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気付けなかった面倒事




カモメが空を横切って、その向こうには青い空が見える。
自分だけサングラスで日差しを遮っているシャチの横で、彼と同じようにぐだりとだらしなく足を投げ出した。



「おー、ミアか。」
「どーもミアでーす」
「平和だなー」
「暇だねー」



変わらず海を進む私達は、嵐のように忙しい日もあれば、波の音とカモメの声しか聞こえない静かな日もある。
今日は後者だ。



「ミアなんか話しろよ」
「ええー、無茶振り?めんどくさ!」
「そういわずに、なんかないのかー?」
「そうだなぁー」



うーん、と唸って、何か無いかなと考える。でも特にこれと言って何もない。
もう一度考えて、ふと私の気持ちを伝えたらどうなるんだろうと思い至る。
別に想いを伝えることに抵抗があるわけじゃない。ただ機会がなかったから伝えなかっただけだ。
よし、暇だし、言ってみようか。



「シャチさー」
「おー」
「たぶん気づいてないと思うけど、私シャチのこと、好きなんだよね」
「…はっ!??」
「わぉ、思った以上のリアクション」



横で飛び起きて私を見るシャチに苦笑する。サングラスずれてるよ。



「なん、…冗談かよ、」



私の呑気な態度を見てか、シャチは勝手にそう判断してまたごろりと寝転がる。信じないなんて、失礼なやつだな。



「本当なのになぁ」



そう呟くと、またがばりと飛び起きてこっちを見る。
面白いけど、もういいよそれ。



「まじで?」
「超真面目にシャチが好き」
「それは、その、仲間としてとかそういうオチか…?」
「ばかでしょ。男としての好きだよ」
「まじか!じ、実は俺も、」
「あ、待った」



なんか変な流れになりそうだったから、とりあえずストップをかける。
勘違いをしてもらっては困る。私はシャチが好きだけど、別に付き合いたいとかは思ってない。



「好きって言ったけど、付き合いたいとかは思ってないから」
「はぁ?なんで」
「だってー」
「つーか俺にも言わせろよ。」
「なに」
「俺は、ミアが仲間になった時からミアのことがずっと好きだった。」
「、仲間にって…、ながっ!」



いつもより少し低いシャチの声に一瞬つまってしまったけど、なんとかへらりと笑って答える。


…ありゃ?なんかおかしいぞ。胸のあたりがとくんと跳ねた。
好きって、ふんわりした気持ちになるんじゃないの?胸が落ち着かなくざわざわするのは、私結構苦手なんたけどな。



「だから、俺はミアが本当に俺のこと好きなら、付き合いたい」



いつもは見せないシャチの真剣な目に押される。
またとくんと心臓がなった。



「俺と付き合うのは嫌か?」
「嫌っていうか、…」
「なんだよ?」
「勘違い、かも」
「は?」



シャチといると落ち着いて、ふわふわ幸せな気分になって、楽しくて、一緒にいたいって思って。
でもこんな風に胸がざわめくっていうか、壊れそうっていうか、顔が熱くなったりするのは、初めてだ。



「だって、私の好きは、子供の好きだったのかも…」
「どういう意味?」
「だって、急にシャチが、…なんかいつもと違うから、こんな、心臓が死にそうになるなんて知らなかった…!」
「…それってちゃんと、好きってことだろ」



にっと嬉しそうに笑うシャチにまた心臓が喚く。


しまった。
これが本当の恋だっていうのなら、気付きたくなかった。
なんて面倒なことになってしまったんだろう。




(でも、目が離せない、)





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