いちばん大切なのは君
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「意外に続くよねー、罰ゲーム」
「そういうミアが一番楽しんでんじゃねぇか」
サッチ特製のクッキーを頬張りながらそういう私に、お茶を片手にイゾウが答える。
「だって楽しいもん!」
「まだまだ悪ガキだもんな、ミアは」
「ラクヨウも似たようなものだろう」
元気に答える私に茶々を入れてくるラクヨウ。それにつっこむビスタ。
「っていうかそれに乗っかる僕らもまだまだ悪ガキってことだよね」
「ミアの我侭は断れないからな」
「はは、違ぇねぇよい」
「まー楽しけりゃなんでもいい、ぐがー!」
「おいエース。食うか寝るかどっちかにしろよ」
紅茶を飲みながら笑うハルタに、私の我侭のせいにするジョズ。それに同意のマルコと、いつも通り食べながら寝るエース。そして面倒見のいいサッチ。
たまたまそろって時間が空いたので、珍しく皆でアフタヌーンティ中だ。
おっさん共の中に私一人紅一点だけど、むさ苦しいのは慣れてるので気にしない。むしろ加齢臭がしてこないだけマシだ。
「そういやミア、お前そんな髪留め持ってたっけ?」
「あ、これ?サッチよく見てるねー」
この間親父に買ってもらった髪留めを早速つけてみたのだ。
にひひと照れ笑いしながら、髪留めに触る。気に入ってるだけに、気付いてもらえるとなんか照れる。
「大切な人にもらったんだー」
至極当たり前のようにそういうと、場の雰囲気が一瞬にして変わった。
あまりの状況に思わず吹き出しそうになったけど、なんか皆の目がマジで笑うに笑えない。
だって、イゾウとハルタは目をまんまるにしてこっちを見てるし、ラクヨウは紅茶でむせたのか鼻からおそらく紅茶と思わしき物を出している。超痛そう。そして汚い。
それに、マルコは一瞬頭の毛が飛んでったかのような幻覚が見えたし、サッチのリーゼントも一瞬すっぽーんって飛んでいったように見えた。ジョズは微動だにせず私を凝視だし、エースは寝てたはずなのに盛大に椅子からこけた。そして一番うざさを発揮してるのがビスタだ。
「ビスタうっざ!無言で凝視しながら肩がくがくすんのやめてくんない!?」
「だって、おま、ミア……!!」
なんなのよ本当に。
うざい事この上ない。皆ハゲろ!!
「まー、待てよい」
「えーと、つまりよ、ミア?」
「なによ」
髪の毛すっとんでいった2人がこめかみを押さえながら私に話しかけてくる。
「お前さん、いつの間に“大切な人”なんて出来たんだい」
「え、皆もいるでしょ?大切な人」
イゾウの一言に、何を言ってんだこの馬鹿兄共は、と首を傾ける。
すると、ジョズがこちらを向き、言いにくそうに口を開いた。
「いや、なんだ。その、ミアの大切な人なら、俺達が、その、」
「しっかりご挨拶してあげなきゃでしょ」
にこりと笑顔で紅茶をすすりながら、ジョズの言葉を続けるハルタ。
そこに深刻そうな顔をしたエースがひっくり返った床から起きて来て、真剣な顔で私に詰め寄る。
「お前の大切な人って、誰だ?」
「だ、誰って、。」
ちょ、近い近い近い!何でそんなマジなの!
親父に“挨拶”って、こいつら絶対なんか誤解してる!
ちらりと横を見ると、いまだ鼻が痛いのかふがふがやってるラクヨウが目に入って溜息が出た。
「ちょ、皆、ばか!?親父だよ、これくれたの!」
「「「「は?」」」」
一同ぽかーん。もういいわ、と思えるようなそのリアクションに、呆れて物も言えない。
「んだよ、親父か!ミアだけずりーぞ!」
急ににかっと笑顔になり態度が変わるエースも、明らかにほっとしている皆も、もうなんか、あれ。
「いい歳したおっさん共がなに勘違いしてんのよ…」
「グサリとくるな、その言葉。」
「サッチ、言うなよい…」
罰の悪そうな隊長達に、くすりと笑みが漏れる。
親父は私にとってすごく大切な人。でも、普段はこんなだけど、皆も私にとっては大切な人たち。
「皆はいないの?大切な人」
私の急な質問に、きょとんとした後に、隊長達はそれぞれ顔を見合わせた。
「そりゃ、親父に決まってんだろ!」
「エース、そりゃ聞くまでもねぇよい」
「そりゃそうだ。ここにいる奴らは親父好きしかいねぇからな」
「でもよ、ラクヨウ。大切な人っつったらっここにいる家族全員だろ。な、ジョズ?」
「確かにサッチの言う通りだな」
「ま、でも誰が一番かって聞かれたら、こいつしかいないだろうな」
「早速過保護者のお出ましかい」
「って言っても結局は皆同じ事考えてるんでしょ」
するりするりと紡がれる言葉に、視線を乗せる。
ふふんと何やらドヤ顔のビスタがきもくてやだ。
「やっぱりいるんじゃん、大切な人。でも一番は親父じゃないの?」
なんて親不孝な息子共なんだ。親父に言いつけてやるぞー!っていうかベイちゃんに言ったら皆をボコボコにしてくれそうだなぁ。
「親父も家族も大切だ。でもな、ミア」
頬杖をついたまま、諭すように言うイゾウに言葉を飲み込む。
続けて、マルコがにっと笑ってこっちを向いた。
「まぁ今の所は、自分で何でも出来る野郎共よりも、まだまだ目が離せねぇ妹の方が俺達にとっちゃあ一番大切だよい」
「な、!!」
ぐるりと隊長達を見ると、皆嬉しそうに頷いていて。
なんか急に恥ずかしくなる。
なんて言っていいか分からなくて、俯いた。若干熱くなっているほっぺは気のせいだと思いたい。
「んだこいつ、照れやがって!!」
がははと盛大に笑ったラクヨウに頭をぐちゃぐちゃに撫でられたのを皮切りに、次々と隊長達の手が私の頭に乗っては満足げに撫でてゆく。
なんだよ、それ。
ちくしょー嬉しい、。でも、素直に喜んであげるなんて芸当私には出来ないから。
「なによ皆、重度のシスコン!うっざ!!」
べーっと舌を出して、ドアを開けて駆け出す。
ごめんねアホ兄共。嬉しーけど、嬉しーけど、恥ずかしいんじゃいアホ!
だから今はこれで、許してよっ!!
(世間的にはそう言うんだろうが…)
(………“シスコン”って言われると、なんかダメージでかいな)
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