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んばりすぎんなよ





ふわふわとした感覚が身体を包む。
手には温かい感触。



“あんまり、がんばりすぎんなよ、”



優しい声がそう響いて、よく知っているような、でもこんな優しい声知らないような、心地よいそれに身を委ねる。誰の声だろう。温かくて愛おしいそれはとても落ち着く。





「ん、」



意識が浮上して、ゆっくりと目を開ける。
なにか、とてもいい夢を見ていた気がするけど、何だっただろうか。あたたかい声が聞こえた事は覚えてる。凄く落ち着いて、肩の力が抜けた気がする。

見慣れたこの場所は、どうやら医務室のようだった。
なんでここにいるんだろう。

とりあえず状況が分からなくて、身体を起こす。
と、その瞬間、右手が何かに掴まれている事に気付く。つられてそちらに目を向けると、知った刺青に私のより一回り大きな手。しなやかに伸びる手を辿ると静かに寝息を立てているローがいた。椅子に座ったまま寝る姿は様になっているけど、首が疲れそうだ。


ふと、さっき聞こえた声はローだったのかな、と思う。
夢か現実かすら分からないけど、ローだったらいいな、と思った。


ピクリとローの指が動いて、同時にローの瞼がゆっくりと上がる。



「おはよう、ロー」



そう声をかけると、一瞬目を見開いたローは「気分は?」と聞いてきた。



「大丈夫。私、何で医務室にいるの?」
「倒れたんだよ」
「倒れた?なんで?」
「睡眠不足。あと働き過ぎだ」



倒れるなんて今まで生きて来て一度もした事なかったから、その事実に今度はこちらが目を見開く。



「倒れたって、私が?」
「ああ。元気が取り柄のおまえがだ」
「ええー、見たかったなぁ。ちゃんと女の子らしく倒れてた?」
「…。盛大に倒れて頭打ってたぞ」
「あちゃー。それは失礼致しました」



おちゃらけて言う私に呆れ顔のロー。
ずっとここにいてくれたってことは心配してくれてたって事だと思う。



「起きるまでそばにいてくれてありがとね」
「タイミングが良かっただけだ」



フン、と目を逸らすローに口元が緩む。



「とりあえずミアは一週間休め。」
「一週間も!?私全然元気だけど」
「医者の言う事が聞けないのか」
「外科医の言う事じゃねぇ…」
「素直に聞いとけ。…医者じゃなくて俺がミアに動いて欲しくない」
「…、わかった、」



珍しいことを言うローにびっくりしてうっかり返事をしてしまった。
それに満足そうに微笑むと、そばに置いてあった鬼哭を取って席を立つ。離れた右手に少しだけ寂しさを感じた。



「ミアの仕事は他のヤツにやらせる。あと、自分の仕事以外、頼まれてもおまえはしなくていい。わかったか」
「はーい」



それだけ言うと、振り返りもせずに部屋を出て行くロー。ぶっきらぼうなのは変わらないらしい。
ローと入れ替わりで入って来たベポに思考を奪われたけど、「よかった」とぎゅうぎゅう抱きしめてくれるベポのもふもふ感の中で、ぶっきらぼうだけどやっぱりあの声はローしか考えられないよなぁと笑みが漏れた。





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