好きで、自分以上にペンギンの事が大事。
それだけは本当で、ちゃんと伝わって欲しいから、しっかりとペンギンを見て、言った。


だけど。
少しだけ間を置いて、ペンギンは堪えきれない笑いを吐き出すかのように肩を揺らして笑い始めた。



「ぺ、ペンギンひどい…、」



予想の斜め上をいく反応に、勇気を振り絞った私の心はしおしおと元気をなくしていく。元々肯定的な返事をもらえるとは思っていなかったけど、ここまで笑う程、ペンギンにとって私の気持ちはありえなかったって事なんだろうか。

じわりと熱くなる目頭に、唇をぎゅっとかむ。
一頻り笑ったペンギンは、満足そうににやりと笑った後に私を見据えた。



「泣くなよ。笑って悪かった」
「、まだ泣いてない。ペンギンがこんな酷い人だとは思わなかった」



笑われた恋はここに捨てて行くから、じゃあせめて最後は仲のいい幼馴染みで終わらせてよ。



「いや、まさかこのタイミングで言うとは思わなくてな」
「…どういうこと?」
「知ってた。ミアの気持ちなんて、とうの昔に知ってたよ」



ペンギンの言葉に頭が真っ白になる。
知ってた?私がペンギンを好きだってこと?



「い、いつから?」
「故郷を離れた時」



そんな前から、。
じゃあ、どうして、



「…ついてくるなって、振り払ってくれればよかったのに、」
「何故?ついてきたのはおまえだろ」
「そうだけど、」



こうなること、知っててそうさせてたんだね。



「俺はミアが思ってる程優しくないぞ」
「…うん、そうみたい」



ここまでする?と思うくらいにへし折られた心。



「ペンギン、」
「なんだ」
「私、明日この船降りるよ」
「そうか。ローは知っているのか?」
「まだ。後で話しにいく」



当たり前だけど、止めてくれないペンギンに、更に落ちる私の心は、へし折られてもまだしぶとく生き残っているらしい。



「荷物は?」
「今からまとめる」
「そうか」



そう言って不敵に笑って顔を近づけて来たペンギンに、一際大きく心臓が跳ねた。
長年温めて来たこの心は本当にしぶとい。



「さて、ミア。幼馴染みに未練はあるか?」



その言葉に今度は胸がキリキリと痛む。いよいよお別れの時が来たみたいだ。ペンギンは、私とペンギンの唯一の繋がりすら断ちたいらしい。私も、その方が、後腐れなくていいのかもしれないけど、。



「ううん、ない。今までありがとう、ペンギン」



泣き顔なんて見せない。最後は笑っていたいから。
震えそうになる声を必死に押さえて、今出来る精一杯の笑顔でお礼を言った。



「こちらこそ」



そうペンギンの声が聞こえた瞬間に、ペンギンの顔が近付いて温かいものが唇に当たる。



「…っ、」



一瞬のことで何が起こったかわからず、息が出来たと思ったら、ペンギンは目の前で満足そうな顔をしていて。



「…、ペン、い、いま、」
「キスした」



知ってるよ、そんなの、。
今のは、何のキス?何で最後にこんな事するの、

いろんな気持ちがあふれて来て、我慢していたのにぽろりぽろりと涙がこぼれた。
それでも平然としているペンギンに、余計悲しくなる。



「泣く程嬉しかったか?」
「ちが、っ、ペンギンの、バカっ…!」
「泣くなよ、悪かった」



悪いなんて、ひとかけらも思ってないくせに。



「何で、キスなんて…」



ぽろりとまたひとつ涙が落ちたけど、もう止められないみたいだから、それはそのままにしてペンギンに問う。



「幼馴染みじゃなくなったから」
「…は?」
「幼馴染みに未練はないと言ったのはミアだろう」
「言ったけど、それって、お別れって意味じゃ、」
「相変わらずバカだな、ミアは」
「ひど、」



そう言いかけた所で、ペンギンはぐいっと私の頬の涙を強引に拭った。



「俺は追われるより追う派だ」
「はぁ?」
「それに、ミアは俺に依存しすぎだ。だから、俺から離れる決断をするまで待っていた」
「意味が分からないんだけど、」



なんだか流れが私が思っていたのと別の方向へと行っている気がして、混乱する。
つまり、ペンギンは私の事嫌いじゃないってこと?



「分からないなら、教えてやるよ」



今度は不意打ちなんかじゃない。
私の目を見るペンギンに、動けなくなる。そんな私を見てにやりとしたペンギンは人生で2回目の私の唇をいとも簡単に奪っていった。

さっきのよりも深くて優しい。頭がくらくらとする。

音を立てて離された唇に続いて、頬にもキスされる。そして瞼の上にもキスされて、最後におでこにキスされた。



「ミアが俺の事を嫌いにならない事を願うよ」



おでこにかかる吐息に、ドキドキする。
だけど、呟かれたペンギンの言葉が理解出来ない。



「私、ペンギンの事嫌いになんてなれないよ」
「だといいがな」
「どういう意味?」
「…幼馴染みの俺と、男の俺は違うぞ」
「こんなに長い付き合いなのに、まだ私の知らないペンギンがいるんだね」



私の知らないペンギンを見せてくれる事が嬉しくて、微笑んでしまう。
そんな私にペンギンは呆れたように笑うと、「覚悟しとけよ」と触れるだけのキスをした。






(押さえきれない想いはどっちのもの?)





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