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スクなんてクソ食らえ!





1週間ほど前から家に入り浸っているこの男、シャチ。つなぎのマークから見るに、海で略奪とかを繰り返す無法者どもの仲間なんだと思う。



「ミアー、ジュース飲んでいい?」
「どうぞー」



知った顔で冷蔵庫を開けてジュースを取り出すこいつをどうしたものか。
両親が旅行で2週間ほど家を空けることになって、久しぶりの開放感に友達皆を呼んでパーティをしたのが1週間前。その時になぜか混ざってたのがこいつ。普通に友達の友達かと思って仲良くなってしまったけど、あとで確認してみると誰の友達でもなかった。

問題は、私がこの男を好きになってしまったということ。
いや、まだ引き返せる位置にはいるのかもしれない。微妙だけど。



「あ、そういやオレさ」
「うん」
「明日にはこの街出てくんだけど」
「海に?」



一瞬驚いた顔をしたシャチは、にっと笑うとジュースを一気に飲み干した。



「なんだ、ばれてたのか」
「あからさまにマーク背負ってんじゃん」
「怖くねぇの?」
「まぁ、最初会ったときに仲良くなりすぎちゃったからなんとも」
「そっか」



へへっと笑って、嬉しそうに私を見るシャチ。きゅんとする胸。
この海賊はうまい具合に私の心を奪っていった。



「寂しくなるね」
「は?何言ってんの?」
「え?明日行くんでしょ?」
「おお、けどミアも一緒だぞ」
「はぁ!?」



目玉落っこちるかと思った。そのくらいびっくりしてシャチを凝視する。



「待って待って、何で私も一緒に行くことになってんの?」
「ん?オレがそうしたいからだけど」
「あれ、シャチってそんなキャラだったっけ、」
「何をいまさら。海賊が何奪おうが勝手だろ」



それはごもっともですが。
でも私だってアホじゃない。お尋ね者になんてなりたくないもん。



「私行かないよ。明後日には親帰ってくるし」
「好都合じゃん」
「てか海賊になるなんて無理。利益よりリスクの方が大きいじゃん!死の!」
「だーいじょうぶだって!オレ守ってやるし」



半分きゅーんとしかけたけど思い直る。
いかんいかん、こんなへらへら笑ってる奴に命なんて預けられない。



「もう船長の許可ももらってるし。オレと来いよ」
「…、やだ、」
「じゃーあと何を奪えばいいわけ」



むっと唇を尖らせ不機嫌になるシャチに疑問がわく。



「何をって、まだ何も奪ってないでしょ」



知らないうちに何か盗まれてたのか、と一瞬不信感。
でもそんな私を見てにやりと意地悪そうな顔をしたシャチは、キャスケット帽を被りなおして私を指差した。



「それ、奪ってたと思ってたんだけど。オレの勘違い?」
「、それ?」
「ミアの気持ち」



予想外の言葉に、顔に熱が集まって狼狽える。何でバレてるの。
けど、そんな私なんてお構いなしに「まあ奪われたのはオレもだけど」と爆弾発言をしたシャチに既に頭はパンクしそうで。



「だからさ、一緒に来てくんない?できれば強硬手段はとりたくないんだよな」



笑ってそういうけど、腰をかがめて私の顔を覗き込んできたシャチの目は、サングラス越しだったけど真剣で。



「でっ、でも私戦えないし」
「それでもいいよ。護身は俺が教えるし」
「船で長旅なんてしたことない、」
「だいじょーぶ。オレがついてる」
「両親だって納得、っていうか、知らないし」
「反対なのか?」
「大反対でしょ普通は!」
「じゃーあと追っかけてくるかもな」



嬉しそうに言うシャチに「笑い事じゃない」と怒るけど、確実に、私の気持ちがシャチに向いているのは間違いないわけで。最初ほど私の勢いがなくなったのはきっと勘違いじゃない。



「私、シャチしか知ってる人いないんだよ」
「うん、皆良い奴だから問題ない」
「守ってくれるの?」
「絶対守る」
「…両親激怒だよ」
「知るか。欲しいものは頂いていくのが海賊だ」
「……私、今走馬灯が見えてるんだけど」
「まだ死なせねぇっつーの」



鼻をつままれて睨まれたけど、こんな一生に一度あるかないかの選択、悩まないわけない。



「やっぱり私にはリスクが大きいよ、シャチくん」
「リスク?んなもんオレが(限りなく)ゼロにしてやるよ」
「今なんか言葉隠した!」
「つーか安全よりスリルの中で生きたほうが楽しいぜ。リスクなんてクソ食らえだ」



そう言って本当に楽しそうに笑うものだから、私の毒気も抜かれてしまう。
結局リスクをゼロにはしてくれないんじゃんか。

でもまあ、こんなに楽しそうに笑うことができるのなら、それもあながち嘘ではないのかもしれない。



深呼吸をして、覚悟を決めた。
ごめんね、お母さん、お父さん。
娘は嫁に行ったとでも思ってください!



「オッケー、シャチ。じゃあ私を奪っていって!」
「任せとけ!」



あ、やばい。
ぎゅっと握ってくれた手が温かくて嬉しくて。
思った以上に楽しいかもしれない。



二人で笑顔で外に飛び出した。





(あらあらミアちゃん、彼氏?楽しそうねぇ)
(あ、おばさん!そうなんです、両親には嫁に行くって伝えといてください)
(え?嫁?え、ちょ、ちょっと待ちなさーい!!)


(嫁はまだ気が早ぇんじゃねーの?)
(なに?責任とってくれないの?)
(取るに決まってんだろバーカ)
(えへへ、バカって言うほうがバカなんだよ、バカシャチ!)
((こいつバカだ!))




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