勇気0%
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最後に会ったのはいつだっただろう。
偶然にもその船を見つけて、ごく当たり前のように小船を寄せて甲板へと飛び乗った。
「よ!みんな、久しぶり!」
手を上げて挨拶をすると、一瞬の間をおいて驚きが入り混じった叫びが聞こえる。
みんなと会うのは2年ぶりだ。そして、彼と会うのも2年ぶりとなる。
久しぶりの再会に、ひとりひとり挨拶をして、最後に甲板の向こうに立っている彼の元へと向かった。
「久しぶり、ドレーク」
「久しぶりだな、ミア。俺を捕まえにきたのか?」
「まさか。最近大物捕まえたばかりだから、お金には困ってないの」
「そうか。変わらずだな」
「あなたもね」
今私とドレークとの間にある距離がこの2年間で出来た距離なのか。
近くて遠く感じるそれに少しだけ違和感を覚える。
相変わらずも落ち着いた物言いのドレークは、2年前に被っていた帽子もなくて違った人に見えた。隠されることない髪に、無意識に手を伸ばしそうになったけど、はっとしてすぐに引っ込める。
賞金稼ぎの私は、2年前、ドレークの首を取ろうと何度も仕掛けた。
躍起になればなるほどドレークに軽くあしらわれているのがわかって、悔しくて余計に彼に執着していたのを覚えてる。
そのうちに船員とは顔なじみになって、ドレークともよく話すようになった。
要するに、賞金稼ぎなのに、海賊と仲良くなってしまったのだ。
そして彼らが新世界に行く前、一度だけドレークに一緒に来ないか、と誘われた。
海賊と賞金稼ぎという関係は崩れてはいなかったけど、正直、その頃には男女のそれに近い関係になっていた、と思う。
だけど私は腐っても賞金稼ぎ。海賊と馴れ合うべきではないし、海賊になりたいとも思わなかった。
だから、その誘いを断った。
それから2年。
誰にも負けないくらい強くなって、私も新世界に入った。
捕まえる賞金首の額も跳ね上がったから、特にお金に困ることもない。
「…ドレークでもさ、マーメイドカフェとか行くの?」
「魚人島のか?」
久しぶりの会話としては、失敗したと思う。
けど、私が魚人島に行った時に、「男の夢」とまで言われたそこにドレークも行ったのかなぁって思ったら、なんか嫌な気分になった。だからちょっとだけ、聞いておきたかったのだ。
「まあ、行かないと言ったら、嘘になるが…」
「………そっか、。」
ドレークも好きなのか。マーメイド。
私にショックを受ける権利なんてないけど、沈んでしまった心は仕方ない。
離れてみてからわかったけど、私は、この2年間、何かあるたびにドレークのことを思い出してた。
その度に、どうしてるかな、会いたいな、って思う心は止められなくて、「あの時ついていってれば」って何度も後悔した。
好きだったみたいだ。
ドレークのことが。
「ドレーク、」
「ん?」
「わたしね、あの時、…」
あなたについていけばよかった。
もう、遅いかな、。
「ううん、やっぱりなんでもない!」
明るく笑ってドレークを見上げる。
2年も経てば人は変わる。変わっていないのは私だけ。
「わたし、もう行くね!」
2年ぶりの再会。
やっと会えた。夢でしか会えなかった人。
それを自分から終わりにしようとしてるなんて、なんて馬鹿なの。
くるりと背を向け、自分の船へと向かう。
甲板をゆっくりと横切る。
背中に彼の視線が突き刺さる。
お願いドレーク、引き止めて。
震える足がゆっくりと前へ進む。私の船まであと少し、。
「ミア」
ドキリと心臓が跳ねて、即座にくるりと振り返る。
「なっ、なに?」
「…いや、なんでもない」
そう言って困ったようにふわりと向けられた笑顔は、私が知っている2年前のそれと変わらない。
胸が締め付けられるように切なくなる。
「ん、そっか。じゃ、またね!」
やっぱり、もう一度誘ってくれるなんて、夢物語だよね。
今出来る精一杯の笑顔で「ばいばい」と手を振って自分の船に降り立つ。
少しでも彼の中に私が残ってくれるといい。
私、上手く笑えてたかな?
振り返ってもう一度あなたを見ることなんて出来ない。
泣いてるなんて思われたくなくて、頬をぬぐうことも出来ず船を出した後もしばらくは前だけ一点を見つめていた。
(………船長。いっちゃいましたよ…)
(…そうだな)
(また繰り返しっすか?後悔しますよー)
(……チッ、)
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