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りがとな、いつも。





朝は早くに起きて野郎共の朝飯を作り、昼は昼でまた昼飯。夜は晩飯作って、翌日の仕込みをして就寝。
基本これが俺の生活サイクルだ。

けど、今日はなんか寂しいような物足りない感じが一日中続いてずっと頭を傾げていたんだが、つい先程その理由がわかった。



晩飯の時間になる今の今まで、今日はミアの姿を一度も見ていない。



朝はクルーの誰よりも早くに食堂に来て、甘いコーヒーをねだるミア。あの可愛らしい「おはよう」も今日は聞いていない。
ミアは妹のようなもので、よく俺の周りをちょろちょろ動く。朝に始まり、昼も何かと話しかけてくるし、時々皿洗いも手伝ってくれる。お菓子をリクエストするときもあれば、不器用なりに晩飯の準備を手伝ってくれたりもした。そして夜は決まってうとうとしながら食堂で甘いココアを飲む。早く部屋帰って寝りゃあいいのに、部屋に帰るのは基本俺の仕込みが終わるくらいの時間だ。


そのミアが、今日は一度も姿を見せていない。


一度気付いてしまったら、気になりだすもので、クルーの一人を捕まえてミアはどうしているのかを聞いてみた。
するとどうやら風邪を引いて寝込んでいるらしい。
一日見ていない、と言う事は、食事すらまともに取ってないと言う事だろう。



「なんか持ってってやるか」



そう呟くと、手際よく仕舞った包丁を取り出し、材料を切っていく。
食欲があるかどうか分からないから、食べ易いものと、何かフルーツでも持っていこうか。



数十分後、出来上がったそれをトレーに乗せて、がやがやとうるさい食堂を通り過ぎる。
冷たい廊下を進んでミアの部屋の前まで来ると、静かにノックした。
数秒間をあけてから、ミアの弱々しい声が聞こえる。



「入るぞ」



かちゃりとドアを開けて中に入り込むと、ベッドからちょこりと顔を出したミアがいた。少しだけ頬が赤い。熱もあるのか。



「サッチ、」
「……、」



ほわりと嬉しそうに微笑んだミアに一瞬息をするのを忘れた。
なんだ、今の。



「飯、持って来てやったぞ」
「わぁ、嬉しい」



またふんわりと笑ったミアは、ゆっくりと上半身を起こした。持って来たトレーを膝の上に乗せてやる。



「食べれそうか?」
「うん、朝から何も食べてなくて。お腹ぺこぺこ」
「そうか。熱は?」
「下がってきてる。お薬もらったから」



それを聞いて安心する。
ミアは「いただきます」と言うと、持って来た粥をスプーンで小さく掬い、ふうふうと冷ましてから、ぱくりと口へ運んだ。



「ん、美味しい!」
「そりゃ俺が作ったからな」
「うん。薬よりもサッチのご飯のが元気でる」



へへ、と顔を傾けて笑ったミアに、何かがすとんと胸の中に落ちて来た。
と同時に、俺は気付いてしまった。


今日一日中何かをなくしてしまったような、物足りないような、そんな気がしていたのは確実にこれのせいだ。
いつの間にか、ミアが俺の生活の一部になっていたらしい。こいつのこのほんわりした雰囲気と笑顔を見ていないと、俺は完全になれないようだ。
何とも幼稚な考えだが、俺は俺が思うよりも前から、きっとこいつの事が好きだったらしい。



年端も行かないガキじゃあるまいし。こんな事に気付かないなんて。
あまりのアホさ加減にふっと自嘲気味な息が漏れた。



「え?なに?」



きょとんとスプーンを口に入れたままこちらを向くミアに、「なんでもねぇよ」と返す。



「ただ、ミアに一言言いたくてな」
「ん、なに?」



何気ない会話に、仕草に、笑顔に、俺がいつも癒されていたのは事実で。それが出来るのは他の誰でもないこいつしかいなくて。
その大切さが、いなくなった今日一日で十分に分かった。
だから、今言いたい事はひとつだけ。



「ミア、いつもありがとな」



スプーンを加えたままはてなマークを浮かべるミアの頭を撫でる。
病人相手に無理はさせねえ。けど、気付いたからには、俺、本気になっちまうと思うから。だからおまえは今のうちにたっぷり休んどけよ。




(わたしサッチに何かしてあげたっけ?)
(今は分かんなくていいよ)




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