top
name change
3歩下がって歩く




夏島の日差しが暑い。
久しぶりの島に家族のテンションもマックスに上がる。


そして私のテンションもマックスだ。
なぜなら!始めての着物デートであるから…!
夏仕様の着物でも、若干暑い。でもそんなの気にならないくらい気分は上がっている。



「いくか」
「はい!」



差し出された手に自分のそれを乗せて、いざ街へと歩こうとしたところではたと気づきその手を解く。



「どうした?」



振り返ったイゾウさんに、申し訳ない気持ちになる。
でも今日は手をつなげないのだ。
バイブルに、古き良きの女性は男性の3歩後ろを歩くと書いてあったから。



「今日はイゾウさんの3歩後ろを歩きます!」
「…は?」
「それが素敵な女性への一歩って書いてあったので」
「そりゃあ、どこのルールだい」
「ワノ国です。」
「………。」
「?」
「…勝手にしろ」



はあ、と呆れたように溜息を吐き、先を行ってしまうイゾウさんに、遅れをとってはいけないと急いでついていく。
いつもみたいに隣を歩けないのは残念だけど、バイブルに書いてある事は守らなくては。


ぱたぱたとイゾウさんの数歩後をついていく。
顔を合わせないから、必然的に、会話なんてなくなる。


イゾウさんの背中を見ながら歩くのは、なんだか新鮮だ。
振り向くなんて事はしないけど、気配で私が後ろにいる事を感じ取っているのか、ゆっくりと歩調を合わせてくれる。
そんな優しさがくすぐったい。


正直なんで後ろを歩くのか理解は出来ないけど、こういうのもいいかな、なんて思ったのは最初の数分だけ。


いつもなら私の反応を見て足を止めてくれるイゾウさんも、今日ばかりはすたすたと足を進める。
だから、私がショーウインドウのトレンド服に目を奪われていた事も、あのカフェ可愛い!入ってみたい!って目を輝かせていた事も、全く気付かずの素通りだ。
ついには、そのまま振り返る事もせず、武器屋に足を入れてしまった。



「う〜〜〜……!!」



店に入ったイゾウさんに、言いようのない不満が出て来て唸りながら店内へと入る。
店主と何やら話しているイゾウさんを横目に、むすっとしながら武器を見て回るけど、いつもみたいなデートにならないのが気に入らない。


バイブルは基本正しいけど、この3歩下がるはよくわからない。
イゾウさんと会話も楽しめないし、ふたりで笑い合う事も出来ないし、てゆうか顔すら見れないし、手もつなげないし…。
むしろ何も言わず後ろからついていくだけのお付きの人みたい!



「悪ィな。待たせたか?」
「いえ、大丈夫です。」



いつの間に店主と話し終えたのか、後ろから声をかけられ、反射的に問題ないと答える。
問題、大有りだよ、ホントは。



「ミアはどっか行きたいとこねぇのか?」
「…ないです、。」
「そうか。じゃあ、後2箇所行きてぇとこがあるんだが、」
「じゃ、そこ行きましょう!」



心とは裏腹ににっこり笑ってそれに答える。
ばかばかばーか!かわいこぶったっていい事ないぞ、!


案の定、イゾウさんは私のその言葉を聞くと、「悪ィな」と言ってスタスタと先に店を出て元来た道を戻っていく。
確かに、私が後ろからついていくって言ったけど。でも振り返って手を差し伸べてくれないのは、…寂しい。


どうせ見えないからと不満を隠す事なく顔全面に出して、イゾウさんについていく。
イゾウさんの背中を見るのは好きだし、格好いいし、抱きつきたくなるけど。


やっぱ、こんなのデートじゃない。


…ごめんなさい、バイブル。
今日だけ私はその教えに背きます!



「イゾウさんっ!」



前を歩く彼の袖をはしと掴む。
振り返ったイゾウさんは楽しそうな笑みを浮かべていて。



「どうした?」
「あの、やっぱり、隣がいいです、」
「クク、そうか。」



そう言って笑った彼は、袖を掴んだ私の手を取る。
少し強引に重ねられた手に、胸がきゅんとなった。



「あんま、意味ねぇことするなよ」
「ご、ごめんなさい」



何もかもお見通しかぁと肩を落として謝ると、またイゾウさんはクツリと笑う。

そしてそのまま向かった先が、私がさっき見ていたお店とカフェで、やっぱりイゾウさんには私の考えてる事なんて筒抜けか、と再度複雑な思いに駆られることとなった。








(うわぁ、ここのレアチーズ凄く美味しいですよ!)
(よかったな。はしゃいでこぼすなよ)
(零しませんよ。子供じゃないんだから、(むう))
(ならいいが、(…ガキだから口の端についてるのに気付かねぇんだろ))




| TEXT |




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -