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「ローのあほったれー!!」



ソファにだらしなく座るローを睨みつけ、力の限り叫んでドアへと走る。
ドアノブに手をかけて、「やった!」と喜んだのも束の間、二度と聞きたくないと思えるくらい聞き飽きたフレーズが耳に入った。



「シャンブルズ」
「ふぎゃ、!」



瞬間的に目の前が暗くなり、気付いたらローの腕の中。



「ミア…、楽しいか?」
「……楽しいわけないでしょ」



先程までいたドアの周りにはローの医学書がこれでもかと言う程散らばっている。
ペンギンと約束した鍛錬の時間は30分程前。約束の時間になる前からずーーーーっとローの部屋から出ようと頑張ってるんだけど、何を考えているのかローはそれをさせてくれない。おかげでペンギンとの約束をすっぽかしてしまっている。律儀なペンギンだから、きっとまだ待ってくれているだろう。

バチンとローの手をはねのけ、ソファから立ち上がる。
このやり取りももう何度目だろうか。



「もう!いい加減にしてよね!」



またローを人睨みして、今度こそ部屋から出るためにドアに向かう。



「シャンブルズ」
「むきゃ、!」



だけど、ドアノブに手をかける直前に再びあの感覚に襲われた。
そして気がつくとまたローの腕の中。
ドアの周りには新たに本が落ちている。
あの本の山と私が“交換”されたのは、これで何十回目か。溜息がでる。



「…こんなことして楽しいわけ?」
「ああ、楽しい」



ニヤリと笑うローにカチンとくる。
私の腰を抱いていた腕を乱暴に払いのけるけど、ローの余裕の表情は変わらずそこにあって、それが更に私の機嫌を悪くする。



「悪趣味」
「褒め言葉か?」
「大体、能力使うと体力消耗するんじゃないの?こんなのに体力使うなんて馬鹿みたい」
「どこでどう俺の能力を使おうが、俺の勝手だろう」



凝りもせず私の腰を抱こうとしたローの手を叩き落として、ソファから立ち上がった。



「能力がないと私を止める事も出来ないくせに、偉そうにしないでよね!」



フンッと顔を背けて、私も懲りずにドアへと向かう。
どうせまたあの忌々しい能力で連れ戻されるに決まってる。
だけど、負けを認めるのは癪だから、こうやって何度でもドアノブに手をかけるんだ。


半ば諦めて手をかけたドアノブがかちゃりと回って、あ、と驚く。
視界がぶれる事なくあっけなく開いたドアに、どきりとしつつも、後ろを向いてローを確認するなんて馬鹿な真似したくないから、そのまま自分の方へとドアを引く。
あとは外に出るだけ。こんな馬鹿男なんてほっておいて、さっさとペンギンの所に行って遅れた事を謝って鍛錬に付き合ってもらおう。
そう気持ちを切り替えて、勢い良く引いたドアが予想と反してバタンと大きな音を鳴らして閉められる。



「…!」



無理矢理閉められたドアに、ドアノブに置いていた手が少しだけ衝撃を受けて痛む。
目の前のドアを見つめながら、急に響いた大きな音にどきばくとなる心臓を落ち着かせようと痛んだ手をきゅっと握りしめた。

さっきまでソファで怠そうに座っていたのに、そのローが今私の真後ろにいる。
証拠に、見知った刺青が私の頭の上から伸びてドアを押さえつけている。



「能力がないと、なんだって?」



私の頭上、息がかかるくらいの距離で、問いかけられた。
いつもより低めの声に、あれ地雷踏んじゃった?とギクリとする。



「誰が、お前を止められないって?」



するりとローの片手が私の腰をなで、ゆっくりと私を腕の中に閉じ込める。
また、ローの腕の中に戻ってしまった、。けど、今度は1ミリも動けない。

ローの息が髪にかかって、全神経がそこに集中する。



「出て行きたいなら、ドアは目の前だ」



そんなこと、知ってる。
出来るもんならやってみろ、とでも言うような言い方に無条件で反抗したくなる。
簡単だ。さっきみたいにローの手を振り払って出て行けばいい。



けど。
ずるいよロー。



怒ってるかと見上げたのに、目に映ったのは優しく笑うローで。



「……やっぱりローと一緒にいる、」
「懸命な判断だな」



口元を上げたローは、ドアを押さえていた手で私の前髪をかきあげて、額に触れるだけのキスをした。









(あとで一緒にペンギンに謝ってね)
(断る)
(なっ、ひどい!ローのせいなのに)
(人のせいにするな)
(……。)
(なんだ)
(べつに…。てか何でローは私が行くの止めたの?)
(…べつに。気分だ)
(ふーん。ホントは離れたくなかったからだったりして!)
(……)
(………え?(え!?))




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