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鍛錬



今日は天気もいいので16番隊のみんなと甲板で鍛錬だ。
基本的に戦闘では、私は高いところからの狙撃担当。16番隊を中心に、上から全体を眺めやばそうなところを助けている。
けど、実は接近戦も得意なので、状況によっては、敵と素手で対峙する。

今日は実践形式で組み手をするみたいなのでみんな気合が入っている。
いつも鍛錬では動きやすいシャツなどを着ているが、今日は着物で参加してみた。



「えー、副隊長なんすかその格好」
「やる気あるんすかー?」



口々に文句を言う隊員たちにイゾウさんも口を開く。



「確かになァ。それじゃ動きにくいだろう?」
「でも、最近この格好が多いですし。不測の事態にも備えておこうかなと。それに…」



私は隊員たちに向き直り不敵の笑みを浮かべる。



「これだけのハンデをあげても、私あなたたちに負ける気はしないから」



一瞬の間をあけて、俄然やる気が出てきたらしい隊員たちの雄叫びが響く。


その声に満足したように、イゾウさんは無理すんなよ、と私の頭をぽんぽんと撫でると、適当に隊員達を選び対戦を始めさせた。



「じゃあ、俺は少し外すが、後は頼んだぞ」
「うん、いってらっしゃい」



マルコに用事があるとかで、イゾウさんは少しだけ席を外すらしい。
手を振って見送ると、後ろでワッと大きくなる隊員達の声。どうやら勝負がついたらしい。



「ちょっと、勝負つくの早すぎるんじゃない?」
「んな事言ったって、副隊長。こいつが弱すぎなんすよ」
「ひっでー、善戦だったろ!?」



口喧嘩を始めそうな隊員に、デコピンを1つずつ食らわせて黙らせる。
いでっ!と痛がってこちらを見た隊員に、それぞれの良かった所を教え、直すべき所をアドバイスする。
私だって伊達に副隊長やってるわけじゃない。最近イゾウさんばかりにかまけてたけど、隊員達のコミュニケーションも大事にしなくちゃ。



「じゃあ次は、」
「副隊長と実践がいいっす!」



びしっと手を挙げ名乗り出た隊員は最近入った元気のいい少年。



「別に私は構わないけど、」



ちらりと周りを見渡すと、ニィと悪そうな目の隊員達。
なになになんなの?



「俺達も副隊長とサシがいいっす」
「あんだけ大口叩いて、まさか俺達に負けるのが怖いなんてこたぁないですよね?」



ああ、なるほど。
私がハンデって言ったのが気に食わないのね。


何故か勝つ気満々でいる隊員達に、誰がこの隊の副隊長なのかを再度教えてあげる必要がありそうだ。



「確かに着物で動き辛いし、勝てるかもって浮かれるのは構わないけど、それだけで勝てると思うなんて甘過ぎよ」



にこりと笑って、取り出した紐で素早くたすきがけをする。
くるりと袖を縛り上げた私に、隊員達が驚いた顔したのを満足げに見つめてしまった。
血のにじむようなたすきがけの一人練習が、ようやく実を結んだのだ。
まあ隊員達にはそんな事関係ないので、この喜びはしっかりと胸の中にだけしまっておく。



「ハンデついでに、足技は使わないであげる」



煽られた隊員達はやる気満々。
足をぎりぎりまで広げて、歩幅の確認をする。窮屈だけど、これはこれで私のいい鍛錬になるかもしれない。


さて、鍛錬開始!


顔の前でちょいちょいと指を動かして、新入りを挑発すると、単純にも前から殴り掛かって来たのでそれを横にずれて交わす。



「挑発されたからって素直に前から攻撃しない。覇気使わなくても攻撃読めるわよ!」



避けながら、彼の活かしきれなかった勢いに追い打ちをかけるように後ろから殴り飛ばす。がっしゃーんと大きな音を立てて積み上がった箱につっこんだ隊員を横目に「次!」と声を張り上げれば、別の隊員が前に出る。



「ハンデとか言って、ただ足技使えないだけっしょ!」
「甘いわ、よっ!」



少しは頭を使ったのか、体勢を落として足を回しながら、私の足を払おうとしてくる。
けど、私も負けじと体勢を低くして振り切られる足を腕で止める。少し腕が痛んだけど、なんて事ない。そのまま腕を振り上げてやると、あっけなくも隊員は尻餅をついた。



「二手三手先まで考えてから行動しなきゃだめよ。次っ!」



一言二言隊員達にアドバイスをしながら、相手をしていく。
皆強くなっているとは思うけど、まだまだ隙が多い。


最後の一人を投げ飛ばして、ふう、と息を吐く。
垂れる汗に動きにくい身体。着物って着る枚数が多いからいつもよりも身体が火照る。
隊員達の鍛錬に付き合うくらいなら問題ないけど、流石に着物での戦闘になると、少し支障が出そうだ。



「なぁに?もう終わり?」
「ちょっと、休憩…!副隊長強すぎっす」
「そりゃ、あなた達の副隊長ですから」
「ちくしょー、今日こそ勝てると思ったのに!」
「ふふふ、精進しなさい」



ぐてーっと甲板に四肢を投げ出す隊員達に笑みが漏れる。
けどふと後ろから殺気を感じて、瞬間的に身体を反らした。
少し遅かったか、誰かの足が私の身体をかすめる。まさか敵じゃないだろうけど、と念のため犯人の顔を確認して驚いた。



「エースっ!」
「俺も混ぜろよ!」



にっと笑って戦闘態勢に入るエースに焦る私。
流石に着物着て隊長を相手に出来る程私はうぬぼれてはいない。



「ちょ、エース待ってって!」
「待ったナシっ!」
「ど、わっ!!」



本気で私がエースの相手になると思ってんの!?
容赦なく飛んで来た拳を寸での所で交わす。



「エース隊長がんばってくださーい!」
「俺達の無念晴らしてくださいねー!」
「おう、まかせとけ!」
「ちょ、あんたらどっちの味方なの!?」



横から聞こえて来た声援に耳を疑う。
ちらりと見たら、さっきまで甲板で伸びてた自隊の隊員達がエースの応援中で。うっかり素でつっこんでしまった。


次々と出される拳や足をぎりぎりでかわす。
歩幅が小さいから、上手く反撃も出来ない。だんだんと追いつめられて、ちらりと後ろに目をやった瞬間油断して足を払われた。



「わ、!…ぶない、」



よろけたけど間一髪の所で体勢を立て直す。

やばい、このままじゃ負ける。

別に最初からエースに勝てるなんて思ってないけど、試しもせずに負けてしまうなんて嫌だ。しかも隊員達の前で。



「ミアは反撃しねぇのか?」
「後悔しないでよっ!」



余裕の表情でそう問いかけてくるエースに闘争心を燃やされる。
イゾウさんもいないし、ちょっとくらい羽目を外してもいいだろう。
着物の上前を掴み、サイドへと思いっきりずらす。そのまま下前と襦袢も同様にサイドにずらした。

急にあらわになった足にエースのぎょっとした顔が映る。
未だ動きにくさは残るものの、歩幅に制限がなくなったので動きは早くなる。



「エース、覚悟してね!」



強気に笑って、今度はこちらから仕掛ける。
甲板に手をつき、動くようになった足で思いっきり回し蹴りをする。元々私は手技よりも足技の方が得意だ。チリ、とエースの身体にかするのを感じたけど、上手く避けられたようだ。そのまま身体を動かして、2発目、3発目と入れていく。



「ちょ、ミア、待てって!」



避けながらそう訴えるエースは先程までの私と一緒。
相手してほしかったはずなのに、何で今更ストップかけるの?と疑問に思うけど、頬を染めたたじたじのエースの顔を見て納得。エースも可愛い所あるじゃない。



「エース顔赤いわよ?」
「ばっ!そりゃお前が、!」



攻めつつも意地悪にそう言うと、エースは更に焦った表情になる。追い打ちのように、エースに見えるように足を回すと、あっけなくもそれにあったって甲板の端に吹っ飛んだ。


大の字になるエースに近付き、にっこりとピースサインを作る。



「1本取ったから、私の勝ちね!」
「ずりぃぞお前」
「海賊にずるいはありません!」
「ちくしょー」
「私代わりに2番隊の隊長になった方がいいかなぁ」
「油断しただけだっつーの」
「下心ありありの油断ね」
「うっせー純情ぶりやがって今時白なんか着る女いねぇよ」
「残念これは水着でした!」



ぶうたれるエースに、ちらりと着物の裾を捲って中を見せる。
こんなときのために、一応中には水着を着ているのだ。海に落ちたら脱げばいいし、こんな風に戦闘になったら最悪水着で戦う。着物よりは戦い易いと思うし。最悪の事態で本当に着物が邪魔になったとして、下着姿で戦うなんてヤだもんね。

私の水着を確認したエースはまたほんのりと頬を染める。
普通に水着を着て泳いだり遊んだりしてるときは何ともないのに、何でこういうときだけ恥ずかしがるんだろう。ちらって見えるのがいけないのかな。男の子って色々あるんだなー。

そんなこんなで色々考えていたら、背後から静かな声が聞こえて来て、つられるように振り返った。



「…お楽しみの中悪ィな。」
「イゾウさんっ!」



もう用事はすんだんだ、とぱあと笑顔になって駆け寄ろうとしたけど、着物がはだけている事を思い出して急いでそれを直す。自分でやった事だし、無理矢理直したからあまり綺麗には見えないけど、はだけたままよりはマシだ。



「お、おかえりなさい!」
「…ミア、鍛錬中のはずだよな?」
「?はい、そうですけど」
「16番隊の鍛錬にエースがいるのは何故だ?」
「あ、皆と実践した後に急にエースが参加して来て、それで隊員の休憩も必要かなと思ってそのまま相手しちゃいました」



元気に報告するけど、イゾウさんは静かにそれを聞いているだけ。
しかも何か、機嫌悪い?
ちらりとイゾウさんの後ろにいる隊員達を見ると、なんか青ざめてて首を左右に振ったり手でバツ印を作ったりしている。
やっぱり。イゾウさん、機嫌が悪いんだな。
何か楽しい話題で元気づけてあげられないかな、。
そう思って「あ!」と閃く。



「イゾウさん、聞いてください!私エースに勝ったんですよ!」



隊長達に一度だって勝てた事のない私だから、嬉しくてにこにこと笑って報告する。
後ろの隊員達があちゃーって顔をしているのが視界の端に見えて、イゾウさんに目を向けながらも疑問符を浮かべる。
自隊の副隊長が他隊の隊長にまぐれでも勝ったんだから、これって嬉しいニュースじゃない?



「知ってる。見てたからな」
「え、見てたんですか!?」
「お前さん、本当にエースに勝ったって思ってんのか?」
「え?」
「…はしたない女は、好かねぇな」



イゾウさんはそれだけ言って、私を見もせず背を向けて歩き出す。



「???」



なんで?
怒ってたの?私に?



イゾウさんはそのまま隊員達に鍛錬は終わりだと告げて船内へと戻ってしまった。
私はというと、その場から一歩も動けずにただ呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。





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