top
name change
一日秘書体験!





「マルコ隊長、起きてください!」
「……」
「マルコ隊長、朝ですよ」
「……」
「マルコたい、……マルコ朝だって言ってんでしょー!」
「ぐほっ、……!!」



何度呼んでも起きないマルコのお腹に一発蹴りを食らわせる。
兄の威厳なんて皆無な声を出して、お腹を押さえるマルコ。残念な兄だ。



「ミア…、朝っぱらから何なんだよい、」



スーツにメガネ姿の私を見て、げっそりとした表情でそれだけ紡ぎだす。



「本日一日、マルコ隊長の秘書を務める事になりましたミアです!よろしく!!」
「うるせぇ……」



そう、今日の罰ゲームは被害者マルコの秘書を1日勤め上げる事。膝上スーツにメガネ装備はマストらしい。

ミアスペシャル営業スマイルを向けて元気に自己紹介したらマルコにうるさいと言われた。うるさいとか関係ない。早く起きろ。



「マルコ隊長今日の予定は何ですか!」
「……睡眠確保」
「睡眠のお時間は終了です!次はご飯です!移動です!早くしてください!」
「……」
「あ!無視して寝ないでください!!」
「キャンキャンキャンキャンうるせぇよい。俺はさっき寝たばかりなんだっつーの」
「さっきっていつですか」
「……1時間くらい前」
「1時間も寝たならいいじゃないですか。私の予定が狂うんで、起きてくださいてか起きろクソ兄貴」
「口の悪い秘書はクビだよい」
「はっ!おくちにチャック!」



素早く右手で口元をチャックする。
クビにされたら罰ゲーム失敗じゃん!

行動通り、チャックされた口元を開けずにマルコを見たら、「いい子だよい」と言われた。うるさいよい。罰ゲームだよい。

じっとしていると、マルコにちょいちょいと指先で呼ばれて、ベッドに近付く。するとマルコは私の口元のチャックを開ける仕草をした。



「ぷはっ、」
「息まで止めてたのかい」
「ううん、ただのノリ」
「そうかい。まあどうでもいいが、せめてあと2時間寝かせろい」
「でも、」
「できねぇのかい。俺の秘書は低能か?」
「優秀に決まってんでしょ!」



びしっと片手で伊達メガネを上げ直して元気に答える。
ニヤリと笑ったマルコに、しまった乗せられた、と気付いたのは数秒後。
チクショー2時間後叩き起こしてやる!と心に誓って部屋を出る。


2時間なんてあっという間だけど、どうせ時間を潰すなら秘書らしく過ごそう、と思って食堂へと向かった。



「サッチいるー?」
「おー、ミア。秘書業はどうよ?」
「追い出された。あと2時間寝たいって」
「ははは、出だしからこけてやんの」



遠慮なく笑うサッチは失礼な兄第一号だ。



「いいんです。私は優秀な秘書だから!」
「はいはい。見た目だけな」
「見た目だけ言うな」
「ほい、ホットケーキ」
「美味しそ!ありがと!」



食べ物でつられている事は重々承知。でも胃袋掴まれたんだから、仕方ない。
にひひとサッチのホットケーキをつつきながら、無駄話に花を咲かせる。
意外と、このまま2時間潰せそうだ。



「あ、そうそう。私が食堂に寄ったのには理由があるのよ」
「理由?」
「うん。サッチ、パンくずある?」
「パンくず?」
「うん。優秀な秘書はボスに朝食を用意してあげるべきでしょ?」
「いやそりゃいじめだろ」



ぶはっと吹き出したサッチは、一頻り笑ってからコーヒーを飲んだ。
いいじゃない、鳥なんだからパンくずでも。



「流石にマルコに殺されるかな」
「殺されるな。せめて人間扱いしてやれよ」
「えー。じゃあサッチ何か用意して」
「優秀な秘書がやれ」



だって私何作っていいか分かんないし。
うーん、と考えながら最後のホットケーキを口に放り込む。



結局、さっき私が食べたホットケーキを作ってあげる事にした。もちろんサッチのサポート付きで。
そしたら上手い具合に時間が過ぎて、今はるんるん気分でマルコの部屋へと向かっている。手には自信作の朝食。確かに、パンくずよりはいい。



片手でトレーを押さえ、静かにマルコの部屋のドアをノックする。返事はない。まだ寝てるのかな。
こそこそと部屋の中に入り、机の上に朝食を置く。今から起こすのに、こそこそするのも変だよなと思いながら、マルコの顔を覗き込んだ。


わー。爆睡してる。


マルコが爆睡なんて、珍しい。
もしかして、本当に疲れてたのかな。
私の良心が「マルコの事このまま寝かせててあげようかな」なんて考える。なんていい妹なんだ。そしてこの朝食は致し方なく私の胃袋へとおさめるべきだ。


と、そこまで考えたら、マルコの目がぱちりと開いた。チッ。朝食はマルコのものになりそうだ。元々はマルコのだけど。



「…おはようございます隊長。よく眠れましたか」
「おはよーさん。今何時だ?」
「8時です」



くあ、と大きな欠伸を1つして、体を起こす。



「あっ、優秀な秘書ですので朝食お持ちしました。食べてください」
「拒否権はなしかい」



机から朝食を取りトレーごとばばーんと渡した。
トレーを受け取って膝の上に置いたマルコは、少しこげたホットケーキを見て私を見た。なんだよサッチが焦がす可能性はゼロかよ。


「ミアが作ったのか?」
「愛情たっぷりだよー。たっぷり過ぎて焦げちゃった」
「…さんきゅ」



まだ半分寝ぼけ目のマルコはもしゃもしゃとホットケーキを食べ始めた。どうせなら突いて食べればいいのに。
髪があらぬ方向へ跳ねているマルコを横目に、私は紅茶を淹れてあげる。



「で?罰ゲームだってのは大体察しがつくが、ゲームは秘書することだけかい?」
「うん。1日秘書。優しくしてね。」
「こき使ってやるよい」



じろりと睨んでやった。



「今日の予定は決まってるのでそれに従ってもらいます」
「…ちなみに聞くが、どんな予定だ?」
「えーと、ご飯がすんだら親父にあって1時間くらいおしゃべりでしょ、んで、その後ナースさんたちと1時間くらいおしゃべり、んで1番隊の人たちからマルコへの不満を聞き出してその議論を2時間ほど。そしたらお昼だから、1時間くらいゆっくりランチして、午後から甲板で2時間くらいお昼寝でしょ。んで3時のおやつをサッチに作ってもらって、1時間くらいティータイム。暗くなる前に釣りもいいよね。そのあとは晩ご飯まで部屋でごろごろして、晩ご飯食べて8時にマルコに寝てもらって秘書業終了。完璧!」
「却下だ。」
「えー!昨日一晩考えたのに!」
「つーか8時就寝とかどこのガキだよい」
「白ひげ一家の長男だよい」
「…。今日の予定だ。一度しか言わないからな」



おお、メモメモ!
優秀な秘書ってのを見せつけてやるよい!



「書類集め、書類チェック、書類整理、在庫管理、偵察、隊の奴らの仕事チェック、隊長会議、1番隊の鍛錬、時間空いたら筋トレ、」
「ちょ、ストップ!」
「?」
「それ全部今日の予定?いつもそんなしてんの?」
「いつもじゃねぇが、まあ大体こんな感じだ」



やっばい秘書業なめてたかも。
引きつる私の営業スマイルに、マルコは悪魔の笑顔で答えた。



「しっかり管理してくれよい、自慢の秘書・ミアちゃん」













(あ。ビスタ)
(どわっ!ミア、こんな暗がりで座り込んで何やってるんだ!)
(やっと秘書終わったよ。やっと、解放されたよ…!)
(そんなに大変だったのか?)
(うん…!一日でもうだめ。私、今度からもう少しマルコに優しくするね)
(ははは、アイツはいつも見えない所でしっかり働いてるからな)
(うん、ちょっと見直した!)





| TEXT |




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -